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3 緊急会議




城の2階にある会議スペースに各所の長が招集されていた。

最後に部屋に入ってきたルーズベルト国王が中央の席について口を開く。


「皆もう聞き及んでいるかと思うが、先ほどこの城にドラゴンが現れた。まずはその時の状況と被害報告をしてほしい」


国王の言葉を受け、部屋の末席に座っていた騎士が立ち上がる。


「ルーファス殿下、お願いします」


ルーファスは立ち上がって一礼すると、ドラゴンを発見してから撃退するまでの一部始終を説明した。

エミリーの魔法のことを除いて・・・。

皆一様にルーファスとレン王子の勇敢さを褒め称えているが、その中で一人だけ鋭い目つきでレン王子を見据える老人がいた。

この国の神官長にして魔導士国際機関カナスの会長を務めるダグラス・エスモーだ。


「レン王子・・・消滅魔法を使ったな」


その言葉に一瞬で部屋が静まり返る。

ダグラスは長い髭を撫でながらにこやかな表情で話しているが、皆の顔は引きつっていた。


「消滅魔法は禁忌魔法の一つだということは知っておろう?」


物質を消滅させる消滅魔法は古代魔法の一つで、600年前に禁忌魔法に指定されてからは現代の魔導書には載っていない。

危険な古代魔法が載っている魔導書はカナスの政策によって50年前に全て焼き払ったはずだが、密かに隠し持っている者もいるだろう。

特に他国の王族ともなれば。


「すみません。咄嗟のことで使ってしまいました。しかし、今回が初めてです」


レン王子は焦った素振りも見せずにじっとダグラスを見返す。


「ほう・・・・」


物質の存在を無くす消滅魔法は高度な魔法だ。


(このような若造に習得出来るじゃろうか・・・)


しかも結界を消すとなると通常の消滅魔法では難しい。

ダグラスが消滅魔法を文献で目にしたのは20代の頃だったが、その頃の自分では到底理解出来なかったように思う。


(まぁ、わしは習得しようとも思わんかったが・・・)

「今回はやむを得ぬが・・・消滅魔法は危険じゃ。対象物だけではなく周りを巻き込む恐れもある。消されたものがどこへ行くかも分からんしな・・・」


それを聞いたレン王子の背筋に冷たいものが走った。

もしもエミリーやルーファスが一緒に消えてしまっていたら・・・

想像するだけでもゾッとする。


「レン王子、今後はいかなる場合も消滅魔法を使うことを禁ずる」

「はい・・・・」


ダグラスの厳命はこの国だけでなく、魔導士国際機関カナスに加盟している全ての国で適応される。



会議が終了して国王とダグラスが退出すると、各所の長たちも席を立った。

レン王子は何か考え事をしているのか、ただ一人立ち上がろうとしない。

それを見たルーファスがレン王子に声をかけた。


「神官長はああ言っていたが、あの魔法で我々は助かった。感謝する」


ルーファスがレン王子に向かって頭を下げると、その場にいた者たちも自ずと謝意を述べて頭を下げた。







「レオナルド騎士団長!」


呼び止められたレオナルドが振り返ると、茶髪坊主のサイドに2本のラインが入ったイカつい男が立っていた。


「ゼット兵士団長か、どうした」

「さっきの会議で、ドラゴンの討伐隊を騎士団で編成するって言ってただろ」

「あぁ。そうだな」

「・・・そこに一人、入れて欲しい奴がいる」


それを聞いたレオナルドが一瞬眉をひそめる。

知り合って30年程になるが、ゼットはこういう頼み事をする男ではない。


「訳ありか?」

「そうだ・・・16年前のな・・・」

「そうか、わかった。一人くらいならなんとかしよう」

「・・・いいのか?」

「問題ない。実力はあるんだろう?」

「あぁ。そこは俺が保証する」


その返答を聞くとレオナルドは踵を返してその場を後にした。







ルーズベルトとダグラスは庭園の地面に空いた大穴を覗き込んでいた。

あの男を幽閉していた地下牢が粉々に吹き飛んでいる。


「まさかあの封印魔法を破られるとはのう」


ダグラスはバラバラになった鉄格子を魔法で空中に浮かべ、刻まれている古代文字を確認していた。


「ドラゴンがあの者を助けに来たのでしょうか?」


後ろに控えていた神官がダグラスに問いかける。


「いや、ドラゴンの血は本来なら深緑のはずだが、このドラゴンの血は赤い。あの者が変身魔法でドラゴンになって脱獄した可能性が高いだろう」


ダグラスの代わりにルーズベルトが答えた。


「陛下、すみません。勉強不足でした」


慌てて神官が頭を下げる。


「よい。この国ではドラゴンについて知ることはいいことではない」


ドラゴンは古代魔法の祖先とも言われており、この国では禁忌魔法を創造した邪悪な存在として忌み嫌われる存在だ。

ドラゴンについて書かれた本は輸入規制の対象となっている。


「生きているとは思えませんね。左胸を貫いたようですし」

「まさか結界が消されるとは思ってもみなかったじゃろうな。わしもあの結界には手も足も出んかったからのう。まったくあの小僧やってくれおったわい」


ダグラスは機嫌が良さそうに髭を撫でた。







「会議、お疲れ様でした」


部屋に戻ったレン王子は声をかけてきたテヒトの前を通り過ぎると、どかっと長椅子に座った。


「疲れた・・・・風呂に入る」

「準備出来ております」


砂をある程度払い落としてから会議に臨んだが、髪の中にはまだ砂が残っている。

レン王子が髪紐を外すとテヒトがそれを受け取った。


「お怪我はありませんか?」

「あぁ。上位魔法が来た時は死ぬかと思ったけどな」

「・・・申し訳ありませんでした」

「助かったからいい・・・。お前より頼りになる奴がいたしな」

「えっ?」


テヒトが不安そうな顔でレン王子を見返す。


「エミリー王女が魔法士だった」

「エミリー・・・えぇ?!そんな情報はなかったですが!」

「この事は誰も知らないらしい。ルーファス王子もさっき知ったそうだ」

「エンディーネの王族に魔法士の家系はいないはずです・・・」

「まぁ、稀に突発型の魔法士もいるしな」


魔法士は遺伝型が普通だが、突発型と言って非魔法士から魔法士が産まれることがある。


「魔法士はカナスに加入する義務がありますし、このまま黙っておくのはどうかと思いますが・・・」

「他国のことだ。知らなかったことにしておく」

「・・・かしこまりました」




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