プロローグ
エンディーネ王国ラスール城
豪華なシャンデリアが垂れ下がる広間で、給仕たちがメインディッシュを運んでいた。
上座に座るエンディーネ王国の国王、ルーズベルトが優雅な手つきで鴨肉にナイフを入れる。
彼の右側には第一王子ルーファス、左側には王妃レオナ、第二王子ロバート、王女エミリーが座り、皆会話もせずにディナーを味わっていた。
そんな空気に居た堪れなくなったロバートが食事の手を止めてレオナに体を向ける。
「母上、今日の剣技の試験で5段になりました」
「まぁ!すごいじゃない!ロバートは昔から剣技の才能があるものね!ねぇ、あなた!」
レオナが頬を上気させてルーズベルトに同調を求める。
彼女のそんな素振りを正面から見ていたルーファスは、心の中で深いため息をついた。
「あぁ。よくやった。これからも励みなさい」
ルーズベルトはロバートに言葉をかけた後、おもむろにルーファスの方を向く。
「そういえば・・・ルーファスも弓術の試験だったのではないか?」
ルーファスは(わざわざ話題に出さなくてもいいだろう)と心の中で呟くが、そんな思いを顔には出さずに答える。
「えぇ。9段になりました」
「すごいですね兄上!19歳で弓術9段はレオナルド騎士団長と同じ記録じゃないですか!」
興奮して思わず立ち上がったロバートだったが、レオナが嗜めるような視線を送ると、気まずそうにゆっくりと腰を下ろした。
「レオナルドに教えを乞うてるんだから当たり前だ」
ルーファスの中では大したことではないし、これ以上この話題を広げるつもりもない。
そんな思いを知ってか知らずか、エミリーが無邪気な笑顔を向ける。
「すごいですお兄様!昇格おめでとうございます!」
「あぁ・・・ありがとう」
食事を終えて部屋に戻ったルーファスは、首のカフスを外して天井を仰いだ。
(いつまでこんな家族ごっこを続けるんだ・・・)
黒く艶のある髪を掻き上げて机に向かうと、そこにある一本の白銀の矢を指でなぞった。
(あの時これがあれば、運命は変わっていたのかもしれないな・・・)
数ヶ月後
ラナ王国ラシュワ領
教会の中庭に突如大きな魔法陣が展開された。
魔法陣の外側に整列した信徒たちが両肘を上げ、長い裾で顔を隠して頭を垂れる。
すると、魔法陣の中央に豪奢な黒塗りの馬車が2台出現した。
そのうちのラナ王族のエンブレムが施された馬車から、グレーの長着を纏った従者が降りてくると、信徒たちはさらに気を引き締めた。
従者の次に馬車の中から姿を現したのは、淡いブルーの長着の青年だ。
その青年を視界に捉えた年長の信徒がすかさず走り寄って地面に片膝をつく。
「レン王子、お待ちしておりました」
レン王子が膝をついた信徒に立つように促す。
信徒は一礼して立ち上がると「はっ」と息を呑んだ。
白銀の長い髪をサイドで結ったレン王子は中性的な顔立ちと体躯で、男性でも見惚れてしまうほどの美しさだった。
レン王子の従者が、フリーズした信徒の肩を叩いて彼の意識をこの場に戻す。
「中に案内してくれ」
「は、はい。失礼しました。こちらです」
レン王子と筆頭従者のテヒトは出された紅茶を飲みながら、エンディーネ王国ラスール城までの道のりを地図で確認していた。
「今日中にエンディーネとの国境を超えて、そこからは3日でラスール城に到着予定です」
「ラスール城まで転移出来たら楽なんだがな」
「いやいや、いきなり隣国の一行が城に出現したら大事でしょう!しかもエンディーネは魔法に批判的な国ですから。まぁ、あれだけ魔法士が少ないと仕方ない事ですけど・・・」
「よかったのか?俺のような魔法士が成人の儀に参列して」
「大丈夫でしょう。ラスール城にはダグラス様がいらっしゃいますから、警備に抜かりはないでしょうし。国際法でエンディーネ国内での魔法の使用も禁止されていますしね」
「あのジジイ、まだ生きてるのか」
「ちょっ!昨年もお会いしたじゃないですか!」
「はっ。覚えてない」
レン王子は興味がなさそうに紅茶をすすった。