海
三題噺もどき―よんひゃくよんじゅうろく。
真白な光が、あたり一面広がっていた。
目の奥が痛む程に眩しいそれは、太陽の光だった。
しかしその眩しさとは裏腹に、肌を刺すほどの強さはなかった。
ただひたすらに、眩しく、柔く、暖かなものだった。
縋るものを拒まず、伸べられる救いのようだ。
このままこの光に包まれていたいなんて、らしくもないことを思った。
「……」
鼓膜を叩く音も心地のいいモノだ。
涼やかな、流れるような優しい音。
よくヒーリング効果のあるものとして聞くことがあるが、なるほどと納得した。
穏やかな海とは、こんなにも美しい音が流れるのかと思わず聞きほれてしまう。
あれに安心を求めたことがあまりなかったが、母なる海とはよく言ったものだ。
「……」
ただひたすらに。
温かな光の中で。
穏やかな海の元で。
ぼうっとしているだけ。
「……」
それだけのことなのに。
こんなにも心落ち着くものなのかと。
内心驚いても居るのだが。
人間とは案外単純なんだろうなぁ。
それが出来ないと言うだけであって、やってしまえばもっと楽に楽しく人生生きていけるんだろう。こんな風に。
「……」
時折、頬を撫でるように小さく風が吹く。
その度に、波は引き、つられて砂も引いていく。
足の裏は少々くすぐったく思えるが、それもまた心地よく感じる。
「……」
波打ち際に居るはずなのに。
不思議と水は被らない。
ギリギリの位置に立っているからだろうか。
飛沫すらかからないのは疑問だけれど。
「……」
このままここで。
何時間でも。
過ごしていたい。
「……」
けれど。
どうして。
わたしは。
こんな。
ところに。
「……?
突然、足元が。
濡れた。
ざぁぁぁぁぁ――――!!!!
「――!」
突然、ノイズのような音が響いた。
足元まで波が押し寄せ、冷たい海が足首まで覆った。
砂地とは言え、海に持っていかれることなどない。
「――」
その、はずなのに。
「――」
波がひくのと同時に、足を海に取られ。
思わず後ろに倒れ込む。
しりもちをつき、べしゃりと濡れた。
「――」
もう一度寄せた波に、また足を取られ。
海に引きずり込まれていく。
思わず、上半身をくるりと回し、体が濡れるにも構わず、何かに捕まろうと手を伸ばした。
「――」
しかし、ここには。
何もない。
光と。海と。私。
ただそれしかない。
「――」
海に呑まれるのなら。
それに逆らう方法などない。
光に縋ろうとも。
それは伸ばしてはくれない。
「――」
ひっかくのは、水にぬれて、共に飲まれる砂の塊だけ。
ノイズのような音が鼓膜を叩き。
その度に体は引きずり込まれ。
「――」
ごぽ―
終いには海の奥へと。
届かない声は泡となって消えていき。
届かない掌は海をかくだけに終わり。
私は何も出来ないままに。
海に呑まれるだけ。
「――っは」
肺の空気を吐き出すように息がこぼれる。
ドクドクと心臓が脈打ち、ズキズキと頭が痛む。
冷えた指先がカタカタと震えていた。
「――」
変な夢ばかり見る。
嫌な夢ばかり見る。
あれもこれも。
アイツらのせいだ。
助けてもくれないくせに。
しっかりと爪跡だけは残していきやがって。
お題:白・海・届かない