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カタストロフィ・メシア  作者: 汐海朔夜
一章『出会いと始まり』
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八話・絶望への抗い

──バンッ!


 アジトの扉が勢いよく開かれ、暗黒蓮華機関の手先たちが次々と足音を立てて侵入してきた。


 その数は相当なもので、アジトの広い廊下に影が広がっていく。


「くっ、数が多いな……皆、行けッ!」


 メシアの掛け声によって、残りの仲間たちも戦い始める。


「こいつら、なかなか手ごわい。どこまでがガチで、どこまでが探りか分からない」

「気を引き締めて。おそらくこいつらは指導者が来る前の時間稼ぎをする、ただの下っ端だ」

「つまり雑魚ってこと? ……けど、量が多いよぉ」


 奇襲によってアジトを占拠されたことで、〈HEAVENS(ヘヴンズ)〉は防戦一方になっていた。


 そんな中で、メシアが今まで培ってきた戦闘での勘が警鐘を鳴らしていた。


 メシアは大軍の奥を、ただ見つめる。


「……ここがお前たちの墓場だ。姫壊メシア、お前だけは生かし、私が連れて行く」


 そんな状況で下っ端達の奥、メシアが見つめる先から現れたのは、先程の重力と魔吸を操る一級魔術師を遥かに凌ぐ存在感を持つ男だった。


「……先程の男よりも強いな。ふぅ……全員、覚悟を決めろ! この戦いが、〈HEAVENS(ヘヴンズ)〉の運命を左右するだろうからな!」


 メシアの鼓舞に合わせて、仲間たちは新たな敵に立ち向かう覚悟を固めていく。


「皆。彼には手を出させないように。私が引き受けよう」

心配(アングザイエティ)。マスター、でも…」

「他の仲間たちも守っていてくれ。……それが、私の頼みだよ」


 メシアが団員たちに笑ってみせると、アジトの奥から現れた一級魔術師もまた動き出した。


「一級魔術師の冥煌リュウだ。姫壊メシア。お前を我が組織に取り戻すぞ」

「組織に戻す? この身はもう、お前たちの支配を受けはしないさ」


 メシアは闘志に満ちた瞳で一級魔術師の冥煌リュウを見つめ、その瞬間、戦いの火蓮が燃え上がった。


 戦いが始まると同時に、アジト内は激しい魔法と銃弾のぶつかり合いの音に包まれた。キョウトとサクラ、アインも各々が手分けして数多くの下級の敵と対峙していた。


 一方で、メシアはリュウとの激しい魔法戦を繰り広げていた。


「【魔弾装填(セット)】──【発砲(ファイア)】っ!」


 彼女が放つ魔力で創られた弾丸は、強力な衝撃波を伴ってリュウの防御を崩す。


 しかし、その反撃も容赦なく応じてきた。


「……なぁ、姫壊。私は自身を強い思っているが、貴様からも私に引けを取らない力を感じるな。……どこで得たのだ?」

「さぁ……ね!」


 問いを誤魔化すメシアを前に、リュウはより強力な魔術を放つ。


「【冥府よりの閃光を放て(アビスフラッシュ)】!」


 暗黒のエネルギーがメシアに放たれ、アジト内の空間が歪み、その衝撃に吹き飛ばされる。


 だが、それでもメシアはその場に倒れずに立ち上がり、より強力な魔法を構えた。


「……【天翔ける光炎を纏え(セレスティアルフレア)】!」


 これは光と炎の複合魔術であり、アジト内に明るい輝きをもたらしてゆく。


 凄腕であるリュウもその威力に押し戻され、攻勢を強制的に止められた。


「くっ……さすがは〈HEAVENS(ヘヴンズ)〉の首魁といったところか。なかなか手ごわいな……だが、私の真の力を知るべきだ。【絶望の淵に満たされよ(デスペアエッジ)】!」


 リュウの強力な一撃がアジト内に轟き、空間そのものが揺れ動く。メシアもその威力に押し戻されるものの、それでもなお立ち上がる。


 その目に、諦めの心はなかった。


「……これが私の力だッ! 【禁忌の一撃をここに(アビサルショット)】!」


 彼女が自動拳銃の銃弾に魔力を込めて発砲した銃撃は、リュウに向かってゆく。


 しかし、リュウはその攻撃を巧みに避けながら反撃してきた。


「姫壊メシア、君の力は確かに強大だが、このままでは終わらせるわけにはいかない。諦めて、我が組織の被験体に戻れ!」

「断る。先程も言ったが、私はもうお前たちの支配下に戻るつもりはない!」


 何の迷いもなく断言したメシアにリュウは苦笑し、再び強力な魔術を放つ。


「【冥府よりの閃光を放て(アビスフラッシュ)】!」


 以前と同じ技を使い、アジト内に異次元のエネルギーが放たれる。


 しかし、メシアは抵抗しながら、自身の魔力を集結させて反撃に移る。


「【奈落の焔よ(アビスフレイム)】」


 彼女の放った炎が【冥府よりの閃光を放て(アビスフラッシュ)】と交錯し、キラキラと煌めいた。


 メシアとこのリュウの強さは互角に近く、【冥府よりの閃光を放て(アビスフラッシュ)】と【奈落の焔よ(アビスフレイム)】が衝突し続けている。


応援(アシスト)! マスター、やっちゃってください!」


 アインの励ましが、メシアに聞こえた。


 メシアは別にまだ、アインと中がいいというわけではない。というか、始めて会ったのは昨日だ。


 この場所に連れてきたのも、気まぐれに過ぎない。


 だが、その筈なのに、何故か今の応援を聞いたメシアの脳裏には。


 以前、あの施設に一緒に居た親友の顔が浮かび──


「──【輝ける破壊を創り出せ(デストロイブライト)】!」


 メシアの新たな魔術が放たれ、リュウの魔術を打ち消してゆく。


「なっ、これが……これこそが、お前の真の力かッ!」


 リュウも、その力に驚きを隠せない様子だった。


「はあぁぁああああああああああああああ──ッ!」


 メシアの声と共に破壊の光が増幅していき。


 次の瞬間には、決着がついていた。


 ……床に倒れ伏し絶命したリュウと、未だ生きたまま立っているメシア。


 この戦いの勝者は、姫壊メシアだった。

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