三話・メシアと風呂
「──というわけで、連れてきた」
「挨拶。始めまして、当機は"アイン"と申します」
〈HEAVENS〉のアジトにて。
廃墟に行ったメシアは、取り敢えずロボ娘もといアインとやらにボロボロの布を着せて連れてきていた。
「ええっと……姫様? 彼女は……その、ロボット、なのですか?」
「そのようだな」
「マジですかっ!?」
「え、ガチで人間じゃないの!?」
「うっわ、完全に現代の技術じゃねぇ……」
困惑している〈HEAVENS〉の部下達。……いや、妥当な反応なのだけれど。
「え、ちょっと身体を触ってみても……」
「拒絶。お断りします」
「ぐふっ!?」
アインにさらっと触れることを拒否された一人の男は、吐血したような声を出して崩れた。
「あいつの好みって確か……」
「ああ、ロボ娘だったと思うぞ」
「可哀想に……面白い有様だけど」
団員達はその男を哀れむような、愉しむような眼差しをおくる。
「……私の〈HEAVENS〉は、ポンコツの集まりだったのか?」
「不明。当機には良くわかりません」
メシアはそんな団員にジト目をし、アインは不思議そうに首を傾げる。
「補足。マスターは当機の身体に触っても良いですよ?」
「別に触らなくてもいい」
「不満。当機の何が嫌なのですか?」
「嫌なのはこのポンコツ集団だ」
未だにワチャワチャと、アインというロボ娘の話をしている団員達を指差すメシア。
「……アインのことを話せたし、やるべきことはもう無いな」
「提案。当機が料理を作りましょうか?」
「暗黒物質にならないだろうな?」
「理解不能。料理で暗黒物質は作れませんよ?」
アインは訳が分からないというような顔をしているが、実際に団員の女性によって暗黒物質もどきが此処の調理場で作成されたことがあった。
メシアが試しに一人に食べさせてみたが、悶絶した後に泡を吹いて倒れた。
後に最悪の黒料理事件と呼ばれているそれは……うん、思い出したくない。
「……それより、アインはお風呂に入れるのか? 水とか……」
「肯定。当機の身体は防水仕様となっているので、問題ありません。ですが、擬似魔力回路によって活動する自浄装置が──」
「入れるなら入ってこい。もう沸いてるだろうし……しっかりと女湯の方に行けよ?」
「質問。お風呂とはどのように入るものなのですか?」
「…………は? データとか、無いのか?」
「肯定。概要は理解していますが、詳しくは不明です」
どうしようかとメシアは頭を抱えるが、その事について詳しく考えていなかった自分も悪いと思い直す。
「先に風呂場に行って、そのボロボロの布切れを脱いでおけ。私が後から行く」
「拒絶。メシアが脱がしてください。そして当機を洗ってください」
「……マジか?」
無茶振りをしてくるアイン。
絶句する姫壊メシア。
後ろでヒューヒューと茶化してくる団員達。
この場は、完全にギャグ空間となっていた。
■□■
広いお風呂場に、二人の声が木霊する。
「どうだ? アイン」
「……驚愕。銭湯のようです」
「此処には沢山の人が居るからな」
今はメシアとアインの二人だけだが、〈HEAVENS〉には女性も居る。
その全員が入れる広さだ。
「さて……」
メシアはアインの隣に寄って、持って来た白色のお風呂用椅子に座る。
「今から身体とか髪の洗い方を教えるぞ。……身体構造が違うから、通用するか分からないが」
「了承」
メシアとアインのお風呂が、今ここで始まった。
「まずは身体を洗うぞ。汚れを落とさないといけないからな」
■□■
「凄いな……」
アインの身体に触れ、観察したメシアは息を呑んだ。
アインはオーバーテクノロジーとも呼べる技術によって魔術と科学を合わせて造られていた。
その精密さは、異常と言えるほど。
それはまるで、古代魔具のような──
「仮説。もしかしてマスター、超絶美少女ロボである当機に惚れちゃいました?」
「それは無い」
「傷心。非道いです……」
このロボ娘、何故こう人間らしいんだ……。
予想外のことが立て続けに起こり、頭が痛くなってきた。
メシアは何時もの調子を崩されながらも、出会ってからずっと疑問に思っていたことを口にする。
「なぁ、アイン」
「質問。どうかされましたか?」
「どうして私がお前のマスターとやらになったんだ?」
そう、そこだ。
どうして私なのか、それが最大の疑問点。
「…………理解不能。ですが、当機はマスターに対して好意を抱いています」
「だから、それが何故だと──」
「不明。それに、理由なんて必要無いんですよ? マスター」
「…………」
はぁ、とメシアは溜息をついて、アインの髪を洗い始めた。
■□■
おまけ
「疑問。タオルですか?」
「ああ、タオルを髪に巻いて邪魔にならないようにするぞ」
髪の長いアインが湯船に浸かるための方法を、メシアは教えてタオルを巻きつけようとして……。
……他人にやるのは初めてなので、上手く出来ない。
「……まあ、アインは私と違い髪はそこまで長くはないし良いか」
メシアは諦めた。
「質問。髪は長いほうが好みですか?」
「正直、長さは何でも良いな。……でもな、なんでお前は好意を抱いているんだ?」
「簡潔。理由なんてないんです。ただ、マスターが好きなだけです」
「……理由なんてないのか?」
「是非。理由が無くても良いと思うんです。ただ、マスターが好きなだけで」
「……」
「質問。好きなだけで駄目でしょうか?」
「別に構わないが……普通、人は何かしら理由があるんじゃないのか?」
「答え。当機は違います。理由は無いと言いましたが、マスターが好きなだけです。というか、当機は人間じゃないですし」
「……なんか押し付けがましいな」
「謝罪。そう言われてしまうと、どうしても押し付けがましくなってしまいますね」
「まあ、好きになる理由なんてないこともあるんだろうな」
メシアは呟きながら、ゆったりと風呂に浸かる。
「まあ、とにかくお前はアインにとってのマスターとやらになったようだし、少しは好意に応えないとな」
「感謝。おそらく、マスターが好意に応える必要は無いのですが……」
「いや、私は何かしらお前にしてやりたいことがあるんだよ」
「興味。どのようなことがあるのでしょうか?」
「それは……まあ、考え中だ」
「理解。マスターの考えは、いつも興味深いですね」
「そうか?」
メシアは軽く苦笑した。




