二十四話・戦闘開始
「さて……行くよ?」
不気味な魔力を纏った少年、天時ノア。
そんな彼の声が、《《背後からした》》。
「──ッ!」
メシアは反射的に神銃エクリプスを鈍器のように背後へ振るうが、そこには誰もいない。
「おっとっと……危ないなぁ」
ノアの声が、メシアの右から聞こえた。
「……ただの高速移動、じゃないな。一瞬だが、視界が歪んだ。……いや、歪んだのは世界の方か。空間魔術か? だとすれば、今のは空間転移……」
「へぇ? そこまで分かるんだ!」
どこまでも楽しそうに笑うノアに、メシアは不快そうな顔をする。
「それじゃ、少しだけ本気を出すよ」
ノアは懐から一本のナイフを取り出すと、次の瞬間には姿を消す。
「ぐ、ぁ!?」
肩が、腕が、太ももが。
あっという間に、容易く切り裂かれる。
(ノアの姿が見えない……ッ!)
攻撃された方向をメシアが向いても、ノアは既に転移済み。
ノアはメシアの死角に常に転移するので、メシアにはノアを視界に入れられない。
「ほらほら、もっと斬っちゃうよ!?」
クスクスと笑う声を無視して、メシアはノアの行動を予測する。
ノアは常に、死角へと転移してくる。
つまり、
(わざと隙を見せれば、その私の死角へ転移する……)
そうして、メシアは身体の痛みに耐えきれられなくなったフリをして身体を崩す。
「──! あはっ!」
ノアが笑い、そんなメシアの死角ではなく《《頭上に転移する》》。
(そんなあからさまなブラフ、引っかかるわけがないだろ?)
そうして、ノアはメシアの脳天目掛けてナイフを振るい、
──《《パァン》》!
《《ノアは》》、《《メシアに撃たれた》》。
「ああ、そうだ。"神秘の到達者"なんて位階まで上り詰めたお前が、こんなくだらないブラフに引っかかるわけがない。《《こうなると思っていたよ》》」
ノアの行動を完全に読み切ったメシアは、それでも不満そうに言う。
「それで、《《何故私の弾丸は当たる直前で止まっているんだ》》?」
「いいや、《《今もこの弾丸は進んでるよ》》」
メシアの弾丸は、ノアの身体の表面で静止していた。
にも関わらず、ノアはそれは進んでいると表現する。
「《《僕と弾丸の空間を》》、《《無限にした》》。《《僕と弾丸の間には無限の距離があるんだから》》、《《当たらないのも当然でしょ》》?」
「デタラメめ……」
メシアの悪態を爽やかな風のようにノアは受け流し、涼しい顔で右手を顔の前に持ってくる。
「じゃあ、一ついいものを見せてあげるよ。僕の……奥義みたいなもの」
「は……?」
困惑するメシアを他所に、ノアのテンションはぐんぐん上がる。
「さあ、君はどうする? 防ぐのか、避けるのか……君の選択を見せてくれ。まあ──」
──パチン
ノアが指を鳴らすと、空間に線が奔る。
そして、《《世界がズレた》》。
「空間に亀裂を作り、世界そのものを"斬る"。着弾も何もない、瞬間的に訪れる死。……そんなものに、対処できればの話だけどね」
ご満悦そうに語るノアの目の前では。
空間の切断によって上半身と下半身が真っ二つに切り裂かれた、メシアの姿があった。




