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カタストロフィ・メシア  作者: 汐海朔夜
ニ章『君は幸運の少女と笑う』
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二十二話・四魔導師

 アジトから飛び出したメシアとアインは、暗い夜の中を走っていた。


 あの後、メシアは帰ってきていた〈HEAVENS(ヘヴンズ)〉の面々に連れて行って欲しいと頼まれた。


 だが、正直に言って彼らを連れて行くのは危険すぎる。


 それに、メシアには誰かが死にそうになったときに助けられる自信がなかった。


 だから『足手まといだ』と告げて、アインと二人で走っていた。


「チッ」

「……主様(マスター)?」

「あ……すまない。少し、これで良かったのかと思ってな」

思考(ソート)。これからの敵は危険です。もし彼らを連れて行った場合、全員が生存できる確率は0.00046516%。当機はこの判断が正しいと思いますよ」

「……そうか、そうだな。それよりアイン」

疑問(クエスチョン)。何ですか?」

今すぐ跳べ(・・・・・)死ぬぞ(・・・)


 メシアの声を理解した瞬間に、アインは全力で地を蹴った。


 ──ブワッ


 メシアとアインが元いた場所の地面に魔術陣が描かれて光ったと思えば、とんでもない熱量の炎が発生していた。


「定められた条件を満たしたときに発動するタイプの魔術罠(トラップ)だな。今回のこれは体温に反応する設定だったみたいだな」


 ふわりと罠から離れた場所に降り立ったメシアは、冷静に状況を分析する。


 アインは悔しそうに手を握り、油断していたとはいえ罠を探知できずに引っかかりそうになった自分を恥じていた。


「ほら、さっさと出てこい。……王城についてから戦うのかと思ったが、こんな町中で仕掛けてくるとはな。《四魔導師》」

「《四魔導師》……?」


 聞き慣れない単語にアインが首を傾げると、説明していなかったなとメシアが言う。


「王城には皇帝専属の、帝国最強の四人の魔術師がいるんだ。その四人が《四魔導師》呼ばれ、一人一人が元素魔術を極めているんだ」

「──その通り。そして、その中で炎を極めたのがこのボクだ」


 メラメラと燃えている炎の中から、髪と眼が紅い女性が焼けもせずに歩き出てきた。


「初めまして、ボクの名は紅蓮フレア。その、四魔道師が1人だ。……ボクは元よりの命に従い、君を排除する」

「へぇ。やれるものならやってみろ」

同意(アグリー)。当機たちが協力すれば、こんな奴──」

「あ、君は面倒だからどっか行ってね」


 フレアがパチン、と指を鳴らしたとき、風が鳴った。


「…………え」


 アインが気がつけば、とてつもない強風に身を奪われて、上空に飛ばされていた。


「よう、機械娘! オレの風の心地はどうだい!? 最っ高だろッ!」


 アインが声のした上に目を向ければ、そこには緑色の髪の青年がアインとともに飛んでいた。

 

 ──ドガァン!


「ぐ……ッ!」


 強風によって地面に思いっきり叩きつけられたアインは、その勢いによってゴロゴロと地面を回転する。


 そこは、メシアと居た場所から遠く離れた広場だった。


「ハハッ、どうだ? オレの風の味は?」

「……よくも」


 緑髪の青年の問いかけへの答えには、怒りが籠もっていた。


「私と主様(マスター)の二人で、あの火炎女を倒せると思ったのに……! 最後には力を合わせて攻撃して、長年の相棒のように討つことができると思ったのに……ッ!」

「…………ん?」

「私と主様(マスター)の物語を邪魔したこと、死ぬほど後悔させてあげます。まあ、死にますが」


 無表情のままアインが立ち上がると、その身からありえないほどの魔力が立ち上る。


 それは、メシアの前では見せることすらなかったほどの量と密度だった。


「ハ、ハハ……? ……フレアの奴、何が楽勝だよクソが」


 青年がフレアへの恨み言を呟きながら風を身に纏い、全力で構える。


 だが、それも無駄だ。


「能力領域及び、一部の創造神ロビンの権能を解放。神域の(Akashic)図書館(Records)への接続を確認。一時的に、合計3475628135の神秘を再現可能。そこから概念魔術の情報を参照。……解析完了。世界の理(SISTEM)に干渉、成功。

 使用──世界よ終われ(WORLD END)


 そして二人はぶつかった。


 どちらが勝ったのか。それは、言うまでもないだろう。



■□■



 そこは、見渡す限り紅色だけだった。


 どこもかしこも炎が燃えていて、その中でメシアは肩で息をしていた。


「ねぇ、姫壊メシア」


 そこに、メシアに聞こえるようにフレアの声が響き渡る。


「物質ってね。今度が高温になると、固体から液体、そして気体になる。……まぁ、そのくらいは君も分かるよね」


 フレアの言葉に、全身が火傷だらけのメシアは何も答えられない。


「そこで、なんだけど……これは、魔力の場合も一緒なんだ」


 メシアは戦い始めると、魔力で構成された銃弾をフレアに撃った。


 だが、その銃弾はフレアに当たることなく溶かされたのだ。


 どんな魔術を使っても、フレアに届くことはない。


 氷魔術や水魔術はもちろん、風魔術や雷魔術さえも、フレアの圧倒的な火力に押し負けてしまう。


「君の攻撃が、ボクに届くことはない。……届く前に、全て溶かしてしまうからね」


 余裕そうな顔をして、フレアはコツコツと足音を鳴らしてメシアに歩み寄る。


「今なら、このくらいで勘弁してあげるよ? 別に殺せと言われてるわけでもないし、ボクも王様に慈悲をお願いしてあげる。……ここで捕まって、仲間の場所も教えてくれるならね」

「…………」

「どう? いいでしょ? 仲間を売ることにはなっちゃうけど、君の命は助かるんだし」

「……ずっと、考えていたんだ」

「ん?」


 メシアの脈絡の無い言葉に、フレアは首を傾げる。


 そんな様子を気にしないように、メシアは言葉を続ける。


「どんな魔術をぶつけようと、お前に当たる前に全て溶かされる。……だが、あるじゃないか。溶かされない魔術が」

「……? 何を言って──」


 その時、フレアは気がついた。


 地面に、紅く輝いている魔術陣があるのを。


「それは、お前と同じ炎魔術。……一番最初に、私達に仕掛けた魔術罠(トラップ)を模倣したものだよ」


 フレアは一目見て、すぐに理解した。


 メシアの言うとおり、この魔術陣はメシア達が来ると予測して仕掛けた魔術罠(トラップ)と同じ術式だと。


 だが……その効果が違う。


 威力も、効果範囲も、フレアのものとは別次元と言えるレベルで異なっていた。


「な──ふ、ふざけ」


 フレアが恨み言を言う前に術式は発動し、メシアの焔に包まれる。


 その炎が晴れたところには、全身火傷で気絶しているフレアが倒れていた。


「今更、お前程度の奴に手こずってられないんだよ」


 服についた汚れをパンパンと手で叩いて地面に落とし、メシアは立ち上がった。


「さて……アインはどこまで飛ばされたんだ?」


 辺りをゆるりと見回しながら、メシアは再び駆け出した。

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