二十一話・王城へ
「…………………ん」
メシアが目を覚まして最初に見たのは、馴染みのあるアジトの天井だった。
「主様!」
「……アイン、か?」
ふと横を見れば、安心したと言わんばかりに胸をなでおろす機械の乙女、アインが立っていた。
「ここは……」
怠さが残っている身体に鞭打って無理矢理起き上がると、そこはメシアの自室の部屋に備えられているベッドだった。
「……何が、あった?」
「返答。主様の帰りが遅く、《日輪神殿》へ向かったところ莫大なエネルギーを感知しました。そこへ急行したところ、蔓延していた古代の毒素に蝕まれ気絶状態となった主様を発見、至急ここへ運びました」
「そう、か……ありがとう」
アインに礼を言ったメシアは、痛みを訴えている身体をベッドに再び横たわらせて、これからのことを考え始めようとした。
「疑問。……何が、あったんですか?」
「…………」
が、アインの質問に答える方が先かとメシアは思い、天井を見上げたまま口を開いた。
「……闇月イフ、という女と戦ったんだ」
「! ……闇月イフ、ですか?」
一瞬アインが違和感のあるような反応をした気がしたが、気にせずメシアは話し始める。
「ああ。……元とはいえ、あれでも神秘の到達者になった奴だからな。強かったよ」
「……疑問。闇月イフというのはどういう人物なんですか?」
「ああ、そこからだな」
ふーー……と、メシアは息を吹いて。
「私が元は暗黒蓮華機関の実験体だったことは前に話したな」
「肯定」
「その時に、私で実験していたのがイフだよ。この"滅界の魔眼"を作ったのもな。……正確には、滅びを与える性質をもった極小の古代魔具を左目に埋め込み、目そのものを一つの道具だと再定義させたもの……らしいが。そこら辺は良く知らない」
「……元、と言ってましたよね? そのイフが、裏切りをしたというのは一体?」
「あれか……昔の話だよ。帝国と機関の戦いが一番激化した戦争があったんだが、イフはその戦争で死んだ者達を、古代魔具を核として一つの生命体として融合させて、全長約3メートルの混合人を作り出したんだ。……それが戦場の中心で敵味方問わず殺し尽くし、帝国と機関の両方の人々が大勢死んだ。それで混乱が起こっている間に、イフは暗黒蓮華機関に保管されていた多くの古代魔具を大量に盗んで逃げた。簡単に言ってしまえばそれが全てだ」
無表情で淡々と語るメシアに、アインは一つの疑問を尋ねる。
「……闇月イフを、恨んでいますか?」
「恨んでるさ」
即答だった。
だが、とメシアは言葉を続ける。
「正直、良く分からないんだ……私はあいつを恨んでるが、何故かあいつは私のことを好んでいる。……理由はさっぱり分からないがな」
そう語るメシアの目は、ここではない何処かを見ているようだった。
「……この話はこのくらいにしておこう。それより、私はどのくらい寝てた? "PROJECT・WORLD BREAKER"の開始まで、あと何日だ」
「回答……────」
「は? ……すまん、もう一度言ってくれ」
アインの言葉に、メシアは聞き間違えたかと聞き返す。
「復唱。今日の1時間後です」
「……アイン、すぐに龍脈の力が強い場所を探知してくれ」
身体の痛みだとか言っている場合ではない。
メシアはすぐさま飛び起きて包帯まみれの体にいつもの戦闘用服を着始める。
「疑問……それは、どういう──」
「早くしろッ!」
びくり、とアインは震えた。
怒鳴ったメシアの表情が、とんでもなく焦っていることが分かったからだ。
「……【龍脈接続、魔力感応】」
アインが目を閉じて、近くの地中にある龍脈に接続し、魔力濃度の高い場所の探知を始める。
その端でメシアは近くに置かれていた、イフが残した古代魔具《神銃エクリプス》を懐に入れて、その他の小道具や治癒薬を補充する。
「……報告、視えました」
「場所は?」
「《日輪神殿》を除いた、計画を実行できると思われる場所は──この国の王城です」
その、アインの言葉に。
「…………くそ、よりによってそこか」
メシアは心の底から嫌そうな、苦々しい顔をした。
「アイン、出るぞ!」
「動揺、待ってください! 今のマスターの身体は万全では──」
「そんなことを言ってる場合じゃない!」
扉のドアノブに手を掛けるメシアの顔に、余裕は一切無かった。
「イフはあの《日輪神殿》を毒素で汚染した。あんなに汚染された場所が計画に使えるわけが無い! つまり、天時ノアが龍脈と繋がるのは別の場所──つまり、王城だ。……このままじゃ、世界ごと終わる」
「主様……」
「……手伝ってくれるか? アイン」
「……はい、どこまでも」
メシアとアインは目を合わせて頷きあうと、二人は部屋から飛び出した。
この世界を、壊させないために。




