一話・プロローグ
世の中には『救世主』など存在しない。
暗黒蓮華機関と呼ばれる魔術結社の研究施設から逃げ出した私を、誰も助けてくれる者はいなかった。
その瞬間、私は気づいた。だから、私は心に誓った。私が『救世主』になると。信じていたから。
しかし、今日も私は『救世主』からどんどん遠ざかっている。理想が徐々に崩れ、壊れていく。
■□■
それは、正義など関係ない。
"壊す"ためだけの弾丸だった。
──パァンッ!
使い慣れた9mmの自動拳銃が、魔術によって改造された元人間に向けられた。
その瞬間、銃弾が舞い散り、狭い廊下に響く金属音が不気味な静寂を破った。
「ギャァァァアアアアアアア──ッ!?」
怪物となった元人間が悲鳴を轟かせ、身体は塵となった。
「くっ」
心が痛む。
こんな単純なことで、動きが鈍る。
分かっている。改造された身体は戻せないことを。
「ごめんなさい……」
救えなかった犠牲者に、私は謝罪の言葉を投げかける。
目を上げると、道の先に理性を失った改造人間がこちらを見ていた。
私は悲しみを覆い隠しながら、彼らに自動拳銃を向けた。
■□■
私はかつて『救世主』になりたかった。被験体になった私には復讐心があったが、それよりも単に助けたかった。
いつの間にか私は組織のボスとなり、施設を潰し回っていた。忍び込んだ暗黒蓮華機関の施設では、"人間を魔術によって改造し強化する"ことがテーマだった。
解き放たれた改造人間と研究員を次々と殺し、最深部へと踏み込んだ。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!!」
田中ヒデキ。この研究所の所長は、怒りで叫んでいた。
「あの一体一体にどれだけの時間と労力をつぎ込んだと思っているのだ!?」
「知るか」
最深部には研究道具や死体があり、全員が様々な形で殺されていた。
「そもそも、お前はあれ等の価値を理解してな──」
「──死ね」
私は殺意をこめて田中ヒデキに発砲した。
■□■
「ひ、ひぃい! やめろぉ!」
目の前の"化け物"を見る。
手足を撃ち抜かれ、地面を這いつくばる"化け物"を。
「ま、待てっ、待ってくれ!? そ、そうだっ! 俺がお前の仲間になってやるっ! だから──」
──パンッ。
一発。それだけで動かなくなった。
私は顔についた液体を拭い、無線を取り出し部下へ繋いだ。
「田中ヒデキは暗殺した。そちらはどうだ?」
『姫様!? は、はいっ! 研究内容は回収済みです! 被害を受けた一般人は、大方100名程度かと』
「…………生存者はいたか?」
『…………いえ、一人も』
だが、その希望は直ぐに打ち砕かれた。
『ですが、それは姫様のせいでは──』
「私もすぐに戻る。待機しろ」
──プツン。
通信を切り、再び歩き出す。
誰も救えなかったことに、無力感を感じながら。




