チンカースバロ星人の行方
チンカースバロ星人との激闘を制した俺は、ラムんちの小高い丘から町を眺めていた。
相変わらずダイナミックな景色である。大小異なる球体が建ち並ぶ向こうに2つの大きな山がおっぱいのようにそびえ立っていて、真っ青な空が彼方まで広がっていた。
頭上には3つの太陽が照り注ぎ、時折流れる風が肌を優しく包んでくれた。
この平和を自分の手で守ったのかと思うと鼻息が荒くなる。
「やっぱ俺様サイコーだな」
改めて己の偉大さを噛みしめていると……。
ねちょ~ん、びろ~ん。
ぬる~ん、じゅぽ~ん。
全身の力が抜けて溶けだしそうな音が町中に響き渡った。
その音を聞いたラムが部屋から大声で叫んだ。
「さ、三次。早く倉庫に隠れて」
「え? なに?」
そう聞き返した途端、空から槍の雨が大量に振ってきた。
チージョ星の月一迷惑イベントである殺人レイン。それの数倍の速度と量が落ちてきた。
(第二部 殺人レインと悲しき地球人 参照)
痛いとかそういうレベルの話ではない。頭蓋骨を打ち砕き、脳みそを根こそぎ削り取られそうな衝撃である。
オラウータンと同等の知能を持つ俺の頭で表現すると、本気で怒ったマサイ族に追いかけられて槍の集中砲火を浴びた。
そんな感じである。
慌てて倉庫へ転がり込んだ。
「な、なんだ。今日は大雨の日か?」
「違うわよ」
「ひえぇぇーー」
壁をべろ~んと突き抜けてラムが現れた。
毎度の事ながら、予期せぬタイミングで登場するチージョ星人には慣れない。というか、この星にノックという概念はないのだろうか。
「凄い雨だな」
「これはね。チンカースバロ星人対策用の雨なの」
「対策用?」
「一時的に雨を降らせて撲滅させるの」
彼らが水に弱いという情報を防衛軍に提供した。生物学者をはじめとする各所の研究者が総力を挙げて生態を調べた。
そして新たな事実が分かったという。
彼らの星はチージョ星から2万光年離れているモーエカスという惑星らしい。惑星全体が燃えた後のように燻っている場所なんだとか。薪を焚いた後の残り火みたいな状態である。
水をかけると消えてしまうため、彼らは水を極端に嫌う生物になった。
生暖かい場所で生まれ育った彼らにとって、チージョ星は暮らしやすい場所だった。
年間を通して気候が安定して温かい。町も文化も人も進化していて外敵というモノが存在しない。特に月一回しか雨が振らない。水が弱点の者にとっては、まさに好都合である。
普段の彼らは、森や縁の下など薄暗い所で布に包まって生活している。昼夜を問わず活動し、その行動範囲は見境なしといった感じ。風の吹くまま気の向くままどこでも出没する。
薄暗い所で布に包まっている時は小さいが、町へ出ると人間の大きさとほぼ同等になる。あれは一種の興奮状態に陥っている姿だという。
肝心の目的は……何もないらしい。ただ突き突きしたいだけ。人を突く事によって快感を得られるらしく、特に女性を襲うのが大好きだとか。女性が道を歩いた後はチンカースバロ星人だらけになる。
人を襲いまくって興奮がMAXになると謎の液体を放出する。辺り一帯が臭いニオイに包まれるのだとか。
これは犬がおしっこで縄張りを示すのと同じで、彼ら特有のマーキングらしい。
何ともはた迷惑な奴らである。
生物学者によると、最初は2人だけだった。それがいつの間にか繁殖して数が増えたため町でも見かけるようになった。とある住処を調査したところ、女性1人に男性複数の構成だったという。アリとかハチとかの生態と一緒である。
繁殖力は凄まじく、2人が4人、4人が8人と倍々ゲームで増えていく。一年を通して盛んなため、1人見かけたら10人はいると思って間違いないとか。
アリとかハチの生態でネズミやゴキブリ並みの生命力って無敵だと思う。
俺が防衛軍に手渡した小道具は、パパが改良を加え最新鋭の武器に生まれ変わった。これで対策は完璧かと思われたが、そうは問屋が卸さなかった。
問題はその数の多さである。学者たちの想像を遥かに超えた繁殖力だった。
チンカースバロ星人が出没するたびに防衛軍が出張る。1人でも取り逃がしたら逃げた連中が巣を作って仲間を増やす。再び連絡が入り、防衛軍が出張る。毎回スクランブル発進は人手も経費もバカにならないだろう。
そこでさらに改良を加え、「チンカースバロ星人駆除グッズ」を考案して販売された。これが爆発的ヒットになった。
その他に、彼らを見かけたら最寄りの警察や役所に連絡すると、その場所から半径1キロ圏内にピンポイントで雨を降らせてくれるシステムも導入した。
「人工的に雨を降らせるって凄い技術だな」
「昔からあるわよ」
「へぇ~」
「月一しか雨が降らないから、万が一に備えたシステムなの」
「水不足になった時とか?」
「何かあってからでは遅いでしょ。その前の準備ね」
「ふーん。チージョ星って計画的なんだな」
「地球は違うの?」
「その場しのぎだな」
「ハハハ。三次みたいだね」
「じゃかましい!」
話を聞く限りでは害虫と同じ部類で扱われているみたいだった。まあ、人を傷つけて楽しんでいる時点で虫以下なので駆除されても仕方あるまい。
頑張れ、チージョ防衛軍である。
「ところで、今日パパっている?」
「いないよ。ハカイダナデシオの調査に行ってる」
「そうかぁ」
「結構大変みたいよ。暑いし酸素は薄いしで」
「俺も行ったけど、あの中で作業は地獄だな。息を吸っただけで喉が焼けるから」
「でも調査は順調に進んでいるみたいだよ」
「それは良かった」
「パパに何か用事?」
「クルマイスの改良をお願いしようかと思って」
俺の望みはただ一つ。スピードダウンの装着、それだけだ!
「そうそう。それともう1つ報告があるの」
「なに?」
「焼きそばが完成したみたいだよ」
「そうかぁ~。ついに完成したか」
「ココちゃんが自慢げに話してた」
「ラムは食べたの?」
「ううん。まだ」
「じゃあさ、これから食べに行かない?」
「いいね。私も食べたいと思ってたから」
ミルク温泉名物「ココ焼きそば」が完成したらしいので食べに行く事にした。
「あのう。ラ、ラムちゃん」
「うんなに?」
「食べた後、お風呂にでも……」
「入りません!」
……失礼しました。




