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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
番外編 チージョ星に危機が
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チージョ防衛軍から呼び出しです

 ラム家に帰った俺は、下品な奴らが飛ばした臭い液体を洗い流し、My倉庫でしばし休憩していた。


 とりあえずラム、ココ、ミルクさんに物資を届けるという当初の目的は達成した。商店街の人たちにも対策を説明出来たのは不幸中の幸いである。

 だからといって安全が確保された訳ではない。あの様子だとチンカースバロ星人はまだまだ巣くっていると思われ、ちょっとやそっとじゃ対策は難しいだろう。

 大元を探し出して根絶やしにしないと、これから先もピンチが訪れるのは確実である。


「奴らの本拠地を探すって言っても難しいだろうなぁ~」


 生態も知らなければ潜んでいる場所さえ特定できない。有力な情報が皆無である以上、手の施しようがないと思う。俺に出来る事があれば喜んで協力するが、たぶん奴らを激高させて事態を悪化させるのがオチである。

 対策は俺が考える事ではなく、この星に住む人々の仕事だから任せるのが無難であろう。

 天井を見上げながら「そろそろ帰るか」そう思っていると。


「三次君。ちょっと」

「ぎょえぇぇーーっ」


 見上げていた天井からパパが顔を出した。

 頼むからその登場は止めてくれ。黒頭巾を被って大鎌を持った奴が迎えに来たのかと思って2つの袋が縮みあがるから。



「ちょっと私に付き合ってくれないか」

「どこへですか?」

「防衛本部」

「なっ……」

「防衛軍の長官が三次君に会いたいとの事だ」


 防衛軍といえば地球でいうところの軍隊だろう。その長官という事は、国を守る最高司令官だと思う。そんな偉い人が俺に何の用があると言うのだ。


「地球の武器を見たいんだとか」

「へ?」

「三次君の持ってきた武器に興味があるらしいんだよ」

「ホースと水風船ですか?」

「そう」

「武器、ですか?」

「そう」

「庭に水を撒く道具ですが……」


 チンカースバロ星人の弱点を知ったパパは防衛本部へ出向き、その旨を長官に伝えた。相手の名前も分からず、何の手がかりもない所への情報提供は防衛軍を湧き上がらせた。

 さらに、地球から得体の知れない男が奴らの弱点である武器を持ってやって来た。商店街の平和を守るため勇猛果敢に戦った。名もない戦士が何の関係もない惑星の為に命を張った。

 これは話を聞かねばなるまい。そんな感じらしい。


 別にチージョ星の為でも平和を守る為でもない。チンカースバロ星人がこの三次様に舐めた態度を取ったのが気に入らないだけだ。断っておくが、そこまで物事を深く考える頭脳を俺は持っていない。

 何だかよく分からないので、とりあえず付いていく事にした。



 パパと宇宙船に乗り込み着いた先は、ロケットのようにそびえ立つビルと、その両脇に2つの球体をあしらった自己主張の強い建物だった。

 あくまで個人的な感想だが、「チージョ星を守るというより攻める外観だな」と思った。そんな事を言うと、特殊部隊が現れてハチの巣にされそうなので黙ってパパに付いて行った。

 防衛軍というからには、レーダー探知機が常に作動し、何台も連なる大型スクリーンに惑星全土が写し出されている。バシッとした制服を着て、庭では銃器を持った屈強な戦士がチージョ星の未来と安全を守るための厳しい訓練をしている。そんな物々しい雰囲気を想像していたのだが……。

 中に入ると会社のような受付があり、ショートカットとツインテールのお姉さんが立っていた。

 黒のワンピで膝上10センチのフリフリのスカート。これまたフリフリ満載の真っ白なエプロンを身に着けていた。足元はニーソ。


「いらっしゃいませ。本日はチージョ防衛軍へようこそ」

「長官に呼ばれて来たのですが」

「只今アクセス致しますので、こちらで少々お待ちくださいませ」


 軽~い感じで挨拶された。上から83、61、87のツインテールお姉さんに案内され、応接室で長官が来るのを待った。


「パパさん。ここって防衛本部ですよね」

「そうだよ」

「メイド喫茶じゃないですよね?」

「メードさっき? 何それ」

「あっ、いえ」


 しゃべり口調といい、制服といい、完全にメイド喫茶を彷彿とさせる。このまま待ってたらオムライスとメロンソーダが出てきそうな。

 ここは防衛軍で国の機関だと思う。そんな堅物な場所で、その可愛い制服はアリなのか。それとも誰かの趣味なのか。もし趣味だとすると……。

 チージョ防衛軍、恐るべし!



 丸型のソファーに座り、お姉さんのニーハイ太ももをチラ見していると。

 受付の奥から真っ赤なアロハシャツに白のショートパンツという、プールサイドでトロピカルカクテルでも飲みそうなおじさんがやってきた。


「やあ博士。この間はわざわざ出向いてくれてありがとう」

「いえいえ。この一大事ですから当然ですよ」

「本当だね。まさかこんな事態になるなんて」

「あっ、長官。彼がこの間お話した地球人の三次君です」


 パパはそう言って俺の肩を叩いた。

 長官は俺を興味深げに眺めた。


「君が三次君か」

「は、初めまして」

「私はアシク・ササイノダーです」

「お、俺は宮本三次です」

「君は地球人なんだってね」

「はい。そうです」

「初めて見るけど、我々と変わらないんだね」

「お、お陰様で」


 端正な顔立ちの優しそうなおじさんだが、目と目が合った瞬間、ゾクッとする怖さを感じた。さすが百戦錬磨の屈強な戦士たちを従え、その頂点に立っている人物である。本人も相当な訓練を積んだのだろう。いざとなれば命がけで平和を守る。体中から決意と自信がみなぎっていた。

 もし無礼な態度をとろうものなら、銃を持った兵士が20人くらい駆けつけて頭に銃口を向けられそうである。

 間違っても「足クサ長官」とは呼べなかった。


「ところで、君は地球から武器を持ってきたそうだね」

「本来は武器ではないのですが」

「ちょっと見せてくれないか」


 ハッキリ言って武器ではない。庭に水を撒く道具と、子供が膨らまして遊ぶ風船である。唯一武器と呼べるのはウォーターガンだが、対象年齢6才以上の玩具だ。

 地球でこんなモノを武器と呼んだ時点で精神科医が優しく微笑むだろう。

 俺は多少ビビりながらホースと風船と水鉄砲を手渡した。


「あのう。これなのですが」

「どうやって使うんだい?」

「ちょっと説明が難しくてですね……」


 ホースの先をギュッと絞って水を二股に放出させるとか、水を入れて風船爆弾を作るとか、口で説明する方が難しい。


「説明するよりも実践した方が早いと思います」

「うーん。その方が良いかもしれないな」


 そう言うと、長官は立ち上がり俺とパパを中庭へ案内した。



 防衛軍の中庭は……。


 様々なアスレチックが建ち並び、ロープ渡りや棒のぼり、腕立て腹筋、ほふく前進と地獄の訓練を行い、鬼教官に「お前の本気はそんなもんかっ!」と愛情の罵声を浴びせられビシバシしごかれている。


 かと思ったら。


 広めの花壇に色とりどりの花が咲き乱れていて、それを囲むように丸型ベンチが設置してあった。花壇中央には噴水があり、そこから四方へ水が煌びやかに飛び散っていた。見上げると太陽が中庭全体を照りつけていて、犬みたいな猫がベンチで日向ぼっこしていた。

 昼間のオフィス街の公園かと思った。

 受付のメイド服といい、長官のアロハといい、中庭公園といい、チージョ防衛本部はことごとく期待を裏切ってくれる。恐るべし!


「すいません長官。ここに水道はありますか?」

「あそこにあるよ」


 長官が指さした先には、学校で見慣れた蛇口が列をなしている水道があった。蛇口が丸なので遠くから見た時、壁からグーが突き出ているのかと思った。

 俺はホースの先っぽを絞って水を二股にした。標的がなかったので花壇にめがけて水を撒いた。本来の使い方である。

 次に水風船の作り方を披露した。それを壁に叩きつけるとバシャっという音と共に風船がはじけ飛んだ。

 そして最後に手に持っていたウォーターガンを披露した。

 一部始終を凝視していた長官は目を丸くした。


「こ、これは最強の武器だ」

「そうですか?」

「地球にはこんな進化したモノが存在するのか!」

「いや、逆に退化かと……」

「チンカースバロ星人対策にピッタリだよ」

「水に弱い相手には最適ですね」

「素晴らしいモノを提供してくれてありがとう」

「いえ。どういたしまして」

「君は我が星の英雄だよ」

「そ、そんなぁ~」

「よし。これを我が軍の三種の神器にしよう」

「……」


もう何も言う事はない。恐るべし!






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