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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
番外編 チージョ星に危機が
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安全確保と驚異のスナイパー

 チンカースバロ星人を撃退し、無事ミルクさんの家へ辿り着いた。同時にクルマイスから飛び出した俺は、エントランス部分をボールのようにコロコロ転がった。

 俺がいま一番望むモノ。それはチージョ星の平和ではない。スピードダウンだ!



 ミルクさんの家は地球で言うところのマンションみたいな建物だった。

 耳にタコが出来て、そのタコを刺身にするくらい何度も言うが、チージョ星には角はない。建物は巨大な丸であった。

 モカブラウンを基調としたシックな装いで、開放的な白い丸窓がいくつも並んでいた。エントランスの外壁は黒っぽいレンガ調の作り。ロビーの床には大理石が敷かれていて重厚感を醸し出している。全体的に高級マンション的な感じだった。

 いくら説明しても雰囲気が伝わらないと思うので、俺の純粋な心で捉えた表現方法で解説すると。

 巨大なガスタンク……である。


「ミルクさんの部屋って何階なの?」

「最上階です。最上階とは最も高い場所を指すのですぅ」

「知ってるわっ!」

「でも隊長ぉ~」

「だ、誰が隊長だ」

「ここには入口がありませぬが」

「……」


 確かにココの言う通りである。エントランス部分は完全な壁。入口らしき物もなければ自動ドア的な物もない。ガラス壁から中を覗いたが、玄関ドアもなくエレベーターもない。高級感溢れるマーブル模様のタイルが並んでいるだけだった。

 瞬間移動をキメられるチージョ星人にはごく普通の光景で、彼らには玄関ドアもエレベーターも必要ない。何の能力も持たない俺がここから最上階へ行くのは無理だった。

 ミルクさんを呼び出して道具を持たせたとしても同化がネックになり部屋まで持ち込めない可能性がある。マンションの共有スペースに置くのもありだが、いざ何かあった際、住民全体は守れるがミルクさん個人を守る事は出来ない。


「歯がゆいな」


 俺はマンションを見上げた。

 軽く見積もっても20階くらいの高層ビルだ。ハシゴのないガスタンクに素手で挑むようなものである。舞空術でも使えない限り上層階への到着は無理だろう。仮に地球だったとしても角をつたって渡り歩くのは無謀過ぎる。ジャッキーチェンでも一瞬躊躇しそうな高さだった。


「とりあえずミルクさんを呼んできてくれるか?」

「承知しましたです。隊長ぉ~」


 ココは一瞬で消え、ミルクさんを連れて一瞬で戻ってきた。


「あっ、宮本君」

「ミルクさん。大丈夫ですか?」

「大変な事になったわね」

「そうなんですよ」

「惑星全体が厳戒態勢に入ったらしいわ」


 ミルクさんも外に出られず、温泉も臨時休業中らしい。スーパーやその他食料品店も休業している。惑星自体が機能停止状態らしい。マンション住民も困り果て、みな食料を備蓄して耐え忍んでいるとか。


「本当に緊急事態なんですね」

「そうなの。大変なのよ」

「ミルクさん。これなんですが」

「何これ?」


 俺は今回の経緯を事細かく説明し、用意したホースと風船を手渡した。


「これは地球から持ってきた水を出す道具です」

「このためにわざわざ地球へ戻ったの?」

「はい」

「相変わらず凄い精神力ね」

「ありがとうございます」


 水風船爆弾の作り方とホースの使い方を説明した。そして、地球から持ってきた物体は次元を超える事が出来ない。ミルクさんの部屋までこれらを搬入するのが難しい。という事を伝えた。


「なるほど。私がこれを持って部屋へ移動出来ないって事ね」

「そうなんです。地球素材は同化出来ませんから」

「そうかぁ~」

「身を守る道具はそばに置いている方が安全だと思うのですが」

「そうね。いつでも準備が出来るものね」

「何か良い方法があればいいのですが」

「うーん」


 2人で腕組をしながら唸っていると、ココがメガネをクイッと上げた。


「隊長ぉ」

「なんだ」

「屋上はどうでしょうか?」

「屋上?」

「吾輩が屋上から飛び降りて投げ入れるという手法ですぅ」

「は?」


 ココがホースと風船を持って屋上から飛び降りる。ミルクさんは部屋の窓を開けて待っている。開かれた窓へ投げ入れる。素早く瞬間移動をする。俺の元へ戻る。そして大成功。

 ミッションインポッシブルも呆れるくらい無謀な計画だった。


「ダメよ。そんな危ない!」

「大丈夫ですぅ。我々は瞬間移動が使えますから」

「もし失敗したらどうするのよ」

「失敗は成功の元ですからぁ~」

「失敗したら死んじゃうでしょ!」

「戦いに危険は付き物ですよぉ」

「ダメ!」


 なんだ、そのアクション映画ばりの発想は。そしてなんだ、その無駄に正義感溢れる命がけは!


 ココの性格上、これ以上時間を費やすと本気でやりかねない。ミルクさんと緊急会議を開き、エントランスに常備して出かける際に持ち出す。という方向で話がまとまった。

 これならミルクさんだけではなく、マンション住民も使えるため安心して暮らせる。


「ここに置いておきますのでみんなにも伝えてください」

「分かったわ。住民にも使い方を説明しておくわ」

「よろしくお願いします」


 不満タラタラのココをクルマイスに無理やり乗せて帰り道を急いだ。



「せっかくのナイスアイデアだったのですがぁ」

「飛び降りるのは危険だろ」

「我々には瞬間移動という武器がありますです」

「万が一ってこともあるだろ」

「危険が吾輩を駆り立てるのですよぉ~」

「危険過ぎるだ……ろ?」


 ココのアクション妄想を聞いていた時、再び目の前にチンカースバロ星人が現れた。先ほどよりも多めの10人くらいが路上でフラフラしていた。


「結構な数がいるな」

「隊長ぉ。ち、血が燃え滾ってきましたぁ」


 後ろを振り向くと、やる気満々でウォーターガンを構えていた。

 ……ま、いいか。


「よし。突っ込むぞ!」

「ラジャー」


 このまま突撃しても多勢に無勢。数では敵わない事は百も承知である。奴らの誰かが突撃してきてクルマイスごと倒されたら確実に取り囲まれるだろう。後ろには危険な思想の持ち主が鎮座しているが、彼女はまだ14歳の可憐なオタク少女。もしココの身に何かあったら大変である。世が世なら、その場で切腹でもしないと申し開きが立たない。

 俺は日本人。純粋無垢な心を持つ大和魂である。

 一か八か。やるかやられるか。汗ばんだ手の平でクルマイスのひじ掛けを叩いてスピードを上げた。そして奴らが目の前に来たタイミングを狙ってコーヒーカップのように回転させた。


「ココ、やれ!」

「ガッテン」


 クルクルと回転するクルマイスからウォーターガンを連射するココだったが……これが見事というか何というか。

 たった1発で仕留めるのである。

 向かってくる相手に引き金を引き、そいつを倒すと次は別の奴に発射。そいつを消滅させたら振り向きざまに別の奴……。

 回転するクルマイスで動くターゲットを狙うのは、射撃のプロであっても難易度が高いと思う。しかしココは的確に相手を撃ち抜いていく。まるでゴルゴ13のように正確に狙撃するのだ。


 マジかよこいつ!


 俺が唖然としているうち、冷酷非情のスナイパーと化したココは、10人はいたチンカースバロ星人をあっという間に全滅させた。


「すげぇー腕前だな!」


 チラッと後ろを見ると、満足げな顔をしながら銃にキスをしていた。


「……」


 ココパパ殿、貴殿の娘を別世界に引きずり込んだみたいです。

 それがし、侍の血を引く者として、只今から自害申す。



 ミルクさんに武器を届け、彷徨うチンカースバロ星人を壊滅させて無事ココ家に到着した。


「ありがとうな。お陰で助かったよ」

「何をおっしゃいますやら」

「じゃ、俺はこれで帰るよ」

「あのう」

「なんだ?」

「このウォーターガンなのですがぁ」

「ですがぁ?」

「吾輩に頂けないでしょうか」


 相当気に入ったらしい。


「いいよ。もう1丁持ってるからやるよ」

「ほ、ほんとですかぁ~」

「お前はスナイパーの才能がありそうだからな」

「はいぃぃ」

「俺が持っているより役に立つだろ」

「ありがとうでございますです」

「何かあったら、それで仲間を守れよ」

「承知致しました。隊長ぉ!」


 スキップしながら家へ帰って行った。


 これからお前の事を「ココ13」と呼んでいいか?






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