押してはいけないココのツボ
商店街を抜け、ビル群を越え、住宅街に入った。
元々閑静な住宅街で人通りは少ないが、現在はそれに輪をかけて静かだ。シーンと静まり返っていてゴーストタウンを思わせるようだった。
「うーん。何度見てもデカい家ばかりだな」
チージョ星の中でも特に高級住宅街である。その中でも一際大きいのがココの家だ。庭だけでも俺んちが10軒は建ちそうな広さである。
ミルクさんも悪くはないが、ココも捨てがたい。会話の成立しない「困り果てた子ちゃん」だが、甘えん坊で人懐っこい性格が何とも言えず可愛らしい。仮に彼女と結婚した場合、俺は大企業の社長になる。
「この商談を決めたのは君か?」
「はいそうです。社長」
「よくやった。君にはスペシャルボーナスを出そう」
「何があっても社長に付いて行きます!」
「よっしゃ。よっしゃ」
という感じなのだろうか。
そんなくだらない事を考えているうち、ココの家へ到着した。
クルマイスから飛び出した俺は、いつも通り庭の芝生に華麗なヘッドスライディングをした。
この騒動が終わったら、マジでスピードダウンを付けてもらおう。
じゃないと、体がもたない……。
庭先で悶絶している俺を見てココが駆け寄ってきた。
「おおっ、救世主ですかぁぁぁ~~」
「ココ。大丈夫だったか?」
「はいぃ。我が身は何とも平穏ですぅ」
「そうか。それは良かった」
抱きついてくる彼女をいい子してやり、さっそく使い方を説明した。
「襲って来たら水風船を投げろ。そうすれば奴らは消えるから」
「心躍る武器ですねぇ~」
「もしダメならホースで撃退しろ」
「これは魑魅魍魎の世界観」
「……意味わからんぞ」
これでココの安全は確保できた。後はミルクさんだけだが……。
温泉で出会い、温泉で恋をしただけ。彼女がどこに住んでいて、好きな食べ物は何なのか。どんなタイプの男性が好みなのか。下着は何色を主軸としているのか。彼女の全てを知らなかった。
「ミルクさんちってどこなの?」
「すぐ近くですよぉ」
「ここから近いの?」
「0.1秒でしょうか」
「……時間じゃなく、距離の話なんだが」
ここから10キロほど離れた所に住んでいるらしい。クルマイスでフルスピードなら6~7分くらいで到着しそうな気がする。
ただ、問題が一つ……道順が分からなかった。
アイノデリモンクーにインプットする作業は俺やココでは出来ない。地図を書いてもらう事も考えたが、土地勘がないのと、目印の看板が読めない。さらにココは日本語を書けない。彼女が日本語を覚えるか、俺がチージョ語を覚えるか。
……彼女が日本語を覚える方が早いと思う。
「道順が分からないんだよなぁ~」
「案内しましょうか? 吾輩が」
「それはマズイだろ。外は危険な状態だぞ」
「大丈夫です。救世主がいますからぁ~」
「うーん」
いつどこで襲ってくるか分からない状態で女の子を連れ出すのは危険だ。自分の身を守るだけでも大変なのに、もう1人増えるのは弱点を晒すようなものである。
弱点を持つという事は、そこを突かれると手も足も出せなくなるという事だ。
「う~ん。どうすれば……」
「三次さん」
「ん? なんだ?」
「チンカースバロ星人って水にヘロヘロなのですよね?」
「そうだよ」
「吾輩は水に鋼なのですがぁ」
「な、なるほど!」
奴らの攻撃力に気を取られて肝心な事を忘れていた。力強い突きさえ受けなければ、それほど怖くはない。突きをかわして水を浴びせれば奴らは消滅する。そして我々は水に強い。
クルマイスで移動し、そこから狙い撃ちなら突きに翻弄されることもなくココの身も守れる。いざとなれば彼女だけを逃がして俺が戦えばいい。
「よし。ココ乗れ!」
「はいぃぃ」
「お前はこれを持ってろ」
「これは何事でしょうか?」
「ウォーターガンだ」
「ウォーターガン?」
「引き金を引けば水が出る。襲ってきたら浴びせるんだ」
「の、脳が震える一品ですねぇ~」
「……行くぞ」
「ラジャー」
ココの道案内に従いミルクさんの元へ向かった。
なるべく早急に辿り着かないと、いつどこで出会うか分からない。戦わずに済むのであれば、それが一番安全である。
奴らが出てこない事を祈りつつ、フルスピードで運転した。
T字路の角を右へ曲がって「もうすぐですよ」と言った直後、道端でうんこ座りしているチンカースバロ星人を発見した。5~6人がガラの悪いヤンキースタイルでフラフラしていた。
「くっそぉ~。出会ったかぁ~」
相変わらず意味不明の破壊工作を楽しんでいた奴らは、俺らの姿を見つけると「狩りの準備」とばかりにイキり立った。
「なんか来たぞ」
「ヘッヘッ。女もいるぞ」
「楽しみが増えたな。ヒヒヒッ」
「突き突きしまくっちゃお」
ゲスな笑いで戦闘態勢を整えた。クルマイスを強制的に停止させようと道に並んで前を塞いでいる。近づいて来たら頭突きをかましてイスから振り落とす魂胆だろう。
「カリの分際で狩りだと? いい気になりやがって」
「どうしてくれましょうか。隊長!」
「俺と根性比べか。いい度胸してるじゃねぇか」
「やりますか?」
「突っ込むぞ。準備しろ!」
「ラジャー」
本気になった俺は無双になる。バカの限界を突破してスーパーバカになる。
「始末の悪い余った皮を成敗じゃぁぁーー」
クルマイスのひじ掛けをバンバン叩いてスピードを全開に上げた。体感スピードは100キロ。その勢いのまま奴らに突っ込んだ。
このまま突撃したとして、奴らが動じなければ面倒な事になる。強烈な突きをかまされクルマイスごと倒されたら大惨事だ。三次だけに大惨事。などと言っている場合ではない。
俺は物事を深く考えられないスーパーバカ。もし根性が無かったら単なるバカ。
片口を上げてニヤリと笑うと、さらにスピードを上げた。時速100キロ強で激突されたら、いくらカッチカチに反り返ったチンカースバロ星人でも地獄へまっしぐらである。
ギリギリまで余裕をかまして動じない奴らだったが、俺の本気度合いが分かったのだろう。
「うわっ、あぶね」
「こいつ本気でバカだぜ!」
「こんなの完全に人殺しだろう」
「頭狂ってるな」
そう叫び、寸前のところで身をかわした。
根性比べに負けて道を譲ったのが運の尽き。お前らの命はこれにて終了である。
横を通り過ぎた瞬間、クルマイスをクルっと一回転させ奴らの方を振り向いた。
「今だ。やれ!」
「承知!」
ココは構えていたウォーターガンを発射した。ビュッと飛び出した水は全弾チンカースバロ星人に命中した。溶けて消えた。
命を惜しむ悪党と、命を捨てる正義。どちらが強いか地獄の底で思い知ったことだろう。
悪を成敗した後、再びクルっと回転してミルクさんの元へ急いだ。
「お前、なかなかの腕前じゃないか」
「テヘッ」
「初めてにしちゃ上出来だ」
「こ、これ。面白いですねぇ~」
「気に入ったか?」
「か、体中の貪欲汁がぁぁ」
「……」
またやっちまったか? 彼女のコアな部分をコチョコチョっと。




