商店街で大暴れ
町に出ると人っ子一人いなかった。
厳戒態勢が敷かれている最中である。みな家に閉じこもって恐怖に怯えているだろう。惑星全体が静まり返って閑散としていた。
「とにかく急がなきゃな」
ココの家まで普通の速度で1時間くらい。ラムだと5分以内に到着する。
運動神経が悪いのにスピード狂って、考えるだけで危険な予感しかしない。車の運転がヘタクソなのにすっ飛ばす無法者のようだ。俺なりにフルスピードの70キロで商店街を駆け抜けた。
アドレナリン全開で爆走していると、前方に人影が見えた。遠目に見てもチージョ星人ではない。明らかにタートルネック野郎だった。
4人ほどが束になって道のど真ん中を占拠していた。奴らは店先にある看板を蹴り上げ、観葉植物をなぎ倒していた。頭部のおちょぼ口から薄汚い液体をペッと吐き出し、キャッハーと奇声を上げながら窓ガラスや壁に蹴りを入れていた。まさにやりたい放題だった。
何が楽しいのかしらんが、見ているだけでこめかみがヒクつく。偉大な人物であれば、こういう連中をも優しく受け入れ、改心するよう説き伏せるだろう。俺にはそんな聖者の心意気は持ち合わせていない。目には目を。タートルネックには皮むきを。基地の害には厳しいお仕置きが必要だろう。
クルマイスから相手を睨みつけると、その中の1人が俺を見つけ、ウヘヘヘッと気味の悪い薄笑いをうかべた。
「バカっぽい顔の奴が来たぞ」
「簡単そうな奴だな」
「やっちまうか」
「突き突きしまくっちゃお」
そんな薄汚い言葉が聞こえてきた。
「上等じゃねぇか」
この俺にケンカを売るのは命を粗末にするのと同じ事。手土産持参で死神に会いに行くのと同義語である。
以前、地球で同じような奴と出会ったが、得意技のジャーマン・スープレックスであの世へ送ってやった。ちなみに、友則のアイアンクローを受けた奴は、歩行困難で病院へ運ばれた。
場所は違えど、正義の心は宇宙にまで繋がる。
クルマイスのスピードを全開に上げ、奴らの目の前でビタッと急停車させた。ロケット弾のように飛び出した俺は、一番太そうな奴の鼻っ柱に頭突きをした。
目の前を星がチカチカ飛び回った。
「いってぇー。なんて硬いんだ」
頭を押さえながら倒れた奴を見ると、頭部のおちょぼ口から泡状の液体を吐き出して白目を向いていた。
100キロ前後のスピードからミサイルみたいに飛び出し、鼻っ柱へカウンター気味に入ったのだから耐えられる訳がない。体を仰け反らせてビックンビックン痙攣している奴にウォーターガンを浴びせた。
瞬間で蒸発した。
「フンガァ。て、てめぇー」
「フゴフゴ。仲間をやりやがってぇ」
「アフアフッ。何者だぁ~」
目の前で仲間をやられたチンカースバロ星人は鼻息を荒くし、青筋を立てて興奮し始めた。
「おら、遠慮はいらねぇ。かかって来い!」
「き、貴様ぁぁ」
「何だ。ビビったのか? 根性ねぇな」
「だ、誰が貴様なんかにビビるかっ!」
「四の五の言わずかかって来いよ。皮被り野郎が」
「く、くぉの野郎ぉぉぉ」
俺の挑発に太くて短い奴が「ふんがぁぁ~」と叫びながら頭突きで向かってきた。スピードはかなりのもので、まともに受けたらヤバそうである。
俺はクルリと反転し、インターナショナルモーターキック。略してインモーを側頭部へ叩きつけた。そして振り向きざまウォーターガンを浴びせた。
溶けて無くなった。
短時間で2人も仲間を消されたチンカースバロ星人は、臭い液体をタラタラさせて焦り出した。
「お前、チージョ星人じゃないな」
「俺は地球生まれの三次様だ」
「地球? 三次?」
「初対面で呼び捨てか? 三次様だろ。ほら言ってみ!」
「何が三次様だ。クソみたいな名前だな」
「チンカスに言われたくねぇよ」
「だ、誰がチンカスだ!」
静まり返った商店街に響き渡る争いの声。外の騒ぎを聞きつけた人々は、窓の隙間から恐る恐るこちらを覗いていた。すでに2人も消し去った事で、彼らの視線に期待感が溢れていた。
残るは短小の奴と長身の柔らかそうな野郎だけ。
「お前ら、手応えがねぇな」
「な、仲間2人もやりやがって。許さんぞ」
「御託はいいって言ってんだろ」
「な、なめやがって」
「カスがいくら溜まっても所詮カスはカスだ。臭いだけだぞ?」
「グギギギィィィ」
「まずはタートルネックを手術してから来い!」
「ムギィーーー!」
青筋の血管がはち切れんばかりにイキリ立った2人は、背中から銃を取り出した。
「銃撃戦か。受けて立つぜ」
こちとら、小学校の頃から慣れ親しんでいる。卑怯極まりないクレイジーソルジャーを相手に何度も勝利してきた。最新ショットガンを手にした奴と、噴霧器を背負った奴をピストル1本で駆逐してきた。
水の代わりにタバスコ水を入れたので俺が一番卑怯なのだが……。
奴らは左右から俺を追い詰めようとした。銃を片手にジリジリ近づいてくる。
だが、中身は水である。彼らにとっては最強の武器でも俺にとっては濡れるだけ。恐れる要素など1つもなかった。
「地獄で詫びろ!」
即座にウォーターガンを構えた俺は、奴らめがけてカリスマクレイジービーム。略してカリクビを浴びせた。
全て消え去った。
その途端、商店街の窓が一斉に開き、拍手喝采が巻き起こった。飛び出してきて握手を求めたり、抱きついてくる者までいた。
みんなに褒められるのは気分のいいものである。俺は「いやいや。こんなの朝飯前ですよ」的な顔をし、人々に大声で説明した。
「みなさん。チンカースバロ星人は水に弱いんです。もし奴らが襲ってきたら水をかけてください。そうすれば消えていなくなります」
その言葉で住民に安堵の表情と笑顔が戻った。
対策しようもにも方法が分からず、恐怖に怯えながら家の中で震える日々。一歩外へ出れば無差別に襲われ、理不尽な暴行を受けて病院送りにさせられてしまう。打ち所が悪ければ死に至る事だってある。
しかし相手の弱点が分かった今、多少なりとも対策を講じられる。それは彼らにとって明るい光が差した瞬間であろう。
沢山の人に囲まれて調子に乗っていると、1人の老人が俺の傍へ来て肩を叩いた。
「君、本当にありがとう」
「いえ。こんなの朝飯前ですよ」
「彼らと戦うなんて度胸があるんだね」
「あんな奴らは余裕です」
「本当は我々が立ち向かわねばいけないのに……」
「大丈夫です。俺、こういうの得意ですから」
「心から感謝するよ」
「感謝なんて要りませんよ。みんな仲間じゃないですか」
「す、素晴らしい!」
俺を褒めたたえた老人は、髪の毛が白髪オールバックでベストに蝶ネクタイをあしらい、アゴヒゲを生やしていた。喫茶店のオーナーっぽい風貌でいかにも洒落た出で立ちであった。
「私はこの商店街で会長をしている、オナーン・ナカセドチンチだ。その対策法を詳しく聞かせてくれないか?」
女泣かせのちんちん?と聞こえたが、会長にしておこう。
会長の言葉に従い、俺は持っていたホースと風船を手渡した。そして商店街の人々に作り方と使い方をレクチャーした。
「これは簡易のモノですが効果はあると思います」
「そうか。こういう撃退方があるのか」
「数があまりないので全員にお配りすることは出来ませんが」
「いや。あるのと無いのとでは雲泥の差だよ」
「少ないけど置いて行きますね」
「ありがとう。助かるよ」
ホースと風船を手渡し、急いでクルマイスに飛び乗った。
「君。君はこれからどこへ行くんだね?」
「友達の所へ行って対策のレクチャーをして来ます」
「そうか。気を付けて行くんだよ」
「ありがとうございます」
「私はそこで喫茶店を経営してるから、落ち着いたら来なさい」
「はい。分かりました」
「お礼にたらふく食べさせてあげるよ」
「楽しみにしてます」
会長と商店街の人々に手を振り、再びココ家へ大爆走した。




