戦闘準備開始
ミーーン、 ミーーン。
セミの鳴き声がした。
「三次。起きて」
大丈夫だ。チージョ星は俺が守る。
「ちょっと。分かったから起きて」
チンカースバロ星人……勝利は……我が手に。
「なに言ってんの」
ジーク・サンジー!
「起きなさーーーーい!」
額を硬い何かで叩かれて目が覚めた。
「ここはどこ?」
「チージョ星よ」
「チンカースバロ星人は?」
「誰よ、チンカースバロ星人って」
「……」
俺がチージョ星の為に10万光年を往復している最中、君は優雅にお茶をしていたのかい? それはそれで構わないのだが、さっきから額がズキズキするのだ。
……もしかしてその手に持ったコップか?
ラムに叩き起こされた俺は、素早く研究室へ行った。そしてホースと水鉄砲とゴム風船をパパに見せた。
「パパさん。これ作れますか?」
「何これ?」
「これはホースと水鉄砲とゴム風船です」
「……はい?」
「水を噴出させる道具です」
「水を噴出してどうするの?」
「え?」
そういえば、慌て過ぎて説明を忘れていた気がする。
彼らの名前はチンカースバロ星人という。地球で格闘した時に本人から直接聞いたので間違いない。彼らはチージョ星に何人も潜んでいる。仲間がどうこう言っていたので、これまた正しい情報である。
奴を川へ投げ捨てた時、一瞬で消滅してしまった。そして持っていた銃から検出されたのは水道水である。以上の観点から推測するに、チンカースバロ星人は水に弱いのではないか。
水に弱いのであれば、地球には水を噴出させる道具がいくつかある。
ホースは蛇口に取り付け、先っぽを押しつぶせば遠くまで飛ばすことが出来る。しかも2匹まとめて撃退する事も可能である。
水鉄砲はその名の通り銃で、タンクに水を積んで空気で押し出すためターゲットに近づかなくても攻撃が出来る。
風船はゴムの中に水を入れてそれを相手に投げつける。いわば手榴弾のような役割。軽く扱いやすいので女性でも子供でも身を守る道具として使える。
それらを思いついたので地球まで取りに行った。
と説明した。
「す、素晴らしい。名推理だ!」
「い、いやぁ~」
「三次君。凄いよ君は!」
「それほどでもありませんよ」
「相手を見極め、弱点を推理し、行動力にも優れている。アッパレだ」
「この俺に任せてください!」
「君の天才的頭脳は宝だよ」
た、宝なのか? 俺の頭脳が?
褒められたら調子に乗るのは宮本家伝統だが、いくら何でもそれは言い過ぎな気がするぞ。
「三次君。貴重な情報をありがとう。私はこれから防衛本部に報告するよ」
そい言うと、パパは滑らかに消えて行った。
残った俺はラムにホースの使い方と水風船の作り方を伝授した。
「この蛇口にこのホースを取り付ける」
「こうね」
「そして蛇口を捻ると水が出るだろ?」
「うん」
「この先っぽをギュッと潰すと、水が2手に分かれて遠くへ飛ぶんだ」
「へぇ~。凄いね。結構遠くまで飛ぶんだね」
「本来は花や庭に水をやる道具なんだけど」
「地球ではこれでお庭に水を撒くの?」
「そうだよ」
蛇口の口径が合うか心配だったが、無理やりねじ込んで何とかなった。普段からMy露天風呂として何度もお世話になっている外水道である。「地球の作りと似てるな」と思っていたので、たぶんホースは取り付け可能だろうと推測した。
ダメならパパに作ってもらえばいいし。
20メートル以上あるホースは使いにくいため、2メートルくらいに切り刻んでショートホースにした。
次に水風船の作り方を教えた。
「この口から水を入れる」
「ここね」
「ある程度膨らんだら、ここを結ぶ」
「こうね」
「これで完成だ」
「丸くて可愛い」
「盆踊り大会の屋台で見た事あるだろ?」
「ああ。あれって、これだったの?」
「まあ似たようなものだな」
ラムは水風船を両手でポンポンと上下に弾いた。その拍子に風船がパン!と割れ、足元が水浸しになった。
「きゃっ。割れちゃった」
「あまり強く弾くと割れちゃうんだよ」
「繊細なのね」
「これは女の子でも扱いやすいだろ」
「うん。作り方も簡単だしね」
これでラムは何とかなりそうだ。後はココとミルクさんである。
色んな事で何度もお世話になり、温泉まで一緒に入った仲だ。柔らかい風船を味わった肉体関係にある。惑星イップターサイを熱望する俺にとっては、この2人の安全を確保するのも役目であろう。
「ラム。これをココとミルクさんの所へ持って行ってくれないか」
「分かった。渡してくる」
「くれぐれも町には出るなよ」
「うん。分かった」
「瞬間移動で素早く帰って来いよ」
「分かった」
ホースと風船爆弾を持ったラムは頭上へ消えて行った。
バシャ。バシャバシャ。
俺の頭上に風船爆弾が降り注いだ。爆弾でビショビショになった後、ホースがコツンと落ちてきた。
ドリフのコントかっ!
「ごめんごめん」
ラムが再び姿を現した。
そう。すっかり忘れていたが同化である。
チージョ星にある物質は全てが同元素で表される。仮にラムの元素記号をHだとしよう。建物、木々や草花、水から空気に至るまで記号はHである。
全てが同じ物質であるため、同化という特殊能力が使えるんだとか。しかし、風船とホースは地球素材の物質で次元を超えられないのだ。
頭が壊れそうなので小難しい説明はこのくらいにするが、要するに、ラムがこれらを持って移動するのは不可能という事だ。
となると、誰かが直接現地へ運ぶしかない。
現時点で彼女を一人歩きさせるのは危険極まりない。いくら瞬間移動が可能とはいえ、逃げ遅れたら大変である。それに彼女は運動神経が悪い。
「仕方ねぇな。俺が行くか」
「大丈夫?」
「ココやミルクさんにもしもの事があったら大変だからな」
「気を付けてね」
「まあ、何とかなるだろ」
「無理しちゃダメよ」
「心配すんな」
「ケガだけは絶対にしないでね」
「大丈夫だ。俺を信用しろ」
「絶対に約束だよ!」
「その代わり、お前は家から一歩も出るなよ」
「分かった」
風船をメットインに大量に押し込め、ウォーターガンを満タンにした。
頬を2~3回ブッ叩き、気合十分でクルマイスに乗った。
「よっしゃ。どっからでもかかって来いやぁぁーー!」




