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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
番外編 チージョ星に危機が
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銃の中身は何ですか

 ミーーン、 ミーーン。

 セミの鳴き声がした。


 セミは止まれそうだと判断した場所に手あたり次第突撃する習性があり、壁や枝にぶつかりながら飛翔する事が多いとか。手当たり次第に突撃する様が俺のようで愛着が湧く。

 などと呑気に構えている場合ではない。


 飛び起きた俺は銃を持って研究室へ走った。一刻も早く内容物を確認しなければ女子更衣室で、


「三次ぃ~。また胸成長した?」

「いやだぁ~。どこ見てるのよ、ラム子ったらぁ~」


 という事になる。


 大慌てで研究室の窓を開けると、パパが大慌てで俺を招き入れた。


「おお三次君。無事だったか」

「はい?」

「もし地球で何かあったら取り返しがつかないと焦ったよ」

「何の事でしょうか?」

「君なら何とかなるだろうとは思ったが……無事でよかった」


 パパの焦りは例のチンカースバロ星人だった。


 ハカイダナデシオで大掛かりな調査が始まった。

 惑星を挙げての一大プロジェクトである。学者や研究者を始めとして、医療、警察、惑星防衛軍までが入り乱れ、静かで人っ子一人いなかった未開の地が商店街のような賑わいを見せていた。

 言わずもがな。ここは灼熱極薄酸素地獄である。

 息を吸うのも困難な状況下での作業は難航を極めた。長時間の労働は体力を奪い精神が摩耗する。パパも仲間たちも宇宙船内で休み休み働いていた。

 様々な人が出入りする中、不思議な格好をした人物を見かけた。その容姿からチージョ星人でないのは明らかだった。

 惑星の根本を揺るがす前代未聞のプロジェクトである。「他の惑星から学術研究に来ているのだろう」そんな風に思い気にも留めなかったらしい。


 ところが……。


 一仕事終えて休憩しようと戻った所、あるはずの場所に宇宙船がなかった。突如目の前から消えてしまったんだとか。

 突然の出来事に驚いたパパは、周りの学者たちに情報提供を呼び掛けた。だが、みな忙しく働いているため確認している者などいなかった。

 しばらく辺りをウロウロしながら聞き回っていた時、「さっき変な男が船内に入っていった」との目撃情報を入手した。姿形を詳しく聞くと、先ほどパパが見た人物に酷似していた。

 チージョ星人以外を宇宙船に乗せるのは禁止されている。

「これはマズイ」という事になり、近くにいたチージョ防衛軍にその旨を伝えた。防衛軍は即座に宇宙船泥棒として捜査に乗り出した。

 しかし、いくら探しても見つからなかった。痕跡もなければ行き先も不明。相手がどこの誰なのかも分からない。まるで雲を掴むような話である。

 予想だにしない怪事件に調査は一旦中止し、略奪者の確保に全力を注いだ。


 調査が打ち切りになり自宅へと戻ったパパは、自室で不可解な出来事を反復していた。


「どうやって中に入ったのだろう。宇宙船に扉は付いていない。チージョ星人じゃなければ侵入は不可能なはず。同化の能力がなければ船内へ入れな……ん?」


 とある事に気付いた。


 慌てて倉庫内にある宇宙船を調べた。調査に使った船体は俺が毎回使用している三次専用スターシップだった。

 ちなみに、俺はこの宇宙船を「木馬」と呼んでいるが……。

 三次専用という事は開閉ボタンが付いている。犯人はそれを使って内部侵入し、そのまま飛び立った。

 さらに運の悪い事に、船内にはアイノデリモンクーがセットされていた。木馬は常に地球へ向けて発進出来る状態だった。


「もしや地球に行ったのでは」


 そう推測したらしい。


 ブラボー! 見事に地球へ降り立ちましたよ、タートルネックが。



「で、どうしたの?」

「ブレンバスターで返り討ちにしました」

「ブレンバスター?」

「プロレスの技です」

「プロレス?」

「あっ、いえ。俺の必殺技です」

「凄い技を持ってるんだねぇ~」


 何事もなかったと知ったパパは安堵の表情を浮かべた。


「この話には続きがあってね」


 盗まれた宇宙船を探して惑星中を飛びまくった防衛軍は、とある場所でチンカースバロ星人を数名発見した。てっきり1人だけかと思っていたが数名もいることに驚き、慌てて確保しようとした。しかし、奴らの容赦ない突きで腰砕けになり取り逃がしてしまった。捕まる前に逃げるのが悪人の鉄則。奴らはバラバラに逃走したため、探し出すのがより困難な状態になった。


「連中が暴れ出して住民に被害が及ぶ可能性がある」


 そう考えた防衛軍は、惑星全土に緊急外出禁止命令を出した。

 現在も血眼で探しており、生物学者や惑星調査団がチンカースバロ星人の生態について調べている途中である。


「大変な事になってきましたね」

「そうなんだよ。私が油断したばっかりに……」

「パパのせいではないですよ」

「そう言ってくれると安心するよ」

「奴らはその前から潜んでいたと思います」

「どうして分かるの?」

「町に散らばった仲間がどうのこうのって言ってましたから」

「そう、かぁ」


 パパは自分の責任だと思っているらしいが、それは違うと思う。奴と戦った際、話しぶりから1人ではない事は明らかだった。惑星の内情にも詳しく、以前から潜入していた可能性が高いと思われる。


「パパさん。この中身を調べてもらえませんか?」

「これって銃だよね」

「奴らが持っていた銃です」

「どうやって手に入れたの?」

「奪い取ったんです」

「凄いね、三次君」


 俺は地球の出来事を詳しく説明した。


「銃で撃たれたのに平気なの?」

「今のところ何ともありませんが」

「……地球人って不死身なの?」

「銃の中身が分かれば対策方法が見つかるかもしれません」

「分かった。早急に解明するよ」


 銃を手渡して研究所を後にした俺は、ラムの部屋の窓へ移動した。


 コンコン。


「おいラム。無事か?」

「さ、三次ぃぃーーー」


 俺の問いかけに勢いよく窓が開いて不安げなラムが顔を出した。そして涙目で抱き付いてきた。

 よほど怖かったのだろう。ピッタリくっついて離れようとしない。俺は頭をいい子いい子しながら室内へ入った。


「三次。来てくれたの?」

「ああ。メッセージが届いたからな」

「読んでくれたの?」

「ま、まあな」

「私のために。う、嬉しい!」


 再びギューッとされた。

 本当は読めなかったのだが、そこは直感だけ発達している三次様である。さらに頭をナデナデしながら「詳しく話せ!」とクールに決めた。



 異変は1か月ほど前からだという。


 事件など無縁のチージョ星で得体の知れない生物に襲われる出来事が多発した。

 襲われた相手は体中アザだらけになって病院に運ばれた。幸い命に別状はなく、チージョ医療のお陰でアザは2日で完治した。

 警察関係者は襲われた人に事情聴取をして犯人検挙に乗り出した。だがいくら探しても手がかりはなかった。

 それからしばらくして、アザを作って病院にやってくる人が急激に増えた。特に女性が頻繁に狙われたらしい。

 彼女たちから詳しく事情を聞くと、相手は同種の生物だという事が判明した。襲われた日時や場所はバラバラだった。もちろん被害者は面識もなければ暴行される心当たりもない。

 初めは単独犯かと思っていたが、どうやら複数人で犯行に及んでいる。


「これは無差別テロだ」


 そう断定したチージョ警察は、本格的に捜査に乗り出した。

 ちょうどそのタイミングでパパが宇宙船を盗まれ、盗んだ相手が同種族だと判明。警察どころかチージョ防衛軍までが動き出した。


「学校のお友達も襲われたみたいなの」

「その人は大丈夫だったのか?」

「瞬間移動で無事だったけど、凄く乱暴な動きだって言ってた」

「無事で良かったな」

「イヤらしい感じで前後にカクカク動くらしいわ」

「確かに」

「しかも臭い液体を吐き出すらしいの」

「……ラムは大丈夫なのか?」

「私は学校から真っすぐお家へ帰るから大丈夫」

「安心したよ」

「未だ商店街や住宅街をウロウロしているらしくて」


 瞬間移動が使えるからまだマシだ。これが他の惑星だったらパニックに陥るだろう。奴らの突きは尋常じゃないくらい激しく力強い。少しでも油断すると天国行である。

 元々、野菜みたいなチージョ星人に肉弾戦は厳しいだろう。


「パパから聞いたけど、もしかして地球に現れたの?」

「ああ。俺の目の前にガッツリ現れたぜ」

「大丈夫だったの? ケガはない?」

「あんなチンカス野郎に負ける訳ないだろう」

「チンカ……ス?」


 ラ、ラムちゃん。女の子がそんな言葉を使ってはいけません!


「やっつけたの?」

「もちろん。軽く撫でてやったら一発さ」

「三次。すごーーーい!」

「まあ、な」


 正直ちょっと苦戦したが、俺は宇宙戦士サンジーである。あんなヘナチョコ突きなどビクともせんわ。


「私に何かあったらお願いね」

「安心しろ。命に懸けても守ってやるよ」

「ありがとう」


 びちゅーっと抱き付かれた。

 これ以上やられると俺がチンカースバロ星人になっちゃう。

 俺の突きは……。



「三次君。中身が分かったよ」

「ひょえぇぇぇーー」


 突然パパが現れた。

 む、娘と抱き合っている最中に現れるな。例えチージョ星の日常挨拶だったとしても、すっごい複雑な心境だから。


「中身は何でしたか?」

「水だよ」

「水?」

「間違いなく水。水道水と同じだね」

「……マジっスか」


 これで全てが判明した。チンカースバロ星人は水に弱い。

 奴らは自分の弱点である水が相手にも効果的だと思っている。そこで銃に水を仕込んで敵を亡き者にしようと企んだのだろう。だが、俺からすれば水鉄砲と同じ事。股間がしっとり濡れただけで実害はない。

 さらにブレンバスターで川に放り投げた時、「ジュッ!」という音と共に消え去った。これは彼らが水に溶ける性質を持っているため一瞬で蒸発したと思われる。


「パパさん。この星に水鉄砲ってありますか?」

「水で棒?」

「ホースは」

「干す?」

「……」


 だと思った。


「ちょっと地球へ行ってきます」

「ち、ちょっと三次君」

「俺に任せて下さい!」


 窓を昭和風に飛び越え、一目散で宇宙船へ向かった。





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