裏切り者は処罰する
次の日。
「つ、つめた--い。止めろ。ホントに止めろ!」
俺は「 川の水に真っ裸で浸かる刑」に処せられていた。
早朝、ベランダの窓が乱暴に開けられ、2人の賊が突入して来た。寝起きで抵抗出来なかった俺は、両腕を囚われた宇宙人のように抱えられた。そして全裸で川に沈められた。
背中には友則が重石のように乗っかっている。
「おい、昨日のあれは何だ」
「あれって?」
「とぼけんじゃねぇ。一緒にいた子だよ」
「あ、あれは親戚の子で」
「親戚だぁ? じゃ、なぜ逃げた」
「……」
「おい答えろ!」
「黙秘権!」
「いい根性してるじゃねぇか」
「お陰様でな」
「てめぇー。調子に乗るのも今のうちだぞ」
「ケッ。笑わせんじゃねぇーよ」
「克己、例のモノ持って来い」
友則の指示にOKサインを出した克己は、クーラーボックスを開けた。ボックスから取り出したのは氷の塊だった。しかも、かき氷に使う業務用のヤツである。
人を貶める為に業務用まで用意するとは。一体どうやって手に入れたのだろうか。決して褒められたものではないが、ある意味で尊敬する。
氷を片手に薄汚い笑顔の克己。
「三次。覚悟はいいな」
「何が覚悟だ。このクソバカタレがっ!」
「言いたい事はそれだけか?」
「うっせーんだよ」
「俺らを裏切ったバツだぜ。骨の髄まで冷えてもらおうか」
「やれるもんならやって……ウッギャァーー。ま、まじ冷てぇー!」
問答無用で背中へ塊を乗せてきた。こいつらにハッタリは通用しない。思考回路が動物以下なので話し合いは無理である。
業務用は溶けるまでに時間が掛かる。既に背中の感覚はなく、冷たいを通り越して熱い。それを知ってか知らずか、友則は隠微な顔で背中の氷をサワサワした。
「ホントのこと言うか?」
「……」
「正直に言え! じゃないと尻の穴に……」
「わかった。悪かった。謝る」
「じゃ誰だ?」
「こ、交換留学生」
「ふざけんな。克己、もう1個だ!」
「ちょっと待て。何個持って来てんだよっ!」
「白状するまで止めねぇぞ」
「ここは沢蟹とかいるんだぞ。挟まれたらどうするんだよ」
「いいねぇ。挟まれろ。そして使い物にならなくなれ」
「マ、マジで止め……」
ギョェェーー。は、挟まれた。何かにどこかを挟まれたぁぁぁ!
俺は寒さに凍えながら服を着た。炎天下だというのに震えが止まらなかった。
いくら猛暑とはいえ、自然の水は体温を全部持っていかれるくらい冷たい。山から流れてくる雪解け水だもの。しかも氷の塊とダブルパンチは皮膚細胞を破壊する。
マジで寒いんですけど……。
その後、追及の手は緩まず怒涛の質問攻撃を浴びせられた。観念した俺は真実を告白した。
交換留学生が遊びに来たので1日だけ付き合った。
祭りを見た事がないというので、しぶしぶ連れて行った。
爆竹を鳴らす所を見せたら、たまたま君たちが通りかかった。
逃げたのではない。太鼓の音が聞こえたので急いで会場へ向かった。
そう説明した。
「辻褄はあってるな。でも納得いかないな」
腕を組みながら疑いの視線を向ける友則。
そりゃそうだろう。しゃべってる俺も納得いかないもの。
「で、どうして俺たちに紹介しない?」
克己が睨みながら聞いてきた。
「お前らに紹介したらロクな事教えないだろ」
「何でだよ。友則と違って俺はまともだぜ」
「ふざけんな。お前この間、妹の部屋に忍び込んだろ」
「ゲッ、な、なぜそれを」
「何やら物色したらしいな」
「いや、つい出来心で」
「テメェのせいで俺が疑われているんだ」
「……」
克己を黙らせた。
こいつの性癖のせいで俺はあらぬ疑いをかけられている。顔を合わせるたびに、「私の部屋へ勝手に入らないで」と忠告されるが、妹の部屋など1フェムトも興味がない。もし仮に、万が一にも興味があるとすれば貯金箱だけである。
侵入者が誰なのかは一目瞭然だ。親友である以上、盾となって貴様の名誉を守っている。その辺りを含めて猛反省しろや!
お次は……。
「おい友則。お前、渡辺の体操着で良からぬ事をしたらしいな」
「な、何を根拠にそんな根も葉もないことを」
「見たヤツがいるんだよ」
「誰だそいつ、連れて来い。ぶっ飛ばしてやる!」
「しかも短パンを頭に被ったらしいじゃねぇか」
「そ・れ・は……」
友則を怯ませた。
日頃から授業はサボっておくべきである。目撃したのは他でもない。この俺だ。
短パンを被って悦に入っている所を草葉の陰から見守ったのだ。貴様の僅かなプライドを傷つけまいと口を閉ざしていたが、こんな所で役立つとは思わなかったぜ。
お前が出て行った後、クラス委員の小池の短パンを被ったのは内緒だけどな!
「そんな変態野郎に紹介できるかよ」
「誰が変態だよ」
「お前に決まってんだろう。まともな奴が短パンなんて被るか?」
「うっせーよ。この鬼畜やりチン野郎が」
「まさか変態に鬼畜と言われる日が来るとはな」
「き、貴様ぁ~」
「紹介した時点で下心丸出しで尻触るだろうがっ!」
「ふざけんな。俺だって初対面にするほどバカじゃねぇよ」
「じゃ、この間の海はどうなんだ? 知らない女性に抱きついてただろ」
「あれは、おふざけだよ」
「度が過ぎるんだよ!」
「お前らを楽しませてやったんだろうが」
「こちとら楽しくねぇんだよ」
「おい三次。いい加減にしとけよ」
「そりゃこっちのセリフだぜ。バカチンが!」
「……テメェー。やんのか?」
「おう、上等だ。やってやんよ!」
うーむ。やはり一筋縄ではいかない。
「まあまあ、もうやめようぜ。三次も反省してることだしさ」
俺と友則が一触即発になったのを察した克己は、間に入って友則を止めた。
よし、良くやった。脱ぎたてホヤホヤを持ってきてやるからな!
その後、穏やかな話し合いの末、納得はいかないが許容してやる。という事で今回の件は保留になった。
「ところで三次」
「何だよ」
「明日は来るんだろうな」
「えっ?」
友則の問いにドキッとした。
3日間かけて行われる最大の夏祭り。その最高潮である花火大会は、心の底から楽しみにしているイベントである。
「また裏切るつもりじゃねぇーよな」
「そ、そんな事するかよ」
「本当か?」
「もちろんだとも親友」
「怪しいな……」
「……」
「次やったら股間にタバスコの刑だからな」
「何だよ。そのぶっ壊れた刑は!」
「今度は言い訳は通用しねぇぞ」
「……」
狂った刑を突き付けられた俺は、男と男の固い契りを結び奴らと別れた。
男同士の約束を反故にしたら立場を失う。それは仲間を失うのと同じ事。裏切りは決して許されない。
明日はどんな事があろうと……。