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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
9/52

裏切り者は処罰する

 次の日。


「つ、つめた--い。止めろ。ホントに止めろ!」


 俺は「 川の水に真っ裸で浸かる刑」に処せられていた。

 早朝、ベランダの窓が乱暴に開けられ、2人の賊が突入して来た。寝起きで抵抗出来なかった俺は、両腕を囚われた宇宙人のように抱えられた。そして全裸で川に沈められた。

 背中には友則が重石のように乗っかっている。


「おい、昨日のあれは何だ」

「あれって?」

「とぼけんじゃねぇ。一緒にいた子だよ」

「あ、あれは親戚の子で」

「親戚だぁ? じゃ、なぜ逃げた」

「……」

「おい答えろ!」

「黙秘権!」

「いい根性してるじゃねぇか」

「お陰様でな」

「てめぇー。調子に乗るのも今のうちだぞ」

「ケッ。笑わせんじゃねぇーよ」

「克己、例のモノ持って来い」


 友則の指示にOKサインを出した克己は、クーラーボックスを開けた。ボックスから取り出したのは氷の塊だった。しかも、かき氷に使う業務用のヤツである。

 人を貶める為に業務用まで用意するとは。一体どうやって手に入れたのだろうか。決して褒められたものではないが、ある意味で尊敬する。

 氷を片手に薄汚い笑顔の克己。


「三次。覚悟はいいな」

「何が覚悟だ。このクソバカタレがっ!」

「言いたい事はそれだけか?」

「うっせーんだよ」

「俺らを裏切ったバツだぜ。骨の髄まで冷えてもらおうか」

「やれるもんならやって……ウッギャァーー。ま、まじ冷てぇー!」


 問答無用で背中へ塊を乗せてきた。こいつらにハッタリは通用しない。思考回路が動物以下なので話し合いは無理である。

 業務用は溶けるまでに時間が掛かる。既に背中の感覚はなく、冷たいを通り越して熱い。それを知ってか知らずか、友則は隠微な顔で背中の氷をサワサワした。


「ホントのこと言うか?」

「……」

「正直に言え! じゃないと尻の穴に……」

「わかった。悪かった。謝る」

「じゃ誰だ?」

「こ、交換留学生」

「ふざけんな。克己、もう1個だ!」

「ちょっと待て。何個持って来てんだよっ!」

「白状するまで止めねぇぞ」

「ここは沢蟹とかいるんだぞ。挟まれたらどうするんだよ」

「いいねぇ。挟まれろ。そして使い物にならなくなれ」

「マ、マジで止め……」


 ギョェェーー。は、挟まれた。何かにどこかを挟まれたぁぁぁ!



 俺は寒さに凍えながら服を着た。炎天下だというのに震えが止まらなかった。

 いくら猛暑とはいえ、自然の水は体温を全部持っていかれるくらい冷たい。山から流れてくる雪解け水だもの。しかも氷の塊とダブルパンチは皮膚細胞を破壊する。

 マジで寒いんですけど……。


 その後、追及の手は緩まず怒涛の質問攻撃を浴びせられた。観念した俺は真実を告白した。


 交換留学生が遊びに来たので1日だけ付き合った。

 祭りを見た事がないというので、しぶしぶ連れて行った。

 爆竹を鳴らす所を見せたら、たまたま君たちが通りかかった。

 逃げたのではない。太鼓の音が聞こえたので急いで会場へ向かった。


 そう説明した。


「辻褄はあってるな。でも納得いかないな」


 腕を組みながら疑いの視線を向ける友則。

 そりゃそうだろう。しゃべってる俺も納得いかないもの。


「で、どうして俺たちに紹介しない?」


 克己が睨みながら聞いてきた。


「お前らに紹介したらロクな事教えないだろ」

「何でだよ。友則と違って俺はまともだぜ」

「ふざけんな。お前この間、妹の部屋に忍び込んだろ」

「ゲッ、な、なぜそれを」

「何やら物色したらしいな」

「いや、つい出来心で」

「テメェのせいで俺が疑われているんだ」

「……」


 克己を黙らせた。

 こいつの性癖のせいで俺はあらぬ疑いをかけられている。顔を合わせるたびに、「私の部屋へ勝手に入らないで」と忠告されるが、妹の部屋など1フェムトも興味がない。もし仮に、万が一にも興味があるとすれば貯金箱だけである。

 侵入者が誰なのかは一目瞭然だ。親友である以上、盾となって貴様の名誉を守っている。その辺りを含めて猛反省しろや!


 お次は……。


「おい友則。お前、渡辺の体操着で良からぬ事をしたらしいな」

「な、何を根拠にそんな根も葉もないことを」

「見たヤツがいるんだよ」

「誰だそいつ、連れて来い。ぶっ飛ばしてやる!」

「しかも短パンを頭に被ったらしいじゃねぇか」

「そ・れ・は……」


 友則を怯ませた。

 日頃から授業はサボっておくべきである。目撃したのは他でもない。この俺だ。

 短パンを被って悦に入っている所を草葉の陰から見守ったのだ。貴様の僅かなプライドを傷つけまいと口を閉ざしていたが、こんな所で役立つとは思わなかったぜ。  

 お前が出て行った後、クラス委員の小池の短パンを被ったのは内緒だけどな!


「そんな変態野郎に紹介できるかよ」

「誰が変態だよ」

「お前に決まってんだろう。まともな奴が短パンなんて被るか?」

「うっせーよ。この鬼畜やりチン野郎が」

「まさか変態に鬼畜と言われる日が来るとはな」

「き、貴様ぁ~」

「紹介した時点で下心丸出しで尻触るだろうがっ!」

「ふざけんな。俺だって初対面にするほどバカじゃねぇよ」

「じゃ、この間の海はどうなんだ? 知らない女性に抱きついてただろ」

「あれは、おふざけだよ」

「度が過ぎるんだよ!」

「お前らを楽しませてやったんだろうが」

「こちとら楽しくねぇんだよ」

「おい三次。いい加減にしとけよ」

「そりゃこっちのセリフだぜ。バカチンが!」

「……テメェー。やんのか?」

「おう、上等だ。やってやんよ!」


 うーむ。やはり一筋縄ではいかない。


「まあまあ、もうやめようぜ。三次も反省してることだしさ」


 俺と友則が一触即発になったのを察した克己は、間に入って友則を止めた。

 よし、良くやった。脱ぎたてホヤホヤを持ってきてやるからな!


 その後、穏やかな話し合いの末、納得はいかないが許容してやる。という事で今回の件は保留になった。


「ところで三次」

「何だよ」

「明日は来るんだろうな」

「えっ?」


 友則の問いにドキッとした。

 3日間かけて行われる最大の夏祭り。その最高潮である花火大会は、心の底から楽しみにしているイベントである。


「また裏切るつもりじゃねぇーよな」

「そ、そんな事するかよ」

「本当か?」

「もちろんだとも親友」

「怪しいな……」

「……」

「次やったら股間にタバスコの刑だからな」

「何だよ。そのぶっ壊れた刑は!」

「今度は言い訳は通用しねぇぞ」

「……」


 狂った刑を突き付けられた俺は、男と男の固い契りを結び奴らと別れた。


 男同士の約束を反故にしたら立場を失う。それは仲間を失うのと同じ事。裏切りは決して許されない。

 明日はどんな事があろうと……。





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