とにかくチージョ星へ
川へぶん投げたはずが跡形もなく消え去ったチンカースバロ星人。あまりにも意外な展開にボー然とした。
何がどうなっているのか理解不能である。
生物が瞬間的に消えるものだろうか。ただ、それは人間的な感覚であり相手は宇宙人だ。宇宙には想像を遥かに超えた出来事が山ほどある。これまで幾つもの不思議体験をしてきた。
可愛い女の子が地球へやって来た。人類初の他惑星へ舞い降りた。花火の制作、温泉ツーリズム、ハカイダーとの壮絶な戦い。ミルクさんの豊かな膨らみに爆死寸前になった。
どれもこれも科学では証明出来ない未知なる世界である。何が起こっても不思議ではない。
もしかしたら瞬間移動を使ってどこかへ逃げたのかもしれない。チンカースバロ星人は水と同化出来る生命体という事も考えられる。
冷静に現状を把握しても宇宙船は間違いなくチージョ星のモノだ。さらに、奴が言っていた「殲滅」という言葉が気になる。
「こうしちゃいられん!」
奴の持っていた銃と放り投げたリュックを拾い、すかさず宇宙船へ乗り込んだ。
フィーーン、フィーーン。
シュパッ!と悪に立ち向かう正義の音が聞こえた。
焦っている時は時間の経過が長く感じられる。いつもなら2時間などあっという間に過ぎる。女体研究をしている時など、気付いたら朝だった、という事もしばしばだ。
イライラが募って何度もドアを蹴破りそうになったが、俺は冷静さと知性を備えた宇宙戦士。感情のコントロールが出来る男である。
白一色の精神を痛めそうな船内でワンパターンに考えてみた。
川にぶん投げた時の「ジュッ!」という音が気になるな。あれって瞬間的に蒸発した音だと思うのだが。漫画じゃあるまいし、生物ってそう簡単に消滅するものなのかな?
奴が言っていた「殲滅」という言葉も気になる。もし本当だとすると、チージョ星が壊滅状態に追い込まれているという事だ。ラムはもちろん、パパもママもココもミルクさんも、みんな殺されたのか?
それが現実だとしたら絶対に許さん。お前らの惑星を探し出して木っ端みじんにしてくれるわ。俺はこう見えて執念深いんだぞ。
宇宙戦士サンジーをなめるんじゃねぇぇーー!
逆に瞬間移動をキメ、死んだと見せかけて生きていたとしたら。再び奴が現れて町で暴れたとしたら……。
まあ、その辺は大丈夫だろう。我が町には友則克己のクレイジーソルジャーがいる。
「ち、ちんかす。ガハハハ! お前面白い奴だな」
「おい友則。こいつタートルネックだぜ」
「色といい、形といい、なかなか男らしいじゃねぇか」
「よし。こいつをとっ捕まえて剥いちゃおうぜ!」
「どうする? 一気に逝くか、ジワジワ逝くか」
「当然、根元まで一気だろ」
いくらチンカースバロ星人の突きが強力だったとしても、脳筋ゴリラの友則には敵わない。たぶん秒で仕留める。
半強制的に剥かれたチンカースバロ星人は阿鼻叫喚で詫びを入れるが、そんなので許して貰えるはずはない。あっという間に捕まえて「ムキムキ体験」という見世物小屋をオープンさせる。
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「世にも珍しいチンチンカスカスだよぉ~」
「そこのあなた、どう? 貴重な体験をしてみませんか」
「遠慮は要りません。根元までムキっとやっちゃって下さい」
甘い文句で人々を誘い、風営法違反で捜査のメスが入る。捕まりそうになった2人は、チンカースバロ星人に全てを押し付けて逃亡を図るに違いない。
涙目で強制労働……彼に同情しちゃうな、俺。
ところで、銃の中の液体は何なのだろう。
硫酸かと思ったらそうではないらしい。今の所は問題なく穏やかな下半身だが、後から劇薬成分がジワジワ効いてもげたりしないよな。ここでポロっと腐り落ちたら、俺は女性として生きて行かねばならなくなる。温泉もトイレも更衣室も女性の方を使わなくてはいけない。
うーむ。意外と楽しいかもしれん。
チージョ星に着いたらパパに成分を調べて……。
戦い疲れた戦士に訪れるしばしの休息。宇宙戦士サンジーは深い眠りについた。




