親友に囲まれて
「お前。どうしたんだよそれ!」
「は? 何が?」
「何でそんなに黒いんだ?」
「いやぁ~。ちょっとな」
「顔だけ白いって……変態じゃねぇか」
「うるせぇーよ」
学校へ行ったら全員にビックリされた。
昨日までごく普通の肌色だった人物が、一夜にして黒光りのツヤ肌になったら誰だって驚くだろう。しかもヘルメットを被っていたため、その部分だけ日焼けせず真っ白。完全に危ない様相を呈していた。
女子たちは目を合わせないよう下を向き、誰からともなく「変態にもほどがあるわよねぇ~」と、俺に聞こえるトーンで噂をしていた。
陰口は日常茶飯事なので気にする事はない。逆に褒められた方が緊張してパニックを起こす。
完全無視で席へ座ると、ニタニタしながら例の奴らが来た。
「おい変態。日焼けマシーンでアソコも真っ黒か?」
克己が俺の股間を鷲掴みにした。
「何すんだよ!」
「なかなかの狂人ぶりだな」
「お前に言われたくねぇーよ」
「何のコスプレだ。病弱なチンコか?」
「黙れ!」
奴の手を払いのけると、今度は友則がネットリと肩を抱いてきた。
「黒ずんだワイルド系を目指してるのか?」
「うるせーんだよ」
「例の女の趣味か?」
「例の女って誰だよ!」
「とぼけやがって」
下品に笑うと俺の股間を鷲掴みにした。
「やめろって言ってんだろがっ!」
「まあ、そんな事より。お前、巨牛に何かしたのか?」
「は?」
「昨日、あいつと川上が並んで歩いている所を見たんだが」
「で?」
「そしたら「三次に余計な事をするなって言っとけ」って言われたんだが」
「……」
「何やらかしたんだ?」
克己は興味津々でニタニタしていたが、友則は柄にもなく真剣な表情だった。
家へ帰る途中で巨牛に絡まれた。しつこい牛に辟易していた所、たまたま川上が通りかかった。あいつは巨乳好きで、巨牛は成長過程にある。これはナイスカップルかもしれないと思い、川上に巨牛の胸タッチをプレゼントしてやった。
克己は俺の話を聞いて「ふ~ん」と興味なさそうだった。しかし友則はいきなり胸ぐらを掴んできた。
「き、貴様。何て事をしてくれたんだ!」
「何だよ急に」
「巨牛は俺のモノだろうがっ!」
「は?」
「俺の恋人に……お前は親友だろう」
「いつから恋人になったんだよ」
「よりにもよって川上なんかにぃぃ」
「やり過ぎて頭がぶっ壊れたのか?」
「ゆ、ゆるさんぞ!」
例の花柄事件以来、巨牛に目覚めたらしい。
俺らは大人と子供の狭間を彷徨う血気盛んな中学生。現物を手に入れたら彼女の姿を想像する。想像は妄想に変わる。妄想は恋に発展する。
毎日、巨牛を想像しながら暮らしているうち、いつの間にか恋心が芽生えたのだろう。
思春期の恋なんてそんなモノだ。
「分かった。悪かったよ」
「責任を取れ!」
「今ならまだ間に合うぞ」
「どういう事だ」
「あいつらはまだ付き合ってる訳じゃない」
「……」
「ここでお前の魅力を見せれば、奪い取れるかもしれんぞ」
「ホ、ホントかよ」
俺の言葉に克己も後を押した。
「そうだよ。これは逆にチャンスかもしれないぜ」
「チャンスってどういう事だよ」
「川上は隣のクラスだろ。お前は毎日顔を合わせてるんだぞ」
「それがどうしたんだよ」
「いくらあいつが格好良くても、毎日会っている方に恋心が芽生えるんだよ」
「そ、そうなのか?」
「ああ、恋愛マジックってやつだ」
「……」
克己ぃ。お前ニヤニヤしながら面白い事を言うじゃねぇか。
よし、俺も負けてはいられん。
「克己の言う通りだ。恋愛マジックだぞ」
「恋愛……マジック」
「お前の魅力は俺らが一番知ってるぜ。頼もしくって男気のある漢だって」
「い、いや。それほどでもねぇーよ」
「当たって砕けろ。チャンスは一度っきりだ」
「砕けてどうすんだよ」
「俺の推測からすると90オーバーだな」
「マ、マジか」
「それがお前のモノになるかもしんねーぞ」
「バ、バカ野……いいのかよ?」
「遠慮せず揉みしだいて来い!」
「……よし」
俺らのアドバイスに掴みかかった手をほどいた友則は、その足で巨牛の席へと向かった。
そして……。
「俺はお前の事が好きだぁーー!」
そう叫ぶと、90に大きく飛躍した胸を鷲掴みにした。
いきなり胸を掴まれ焦った巨牛はクラス中に響き渡る悲鳴を上げた。その直後、タイミングよく担任が入ってきた。目の前で女子の胸を鷲掴みしている友則を見ると、驚いた表情をしながら出席表で頭を乱打した。
「ギャハハハ。あいつ本当にバカだな」
「真に受けるか? 普通」
俺と克己はもちろん、花柄の一件を知っているクラスメイトは友則のバカさ加減を生温かい目で見守っていた。
やっぱ地球って面白いな。
【第三部 完】




