新たな物質の発見
ハカイダーに打ち勝ち、勝利の美酒に酔いしれた次の日。
外水道という名の風呂で体を冷やしていた。
「うげぇぇ。痛すぎてヤバイぞ」
灼熱のハカイダナデシオにTシャツ&短パンという軽装で挑んだため、肌が焼け焦げた状態になってしまった。3つの太陽が服の上からでも容赦なく突き刺してくる。Tシャツが擦れる度に断末魔の悲鳴を上げ、動くだけで短パンの裾が太ももを柔らかく愛撫する。
鏡を見たら顔だけ真っ白で全身が真っ赤という、決して近づいてはいけない要注意人物になっていた。この状態で町を歩いたら確実に職質されるだろう。
とにかくヒリヒリしてしょうがない。パンツ1枚で水道の前に胡坐をかき、全身にジャバジャバと水をかけた。気分的には滝修行をしている山伏である。
一心不乱に水を浴び、己の煩悩を取り去ろうと精神統一していると、目の前をラムが通りかかった。
「フンッ!」
目が合った途端、鼻を鳴らして何処かへ消えた。
俺はいま仙人になるための修行をしているのだ。そんな態度をされても心が無になっているから平和そのものなのだ。痛くも痒くもないわ!
ただ、飛び立つ時には気を付けろよ。ミニスカから花柄が丸見えだぞ。
煩悩だらけで水浴びしていると、今度はパパが大慌てでやってきた。
「さ、三次君。大変だよ」
「何がですか?」
「昨日のサンプル岩なんだけど、これが大発見!」
「そうなんですか」
「惑星を揺るがす大事件だよ!」
パパは興奮冷めやらぬ状態で説明してくれた。
ハカイダナデシオ周辺がなぜ酸素が薄く、常に高温状態の場所なのか。
それは俺が採取した岩がキーワードらしい。
この岩には塩の元である、地球で言うところの塩化ナトリウム的なモノが含まれているんだとか。塩化ナトリウムは吸湿性があり、チージョ星特有の大雨によって岩が水を吸収した。吸収しきれなかった雨が湖となって姿を現し、塩の壁に囲まれた湖は自然に塩分の多い液体へ変わった。
そしてこれまたチージョ星特有のカンカン照り。約1か月間、太陽に照らされ加熱されていく。加熱された塩化ナトリウムは少しづつ溶けだし、毒性のある塩素が空中へばらまかれる。それによって息をするのが困難な状態に陥る。
ハカイダナデシオは酸素が薄いのではなく塩素濃度が極端に高く、それによって息をするのが困難な状態になっている。その原因が岩と大雨だとすると、惑星調査団が調べた今までの定説は間違っていることになる。
50~60℃に達する異常気象も岩と湖を調べれはハッキリするのではないか。
「これはあくまで仮説で、調査はこれからなんだけど……」
専門的なことを言われても俺の脳みそが理解を示す事はない。ハカイダーの殺人光線に肌をヤラれてビリビリ痺れる、くらいしか分からない。
唯一分かったのは、この星の人たちは「塩」という存在を知らないという事だ。
ハカイダナデシオ周辺で起っている出来事は塩が原因であるのは間違いないと思う。だが、成分や性質やその物を知らなければ調査どころか「なんじゃそりゃ」であろう。要するに「塩」という新しい物質を発見した。
こういう事なのだろう。
「これからチームを作って本格的に調査する予定だよ」
「そうですか。新たな発見ですね」
「長いこと科学者をやっているが、新発見の物質は初めてだよ」
「良かったですね」
「三次君のお陰だ!」
「別に大した事してませんけど」
「三次君といると飽きないねぇ~」
「なぜですか?」
「いつも新しい物を提案してくれるじゃないか!」
「いや、新しいものではない……かと」
「科学者冥利に尽きるよ」
心の底から嬉しそうに笑うパパ。子供のようにワクワクした表情を見ていると、真っ赤に焼け焦げた肌も名誉の印だな、と思う。
「ところで、もう1つ不思議な事があるんだ」
「なんですか?」
「湖に生物が存在してるって」
「俺が見た限りでは確かに魚でしたね」
「塩の水に魚が泳ぐって信じられないなぁ」
「そうなんですか?」
「普通は砂糖だろ?」
「……」
地球人としては砂糖の海で泳ぐ魚が信じられないのですが……。
すったもんだの挙句、今回も無事に役目を終えた気がする。
ハカイダナデシオの本格調査が決まったようで、パパも調査チームの一員として参加する事になった。
「パパさん。お願いがあるのですが」
「なんだい?」
調査が終わったら塩を気軽に入手できるようにして欲しい。ココが焼きそばを作りたがっていて、それに塩は不可欠である。入手が可能となればソースの制作も出来るだろうし、調味料として食卓のバリエーションも豊富になると思う。
そうお願いした。
「分かった。三次君の頼みとあらば何とかしてみるよ」
「よろしくお願いします」
これでやる事は終わった。この先の展開はチージョ星人が決める事で、地球人の俺が口を挟む余地はない。この星の人たちが上手くやってくれるだろう。
後はラムに挨拶すれば終いである。
「おいラム。そろそろ帰るよ」
「ん? どこかでゴミの声がするわ」
「……」
部屋の窓をノックすると、顔も出さずに室内でふて腐れている様子だった。
「じゃあ、またな」
「変態って、いやぁ~ねぇ~」
「だ、誰が変態だ!」
「地球人って最低ねぇ~」
「な、んだとぉぉ」
「変態ドスケベ完全バカ三次って呼び名がピッタリねぇ~」
「……て、てめぇ」
「オホホホッ!」
今回はこのくらいで勘弁してやる。次やったらどうなるか心しておけよ。
お前の下着類にマジックで大きく「ラム」って書いてやるからな。
盗まれてもすぐに見つかるように、な!




