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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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ハカイダナデシオの破壊力

 ラム家の真裏にあるハカイダナデシオ。その正体は悪の組織ハカイダーだった。

 傍若無人の振る舞いで惑星を脅かし、我が物顔で暴れまくるテロリストに誰もが苦しめられていた。そんな時、一人の漢が立ち上がった。

 その名は宇宙戦士サンジー。

 宇宙の平和を守る為、自らの命と引き換えに改造人間の道を選んだ。人間をやめた彼には家族も恋人も仲間もいない。唯一残された愛だけが原動力だ。

 この世に悪がはびこる限り、サンジーは今日もどこかで戦い続ける!



 などと狂気の妄想を巡らしているうち、現地へ到着した。

 パパの話では、酸素濃度が極端に低いので息をするのが大変との事。エベレストの山頂よりも薄いため、油断すると酸欠になってしまう。


「メット無しだと5分くらいで死ぬよ」


 そう言って笑っていた。


 もう1つの注意点として、この場所は灼熱地獄らしい。チージョ星の平均気温は25~30℃前後に対し、ハカイダナデシオは50~60℃に達する事もあるのだとか。惑星調査団が原因を調べたが未だに解明されていない。

 空気が薄くて気温が異常って、本気でヤバそうな気がする。だがここでひよっていては宇宙戦士サンジーの名が廃る。例えどんな困難が待ち受けていても気合と根性で切り開く。一度飛び出したら任務が終わるまで宇宙船には戻らない。俺の意思は鋼鉄より固い。

 ヘルメットを装着し、ドリルを片手に宇宙船を飛び出した。


 ギャッ! あ、熱い。


 すぐさま宇宙船へ戻った。想像以上にヤバイ状況だった。

 3つの太陽がギャンギャンに照りつけ熱いというよりは痛い。体中の水分が一瞬で蒸発し、槍を刺されたように肌がビリビリする。殺人光線が容赦なく降り注ぎ、湖に乱反射して視界が真っ白だった。

 ヘルメットに紫外線カットレンズが取り付けられているので大丈夫だが、裸眼で直接見た場合、眩しさのあまり網膜が焼けただれるだろう。

 目の前には岩と湖だけが雄大に広がっていて遮る物体が1つもない。もちろん、木々や植物も存在していない。立っているのが精一杯だ。

 この状況下での採掘作業は命がけである。最大でも3分が限界であろう。これは難航しそうな予感がする。


「外と宇宙船を往復するしか手はないな」


 俺は下半身を力強く握って気合を入れ、勢いよく飛び出した。

 ドリルで岩を削り落としてダッシュで船内へ戻る。次は砕いた岩を拾って船内へ帰還。用意してあった水をがぶ飲みしながら休憩。そして再び外へ。

 肌から焦げた匂いが立ち上り、全身から滝のように汗がしたたり落ちる。Tシャツはプールに飛び込んだくらいビチャビチャになり、外に出た瞬間に蒸発してカラカラに乾く。体中に塩の結晶がこびりついて超絶気持ちが悪い。

 極薄酸素灼熱の中での掘削作業は、まさに地獄だった。5分以上いたら脱水症状で確実に地獄から天国へ移動してしまうだろう。

 削る。戻る。運ぶ。戻る。水を飲む。休憩……。

 作業時間3分、休憩5分。メットを被っているので体感温度は60℃を越えている。思考回路が焼き切れそうだ。


「ウゲッ。き、気持ち悪い……吐きそう」


 作業時間が短すぎて一向に進まず気が滅入るが、ミルクさんを想うと力がみなぎる。今の俺を突き動かす原動力は愛ではない。柔らかい弾力性だ。

 目眩と吐き気を我慢しながら黙々と作業した。


 天国と地獄を往復しながら思ったのだが、景色だけは圧倒的に美しかった。

 地平線の遥か彼まで広がる青く透明な湖。その周りを白い岩がまるで湖を守るかのように囲んでいた。

 草木や植物系は一切なく、左右を見れば白い岩。正面には果てしなく広がる湖。当然、頭上の大空も青く澄み渡り、白い雲が浮かんでいる。

 視界に入る全てが青と白だけの世界であった。

 たぶん、今まで見たチージョ星の景色の中でもナンバーワンに痺れる場所だ。

 ここを観光名所にしたら星全体から観光客が押し寄せ、撮影スポットとして人気を博すであろう。


『2色の世界をあなただけに!』


 そんなキャッチフレーズで宣伝したら爆発的に盛り上がるかもしれない。

 灼熱の低酸素に耐えられれば、の話だが。



 時計を持っていないのでどのくらい時間が経過したのか分からない。持ってきた水はすでに残り僅かになっていた。水は命の源である。これが無くなったら継続は不可能だ。

 地味な作業を続けたお陰で船内には結構な岩や鉱物が溜まっていた。この辺りが限界であろう。

 最後の作業を終えて船内に戻ろうとした時、湖からチャポンと音がした。


「なんだ?」


 この辺りに生物はいないと思われる。動物に必要なものは酸素である。低酸素灼熱地獄の場所に住める者などいない。

 不思議に思った俺は湖の縁まで行ってみた。すると再びチャポンという音がして湖面に小さな魚が飛び跳ねた。


「魚?」


 まさしく海洋生物であった。


「すげーな。こんな灼熱地獄にも生物がいるのか」


 何気なく湖に手を入れた。ひんやり冷たかった。外気が高いので冷たく感じるのかもしれないが、それにしても心地良いくらい冷たい。

 俺はヘルメットを上げ、水につけた手を素早く舐めてみた。しょっぱかった。

 地球の海と同じで塩辛い味だった。


「これって地球の海と一緒なんじゃないか?」


 俺は科学者じゃないので詳しい事は分からない。ただ魚がいるという事は湖には酸素があり、生態系が存在するのではないだろうか。地球の海と同じ成分だとしたら塩が取れるのではないだろうか。

 その辺についてはパパに報告してみよう。


 ほぼ丸1日かかって作業を終えた。空はいつのまにか茜色に染まっており、夕焼けが湖と岩を飲み込んで赤だけの世界に変わっていた。


「う~ん。夕日の勝ちだな」


 湖の向こうに沈む夕日をしばらく眺めて帰宅した。




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