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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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パパの大発見

「三次君。面白い物を発見したよ」

「何ですか?」

「これなんだがね」


 研究室でパパが見せてくれたのは湖の画像だった。

 青白く透き通った色をしており、底まで見えそうなくらい澄んでいた。


「綺麗な湖ですね」

「ここはハカイダナデシオといって岩から自然発生した湖なんだよ」

「岩から発生する湖?」

「この星の雨は経験した事があるだろ?」

「はい。凄まじい暴雨でしたね」

「その雨に岩が削られて出来た湖なんだよ」


 岩が削られて湖が出来上がるという新しいワードに、後頭部がピキーンと神経を刺激し脳波の乱れを感じた。

 言っている意味が1ナノも分らん。


「湖の周りを見てごらん」

「岩だらけですね」

「全体が白いだろ?」

「はい」

「私の調べによると、これが塩と呼ばれる存在かもしれないんだ」

「……え?」


 余談だが、パパはこの星では特別枠の科学者である。星の重要機密にさえアクセスできる権限を持っている強者だ。惑星の頭脳的な役割を担っているといっても過言ではないだろう。

 パパのメインの仕事は惑星から依頼された科学研究なのである。

 そんな上級国民並みの権威を持つパパの所には、惑星中の色んな情報が舞い込んで来る。一般人立ち入り禁止の特別施設まで気軽にアクセスする事が可能だった。

 その特権を利用して星のありとあらゆる情報を集め、鉱物やら地形やらを調べまくった。その中から立ち入り禁止の湖を見つけた。調べた所、ソースに入っている塩の成分と近い物質である可能性が高い。との分析結果だった。


「まだ未確定だけどね」

「いや。それでも大発見ですよ」

「物質さえ手に入れば分析出来るんだけどねぇ~」

「俺、行ってきましょうか?」

「ただし。ここへ行くには少々問題があるんだ」

「問題?」

「まずはね、この辺り一帯は酸素が薄いって事」

「酸素が薄い?」

「そう。生身だと息が出来ずに死んじゃうの」

「し、死ぬ……」

「次に、ここへ向かうまでの距離が大変って事」

「大変とは?」

「ハカイダナデシオはここなんだよね」


 そう言いながら床を指さした。


「もしかして裏側ですか?」

「そう。ここの真裏なんだよ」

「そ、それは遠いですね」

「私なら1秒。クルマイスなら1か月くらい。三次君だったら50年以上かな」

「……ですね」


 要約すると、ハカイダナデシオはラム家の真裏にある。チージョ星は地球の10倍以上の大きさ。瞬間移動を使えなければ辿り着くのは至難の業である。

 さらに空気の薄いエリアへ向かうのだから、それ相当の準備が必要になる。酸素ボンベと宇宙服みたいなのを用意し、食料と寝床も確保しなければならない。

 どれが塩なのか見極めるために岩を削り出してパパの所まで運び込む。そのための採掘道具も必要になってくる。

 それらを全て背負って徒歩移動したとしよう。14歳で出発して到着時が64歳。老骨にムチ打って採掘し、帰って来たら114歳……。

 女体の柔らかさも知らぬまま、塩に人生を賭ける男。想像しただけで涙が出る。


「うーん。これは諦めた方がよさそうですね」

「宇宙船に道具を積めば三次君でも10秒で辿り着けると思うよ」

「そうか。宇宙船か!」

「降りた途端に息も絶え絶えだと思うけど」


 真顔でシャレを言うのは止めてくれ。笑っていいか判断に苦しむんだよ。


 行かなければ塩は手に入らない。行けば死と隣り合わせの任務を遂行しなければならない。己の命を懸けて挑むには少しハードルが高い気がする。

 しかしミルクさんとココに約束した手前もある。柔らかボイ~ンを味わっておいて完全無視は宇宙戦士サンジーの名に傷が付く。


「サンジーとハカイダーの直接対決か……」


 前頭葉がとろけ出すくらい考えて、


「俺、行きますよ!」


 そう伝えた。

 自分でも呆れるくらいバカだと思う。でもそれが俺だ。

 俺からバカを取ったら変態しか残らない。変態しか残らないという事は、頭に巨牛のパンツを被ったまま笑顔で商店街を闊歩する友則と同レベルになる。


「やっぱり。三次君ならそう言うと思ったよ」

「……はい」

「だから、すでに準備してるよ」

「え? 準備、ですか」


 パパは俺の肩をポンと叩き、宇宙船へ連れて行った。

 船内には大量の水と食料、ドリルとバイクのヘルメットが置かれていた。


「ドリルは分かりますが、このヘルメットは何ですか?」

「ああっ、それはね。酸素吸入メット」

「酸素ボンベですか」

「以前、宇宙空間へ遊びに行った時に作ったの」

「……」


 シャレなのか本気なのか、マジで分からんのだが。


 ドリルは花火の材料探しの時に使った事があるので知っている。

(第二部 発掘作業中に大発見 参照)

 だがメットは初めてである。


「どういう風に使うんですか?」

「被るだけだよ」

「それだけ?」

「大気中にある水分を空気に変える装置が組み込まれているの」

「へぇー」


 へぇーとは言ってみたものの、まったく理解出来なかった。唯一分かったのは、チージョ星の技術の高さだけである。


「メットは1個しかないので私は行けないけど頑張ってね」

「はい。分かりました」

「持ち帰ったら分析してあげるね」

「よろしくお願いします」


 アイノデリモンクーに往復分のナビをインプットしてもらい、俺は命を懸けた戦いに挑む事になった。







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