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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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のぼせたバカは捨ててしまえ

 ミルク&ココと裸の付き合いをした。前代未聞の空前絶後にのぼせ上がって鼻血を垂れ流し、貧血状態でラムの家まで抱えられて帰って来た。


「ミ、ミルクさん。どうしたんですか?」

「一緒にお風呂へ入ってたら、のぼせたみたいで」

「はぁ?」

「鼻血が止まらないみたいなの」

「も、申し訳ありません」

「私は大丈夫なんだけど宮本君が……」

「こいつは大丈夫ですから、その辺に捨てて下さい」

「で、でも」

「本当に大丈夫です。こんなので死ぬようなタイプじゃありませんから」

「じゃあ、ラムちゃん。後はお願いね」

「本当にご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした」




 早朝。目が覚めたら倉庫の前でうつ伏せでぶっ倒れていた。


「な、何でここに寝てるんだ?」


 状況がちっとも読めなかった。

 確か昨日はミルクさんとココと一緒に家族風呂へ入ったはずだが……。

 薄ぼんやりした記憶を辿ってみた。


 仲直りの印に3人で露天風呂に浸かった。ミルクさんもココも初めは頃合いの良い所で折り合いを付けて終わる気だったらしい。けれど、話し合いをしているうち止めどなく感情が溢れてきて収拾が付かなくなった。親戚で気心が知れているから余計に意地を張ってしまったのだろう。

 ココとしては、焼きそばの美味さを知って欲しかっただけだ。美味しさを知ってもらうには実際に作るしかない。微かな記憶を頼りに調理した。だが作り方も味付けもうろ覚えなうえ チージョ星には無い斬新な料理である。出来上がった物は見るも無残だった。

 どうしようか思案していた時、タイミング良く俺が登場したから「これ幸い」である。本場の味を知っている俺に頼めばミルクさんにも美味しさが伝わるかもしれない。焼きそばがチージョ星の名物になる。

 案の定、バカな俺は10万光年を往復して本物の焼きそばを持って帰って来た。

 それを食べ、ミルクさんも納得し、無事仲直り。めでたし、めでたしだった。


 2人のケンカはめでたく終了になったので、湯船に浸かりながら今後の傾向と対策について話し合った。


 焼きそばの美味さを知ったミルクさんは「これを名物にしたい」と言い出し、ミルク温泉の看板メニューに加えることが決定した。それは凄くいい事だと思うのだが、ここでも再び問題が発生した。

 麺の原材料は小麦粉なので制作は可能である。この星にもパスタ的なモノがあるため麺作りは容易かった。地球より味の濃い上質な小麦だから、とびっきり美味い麺が完成するだろう。

 問題はソースである。

 原材料のほとんどはチージョ星にある物で代用できる。野菜を中心としたオリジナルソースを作れば味わい深くなる。地球でも生き物系エキスを使っていないウスターソースがあるので制作は容易だと思われる。


 だが、塩だけはどうにもならなかった。


 この星に塩は存在しない。海で取れるのは砂糖である。

 もちろん食塩無しでも製造は可能だが、やはり焼きそばソースは「しょっぱい」があるから味が際立つのだと思う。

 実際に食べた2人も未知なる塩加減に驚き、その重要性を肌で体験した。


「この塩という存在が味の決めてなのね」

「そうなんです。地球では普通の味覚なんです」

「焼きそばには重要なアイテムって訳ね」

「でも、この星にはない調味料なんですよ」

「そうかぁ~」


 現実を知り、無念そうに肩を落とした。特にココの落ち込みは相当だった。


「ああっ、夢の食物がぁぁ」

「そうガッカリするなよ」

「これが無ければ、命の灯」

「ちょっと大袈裟だぞ」

「ムッキンポッチィィーー」

「……」


 ショックのあまりタガが外れたらしい。

 2人のションボリした顔を見るのは辛い。俺に出来る事があるなら協力したい。塩のない世界で塩を入手する方法……。

 落ち込む姿を見た途端、俺の中の多重人格者たちが薄ら笑った。


 ラムパパに頼んで分析してもらい、この星に似たような素材があるかどうか探して貰おう。もしダメなら「俺が地球から運んでやるよ」的な事を調子に乗って言った覚えがある。

 すると2人は大喜びし「宮本君すごい」「カッコいいですぅ」そう言って、右と左からギューッとサンドイッチされた。

 美女2人にくっつかれるという男の夢が詰め込まれた状態に。両腕にボイ~ンと当たる初体験の感触に視界がバラ色になり、欲汁が大量放出された。


「イップターサイ!」


 そう叫び、そのまま天に召された……。


 たぶん、こんなシチュエーションだったと記憶する。


 2人に約束した手前もある。とりあえず顔を洗ってパパの所へ行こう。

 そう思って体を持ち上げると、


 フギャ!


 ラムに背中を思いっきり踏まれた。


「あら、ごめんなさい。ゴミかと思ったわ」


 オホホッと笑いながら立ち去って行った。


 テ、テメェー。今回の件で俺がどれだけ苦労したか分かっているのか。元はと言えばお前が頼み事をしてきたのが原因だろう。ラムのために10万光年かけてケンカの仲裁をしに来てやったのにその仕打ちはなんだ。

 そうか、そう来るんだな。俺はエロ以外にも特技がある。カッターワークだ。

 お前が愛用しているペン立て。その中にご神体が紛れ込む日も近いぞ!



 ボロボロの体を引きずって研究室へ行った。

 一通り説明を聞くと、パパは地図的なモノを壁に映し出し、それと成分を見比べながら思案した。


「うーん。難しいなぁ~」

「やはりありませんか?」

「無い事はないと思うのだが、はたしてそれが塩なのかどうか判別が……」


 無い物を探せ!という超難問である。さすがのパパも頭を抱えていた。


「もしダメなら人工的に作れないですかね」

「さっきも言ったけど、塩が何なのかを知らなと作れないよ」

「ですね」

「現物があれば可能だと思うが」

「ち、地球から持ってきましょうか」

「持ってくるのは構わないけど、大量に必要となると大変だよ?」

「そうですね……」

「分析したからと言って人工で作れるかどうかは別だから」

「ですね」

「なるべく星にあるモノで賄った方がいいと思うけどね」

「……」


 パパの言い分はもっともである。地球から塩を大量に運んでくるのはいい。それを元に研究開発を進めるのも悪くないと思う。塩という存在が定着すれば、料理のみならず様々な分野で役に立つだろう。

 しかし仮に作れなかった場合、一旦星に根付いた物が途切れる事になる。当たり前に使っていた物が突然なくなる。それこそ惑星全体に迷惑がかかってしまう。

 そうなったら、半永久的にチージョ星へ塩を送り続けねばならなくなる。俺は迷惑をかけた罪滅ぼしに「宮本貿易商事」という会社を作り、地球とチージョ星を毎日往復するハメになるだろう。

 ただ、それでは地球あってのチージョ星になり、片方が依存する状態になってしまう。地球は地球として、チージョ星はチージョ星として独立しながら切磋琢磨するのが本来のあるべき姿ではないだろうか。

 パパが言う「星にあるモノで賄った方がいい」との意見は正しい気がする。


「分かりました。もう少し考えてみます」

「その方がいいかも知れないよ」

「今回はなかなか難問です」

「私も色々な角度から探してみるよ」

「よろしくお願いします」


 パパにお礼を言い、My倉庫に戻った。


 お互いに協力し合って発展して行くのは一見すると聞こえはいい。だが、それもやり過ぎると共依存になって片方が居ないと自立できない状態になってしまう。

 健康的な体を持つニートに飯を食わせて小遣いをやる両親とか。浮気癖や浪費癖のあるダメ男を支えてしまう女性とか。2本足で立っているのに、未だに赤ちゃんだと思いベビーカーに乗せている親と同じである。

 互いに自立してこそ価値があり、チージョ星で作られる物はこの星で完結するのが筋だろう。


 俺は布団へ横になって改めて考えてみた。


 うーむ。宮本貿易商事かぁ~。


「お父さん。今日は早く帰ってくるの?」

「いや、今日は少し遅くなるかもしれんな」

「えぇ~嫌だ。早く帰ってきて!」

「分かった。分かった。なるべく早く帰って来るよ」

「お仕事頑張ってね」

「もちろんだとも」

「お土産もね」

「その代わり、お母さんの言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ」

「うん。分かった!」


 子供たちの頭をいい子いい子してやる。


「あなた。いつもお仕事ご苦労さま」

「何を改まって。お前たちのためだもの。辛くはないさ」

「もう、そんなこと言って。無理なさらないでね」

「ハハハ。大丈夫だよ。君たちの笑顔を見れるだけで幸せさ」

「今日はご馳走を用意して待ってるから」

「君が一番のご馳走だよ」

「ちょっと! 子供たちの前でそんな……」

「じゃあ、行って来る」


 嫁にキスをし、ついでに子供たちにもキスをする。


「行ってらっしゃ~い」


 そして地球へ向かう。


 想像する限り悪くはない。塩の輸入業者としてこの星で暮らし、ステキな奥さんと可愛い子供たちに囲まれながら人生を暮らしていく。

 ……アリかもしれんな。







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