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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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明るい兆しと仲直りの気配

 コンコン。


 外で誰かがノックする。


 コンコン。コンコン。


 深く澄んだ眠りを邪魔しないで欲しい。


「宮本君?」


 俺はいま、イップターサイという惑星で美女3人に囲まれて暮らしている。男の夢が詰まった宇宙最後の楽園だ。今日のお相手はキョニューさん。そろそろお風呂に入ってくる時間である。ほのかに香るハーブ風呂で彼女が来るのを待っている。


「ねぇ、起きて」


 湯けむりの向こうから薄っすらと見えるシルエット……。


「宮本君。起きて!」


 大きく体を揺さぶられた。

 目を開けるとミルクさんが目の前に居た。


「キョ、キョニュー!」

「どうしたの? 変な夢でも見たの?」

「……あっ、いや」


 もう少しで艶やかな姿を独り占め出来そうだったのに。

 それにしても、うつ伏せで寝ててよかった。仰向けだったら終わったな。



 疲れ切った体を無理やり起こし、昨日の状況を伝えた。


「ごめんなさい。ずっと待ってたんだけど、あまりにも遅くて」

「地球で色々あって思った以上に時間がかかってしまいました」

「本当にごめんね。私たちの為に長時間を往復させるなんて」

「大丈夫です。体力だけは有り余ってますから」

「ウフッ。若いのね」

「……ココはどうしました?」

「あの後も意地になっちゃって、私たちの言う事に耳を貸さなかったわ」

「引っ込みがつかなくなったんですかね」

「もはや宮本君の言うことしか聞かないと思うの」


 一度怒り出したらとめどなく怒りが沸き上がる事はよくある。自分でもどこかで折り合いを付けて妥協点を見出したいと思っている。しかし、感情が先に立ってしまい制御不能に陥る事もしばしばだ。本人的には「申し訳ない」と思いつつも止められない。結果、怒っている自分に腹が立ち落ち込んでしまう。

 地球もチージョ星も感情のコントロールは課題なのだろう。


「この場は俺に任せてください。何とか説得しますから」

「ありがとう。頼りにしてるわ」

「ココは学校ですか?」

「今日は休みだから家に居ると思う」

「それじゃ、ここへ呼んでもらえませんか?」

「分かった。いまから呼びに行ってくる」


 そう言うと、サッと消えた。


 ミルクさんの前で大見得を切った以上、失敗は許されない。これには俺の名誉と地球の運命が託されている。受付のお姉さんに「今日も綺麗ですね」と愛想を振りまいて麺とソースを出してもらい、それを持って食事処まで行った。


 併設された店内は日本の休憩所と変わりない作りだった。

 地球で過ごした時を思い出しながら作り上げたのだろう。広めのスペースにテーブルとイスが並べられていて、バイキングテーブルも用意されている。ゴロ寝するような小上がりまで再現されていた。

 見様見真似で作った割にはいい出来だと思う。

 ここまで思い入れ深く制作したのであれば、片意地を張る気持ちも分からなくはない。自分が総指揮を取って「より良い施設を」と願って作り上げた。一生懸命頑張ったにも関わらず、あれこれ指図されるのは面白くないだろう。

 ただ、味覚に関しては破壊的な彼女である。チージョ星の誰もが難色を示す激マズのババノトレックを好物だと言い切るのだから、その舌は壊滅的だ。

 説得を成功させるには「満」の味に賭けるしかない。

 料理長に動画を見せて焼きそばの作り方とコツ、秘伝のレシピを伝授して準備を整えた。


 しばらくして。


「宮本君。お待たせ」


 ミルクさんが現れた。続けて後ろからココが登場した。

 2人共に目を合わせずピリピリムードが伝わってくる。このままだと本当に骨肉の争いになるかもしれない。

 しかし、そんな空気もあと僅か。焼きそばを食べた途端に笑顔が蘇るだろう。

 料理長に「さすがプロですねぇ~」とおべっかを使い、上機嫌で極うま焼きそばが完成した。


「ほらココ。これを食べてみろ」

「はいぃぃ」

「どうだ」

「び、美味ですねぇ~」


 一口目を食べたら笑顔になった。二口目で笑い声が出た。食べるごとに笑顔になる。これが焼きそばだ。

 俺は取り皿に分け、ミルクさんにも差し出した。


「ミルクさんも食べてみてください」

「大丈夫だ……よね?」

「変なモノは提供しません。俺を信用してください」


 細長いミミズみたいな物体に黒色のしょっぱい液体がかかっている。初めて見る者には奇妙な食べ物だと思う。俺がチージョ星の喫茶店で何度もしてやられた感覚と似ている。だが、焼きそばは違う。人を幸せにする万能選手だ。

 ミルクさんは少し躊躇したものの、思い切って口にした。


「お、美味しい!」

「でしょ?」

「今までにない斬新な味だわ」

「でしょ?」


 2人共、何かに憑りつかれたように一皿をペロリと平らげた。


「どうだココ。お前の作ったのと同じか?」

「いえ。全然違いますです」

「これが地球の味だぞ」

「はいぃぃ。これですぅ」

「これでも地球人より味覚が優れていると自慢出来るか?」

「いいえ。め、滅相もござりませぬ」

「じゃあ、ミルクさんに謝れるな?」


 戸惑いと恥ずかしさが混在して躊躇するココだったが……。


「ミ、ミルク……申し訳ござりませんです」


 ハッキリと謝った。

 人に頭を下げるのは勇気が要る。過ちを認めるにはプライドを捨てねばならない。片意地を張って己の考えを誇示するより、素直に認めた方が楽になれる。下手なプライドなどウンコと一緒にトイレへ流してしまえばいい。

 居心地が悪そうにイジイジしているココ。その言葉を聞いたミルクさんは、胸を撫でおろし彼女を優しく抱きしめた。


「ココが一生懸命なのは分かってる。けど、ダメなものはダメなの。それをハッキリ伝えないと他の人にまで迷惑がかかるのよ」

「……はい」

「焼きそばを提供したい気持ちは理解できるわ。こんなに美味しい物だものね」

「はいぃ」

「この焼きそばなら自信をもっておススメ出来るわよ」

「はいぃぃぃ」

「じゃあ、この商品名は「ココ焼きそば」にするわ!」

「ミ、ミルク……ありがとうございますですぅ~」


 ミルクさんの優しさに触れたココは、胸の中で大粒の涙を流した。

 お互いに誤解していた。お互いに意固地になっていた。ただそれだけだ。

 どこまでも優しいチージョ星人である。意見の食い違いはあれど、本音は仲直りのキッカケを探して道に迷っただけである。



「宮本君。今回は迷惑かけたわね」

「いえいえ。原因が焼きそばだったので俺にも責任がありますし」

「そんな事ないわよ。宮本君がいなかったら、まだケンカしてるかも」

「ハハハ。ケンカするほど仲がいいと言いますから」

「そうね」


 ミルクさんはニッコリ笑った。

 ココは涙を拭きながら俺に近寄って来た。


「三次さん。これからどうされる手合いでしょうか?」

「ラムの家に寄ってから地球に帰るよ」

「ダ、ダメです。まだダメですぅぅ!」

「もう俺の役目は終わったろ」

「い、一緒にお風呂へ入るんですよぉぉ」

「な、なにぃ!?」

「裸の付き合いですぅ」

「は、裸の……」


 その言葉にミルクさんも頷いた。

 確かに地球の温泉でそのような発言をした記憶がある。一緒に入る事で仲間意識が芽生えるとか、ありのままの自分とか。仲直りした後は、風呂に入ってお互いキレイさっぱり洗い流そう的な事も言ったと思う。

 だがそれは、ミルクさんのお美しいお姿を拝見したいという、チェリーの儚い願望のための戯言である。

 まさかここまで彼女らの心に浸透しているとは思いもよらなかった。


「いや、それはそのう……」

「そうね。仲直りした時は裸の付き合いが大切よね」

「あのう、ですね」

「3人で一緒に入りましょ!」

「えぇぇぇっ。ミ、ミルクさん!?」


 嬉しさが先走り過ぎて脳が混沌としてきた。

 裸の付き合いとは主に同性同士で行うものであり、異性となると意味合いが違ってくる。

 異星人の異性と裸で付き合う。裸で……突き合う?


 ノオォォォーー。あ、頭が爆発しそうですぅぅ!




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