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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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休んでなんかいられない

 巨牛を川上に売り渡し、満で勉強会を開いた。この時点で疲れはピークだが休んでいるヒマはない。

 満を出たその足でスーパーへ向かった。

 ソースは先ほど特別に分けて貰った。野菜の旨味と塩気が絶妙に絡み合った満オリジナルのスペシャルソースである。これさえあれば、焼きそばの8割は完成していると言ってもいい。

 材料の野菜系は現地調達で大丈夫だろう。残るは麺だけである。

 本当は製麺所の打ちたてが欲しかったが、中2の俺が交渉したところで鼻で笑われるだろう。

 という訳で、スーパーで5人前入りの麺を購入した。それらをリュックへ詰め込んで宇宙船へ戻った。


 既に太陽がお休みモード突入で辺り一面が暗くなってきた。

 予想もしない巨牛の登場で思った以上に時間を費やしてしまった。満で九官鳥の恋愛話を永遠に聞かされ、スーパーで超真剣に麺を選別しているうち、気が付いたら20時を過ぎていた。

 ここからさらに2時間かけてチージョ星に戻らなければいけない。到着する頃には星空になっているだろう。

 でも、3人が首を長くして待っている。俺の到着を待ち望んでいる。「疲れた」などと弱音を吐いている場合ではない。

 焼きそばをココに食べさせたのは俺のせい。ミルクさんと言い争いをしたのは焼きそばのせい。最終責任は俺にある。

 自分のケツは自分で拭く。これが俺のモットーだ!


 しんどい体にムチを打ち、宇宙船に飛び乗った。


 フィーーン、フィーーン。

 シュパッ!と3人が待つミルク温泉へ出発する音が聞こえた。




 チージョ星への2時間弱。本当にやる事がない。

 宇宙船に窓でも付いていれば惑星を眺めたり、ブラックホールに恐怖を感じたり。行き交う宇宙船に手を振ってみたりするのだが、完全密室の何もない空間だ。球体でしかも全面が真っ白なので平衡感覚と視界がヤラれそうである。

 宇宙船は光より速くワープで進んでいるため無音で飛び続けている。

 全てが白一色で上下で位置関係が分かりづらく物音一つしない空間。瞑想修行者でも暴れ出しそうな2時間弱である。

 だが、俺には最大の武器がある。妄想だ。

 日頃からビシバシ鍛えてある右脳をフル回転させて今後の展開を予測してみた。



 焼きそばを作るのはいいが、麺の原材料はどうするのだろう。パンがあるから小麦が収穫されているは間違いない。それを粉にして練り上げて麺にする機械や技術はあるのだろうか。もし無ければ面倒くさい事になりそうな予感がする。

 仮に地球へ舞い戻っても万年金欠病の俺に機械を購入するお金はない。右往左往した結果、チージョ星初の麺職人として腕を振るうハメになる。


 ところで、ケンカはどうなっているのだろう。

 ココの味方をした場合、今まで以上に俺になついてきて大変な状態になりそうだ。「三次さ~ん。ココのお願い聞いて欲しいですぅ」と駆け寄ってきて、無理難題を押し付けられそうである。

 見た目はオタクだが性格は割と可愛いからなぁ~。


 ミルクさんの味方をした場合、「やっぱり宮本君は私の事を分かってるわ」となり、「僕はいつでも君の味方さ」と言って、そのナイスバディーを独り占めできるかもしれない。

 これはご褒美中のご褒美だなぁ~。


 ラムも捨て難いな。いっその事、3人同時に付き合うっていうのはアリなのだろうか。どこかの国みたいに一夫多妻制を導入するのも悪くはない。チージョ星にはそういうシステムはないのかな。もし無ければ4人で違う星に行き、そこで新しい生活を……。

 何だろう。考え事をしていると急激に睡魔が襲ってくる。




 2時間後。


 ミーーン、 ミーーン。

 セミの鳴き声がした。


「朝か!」


 飛び起きて船外に出ると夜だった。

 セミの鳴き声を聞くと必然的に朝だと思うクセがついてしまっている。地球では明るくなったらセミが鳴くからねぇ~。


 俺は用意した麺とソースを持って裏口から潜入した。そして再び事務所を訪れたのだが……室内は真っ暗だった。

 到着まで結構時間がかかった。待ちくたびれて温泉に入って一息ついているかもしれない。


「宮本君、遅いわね」

「どうせ、どこかでサボってるに決まってるわ」

「男気溢れる三次さんは、そんな事しませんですぅ」


 そう言いながら体を洗いっこしているかも。

 いや。もしかしたら食事処で激しいバトルが展開されているかもしれない。


「私、宮本君と付き合っちゃおうかしら」

「ダメ。三次は私のモノよ」

「ああっ、我が心の誉よ」


 俺の奪い合いが始まっている予感がする。一刻も早く仲裁に行かなければ、愛に迷子の子羊ちゃんが誕生してしまう。

 ビニール袋を片手に猛ダッシュで食事処まで走った。しかし、そこにも3人の姿はなかった。

 辺りをキョロキョロ見回していると、館内放送が流れた。


「本日の業務は終了致します。またのご来館を心よりお待ちしております」


 し、閉まるのか!?


 時計を持っていないので現在の時刻が分からない。地球を出発したのが20時過ぎだから、そこから2時間弱だと22時を越えていると思われる。

 ちょうど受付で帰り支度をしているお姉さんが居たので聞いてみた。


「あのうすいません。いま何時でしょうか」

「もうすぐ23時になりますよ」

「そんな時間なんですか?」

「はい。ミルク温泉は23時で閉めますから」

「あのう、ミルクさんたちはどこへ居るのでしょうか」

「ミルクさんですか? 先ほど帰られましたが」

「なっ……」


 なんと薄情な連中だ。地球で焼きそばを一生懸命勉強した。スーパーで買い物もした。10万光年を往復し、総合計時間にして半日以上を費やしている。

 白一色の船内で気が狂わないよう瞑想という名の妄想もした。それも全てミルク&ココ&ラムのため。なのに到着を待たずに帰るだとぉぉぉ~。

 お前らいい加減にしとけよ。俺を怒らせるとどうなるか、とくと思い知るがいい。まずは手始めに「直おさわりモミモミの刑」じゃぁぁーー。


「ところでお姉さん。館内に冷蔵庫ってありますか?」

「はい。ございますよ」


 麺とソースを冷蔵庫に仕舞い宇宙船に戻って寝た。




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