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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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友則の本領発揮

 大会も終盤を迎え、体育祭はクライマックスのリレー準備に取り掛かっていた。

 完全に逃げられない状況下でありながら未だにブツクサ文句を言う友則。


「もう諦めな!」

「ったく、めんどくせーの最高潮だぜ」

「いいのか? は・な・が・ら」

「て、てめぇー」

「ほのかな香りと甘い温もり」

「や、やめろ。別なバトンが走り出すだろうがっ!」


 なんのかんの言ってもやはり親友だ。俺や克己の言う事なら文句を言いながらでも手伝ってくれる。いざという時は自分を盾にしてでも何かをしてくれる。実に頼りになる男である。

 勝つとか負けるとかじゃなく本気の走りを見てみたい。

 幼稚園から現在に至るまで一緒に遊び、ずっと奴の逃げっぷりを見てきた。その速さはマッハを超える。「逃げろ!」と叫んだ途端に消えていなくなる。もはや瞬間移動に等しい。


「本気出せよ」

「うるせー。本気でやりたくねぇんだよ」

「そっちの本気出してどうすんだよ」

「くそぉぉぉ。まんまとハメられたぜ」

「今更グダグダ言うな! 待ってるぞぉ~。新しい世界が」


 俺らがバカな会話をしている間、各組が必死でバトンを繋いでいた。

 第一走者が第二走者へ渡し、第三走者へ繋ごうとしている。

 アンカーまであと少し。


「ほら、行って来い!」

「……」


 緊張気味にライン上に立つ友則。この時点で我が3組は3位。1組が2位。2組と5組がビリ争い。4組は圧勝で1位だった。

 見た感じだと20メートルくらいは離されている。2位まで5メートル差くらいだろう。4組のアンカーは中学陸上のエース小島だ。状況的にまずい位置関係だが、たぶんぶっちぎってくれるはず。


「と、友則ぃ。後は、た、頼む!」

「めんどくせぇーーー」


 そしてついに友則にバトンが渡った。


「ふざけんなぁぁーー。やりたくねぇんだよぉぉ!」


 恨みがましい叫び声を上げながら走った。

 俺と克己は手に汗を握りながら見ていた。


「おい三次。尋常じゃないな、あのスピード」

「……あいつ、本気だな」


 尋常どころの騒ぎではなかった。5メートル近くあった差があっという間に縮まり2位を楽々交わした。目の前にいるのは小島だが、差はすでに10メートルしかなくなっている。

 ここからが友則の本領発揮である。

 ダッシュからトップスピードに乗るまでの時間が物凄く短い。ギアがトップに入るとさらに加速する。野生のチーターと互角で勝負出来るくらいの勢いだ。

 コーナーを回って最後の直線100メートル。その差は5メートに満たない。しかし小島も陸上部のエースである。今まで練習してきた努力とプライドがある。ここでド素人のバカに抜かれる訳にはいかない。

 友則をチラッと見つつ、ギアを全開にした。

 さすがである。相手を寄せ付けない速さだ。友則も必死で食らいつくが、その差は縮まらない。

 全校生徒は予想外のデッドヒートに応援も忘れて黙って見守っている。陸上部の顧問も唖然とした表情でエースと友則を見ていた。

 その後も差は縮まることなく、もうゴールまで距離がない。友則の表情も半ば諦めモードだった。


「ヤバイな。もう限界だぞ」

「……おい克己。来い!」


 そう叫びゴール前まで駆け寄った。

 そして……。


「おーい、友則ぃぃーー。これな~~んだ!」


 ゴール前で花柄を振った。

 すると奴の目に生気が蘇った。


「は、花柄わぁぁぁ、俺のものおぉぉーー」


 最後の力を振り絞って叫ぶと、限界を超えたさらに限界を超えた限界を見せた。

 残り10メートルで横に並んだ。真横に付かれ驚いた小島をあざ笑うかのように加速し、5メートルで前に出ると、そのままぶっち切ってゴールテープを揺らした。

 その場にいた全員が度肝を抜かれ、次の瞬間、祝砲の叫び声が湧き上がった。


「おっしゃーー。よくやった!」

「ハァ、ハァ、ハアァァ。はながらっ!」

「わかった。わかった。あとで贈呈してやるよ」

「ガッハ、ウゲッッ。は、吐きそうだ」

「少し休め。おい克己、水だ!」


 俺は友則の肩を抱きかかえ、克己は水をバシャバシャ浴びせた。


 誰が見ても圧勝だった。

 陸上部のエースと互角に渡り合っただけではなく、それを抜き去ったのだから完全勝利で間違いない。まさかエースが抜かれるとは思ってもみなかっただろうし、抜かれた小島も何が起こったのか理解に苦しむだろう。当面ショックで立ち直れないかもしれない。

 でも、これが勝負の世界である。勝つ者がいるから負ける者が存在する。光と影は常に対なのだ。

 小島にはこれを機にさらに強くなって欲しいと思う。


 まあ、お前はモテモテのイケメンだから大丈夫だよな。

 たまには俺らにいい夢を見させてくれよ、な!



 教室へ帰るとクラス全員に拍手で迎えられた。


「おめでとう」

「すごいね友則」

「今日のあんたはカッコいいわよ」


 女子の黄色い声援に鼻高々の友則。褒められたことのない奴からしてみたら今日は人生最良の日だろう。

 担任も驚きを隠せない様子だった。


「おい友則。お前よくやったな。やれば出来るじゃないか!」


 褒めちぎっていた。

 クラス全員から祝福の嵐が巻き起こっている中、俺は友則に近づき、頭に花柄を被せてやった。


「ほら、勝利記念の祝いだ」

「おおっ。ウエルカム花柄よ」

「どうだ。金メダルよりも価値があるだろ」

「ガハハハ。最高だなこれ!」


 頭にパンツを被った友則を全員が屈託ない顔で笑った。


 ただ、1人だけ般若のような表情で俺を睨みつけている女がいるんだが。

 今日の所は見なかった事にしよう。





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