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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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体育祭の楽しみ方

 ラムとの青春デートを終えて地球に帰って来た俺は、高鳴る鼓動を押さえて学校へ行った。


 本日は全校生徒が待ちに待った体育祭である。

 スポーツが得意な者は朝からストレッチをしたり、軽くウォーミングアップをしたりと調整に余念がなかった。

 一方、運動が苦手な者は運営側にまわり、体育祭を盛り上げるサポート役に徹している。どちらにしても年一回のお祭り騒ぎで、みな楽しそうにそれぞれの役割をこなしていた。

 さらに一方で、運動神経が良くスポーツ系は何でも得意だが、やる気0という人として最低な輩もいる。そんなダメ人間たちは部活対抗リレーのためのセッティングに興じていた。


「おい克己。そんなに押すな」

「無理言うな友則。ただでさえ狭いんだから」

「ここからじゃ見えにくいんだよ」

「知るか!」

「お前、跳び箱に行けよ」

「お前が行けよ。俺はここを動かねぇぞ!」


 先ほどから激熱スポットを巡って小競り合いをしていた。


 部活対抗リレーは、その名の通り各部がユニフォームで競い合う。熱き魂がぶつかり合う青春の1ページである。その可憐で美しい姿を目に焼き付けたい。

 俺らは体育館倉庫の少し大きめのロッカーに忍び込んでいた。大きめといっても3人がスッポリ隠れるほどのサイズではない。体中どころか頬をピッタリくっ付けてやっとの大きさだ。

 風の通らない倉庫はムシムシして、さらにロッカーは密室。外は9月だというのに快晴だった。


「おい三次。いま何時だ?」

「知らねぇよ。時計持ってないから」

「11時だな。もうすぐ来るぞ」


 暑い。


 外からは楽しそうな叫びが聞こえてくる。短い中学生活の思い出作りに汗を流しているというのに、俺らは別の意味で汗を流している。

 なにやってんだろうな、俺達って……。




 部活対抗リレーが終わって昼休みに入った。

 外で弁当を食べる者。応援合戦のために練習している者。午後のリレーに命を懸ける者。ほとんどの生徒が校庭で何かしらを楽しんでいた。

 俺らは教室の片隅で先ほどの収穫を話し合っていた。


「三次はどれが良かった?」

「やっぱテニス部だな」

「理由は?」

「そりゃ日焼け具合だろう。白と黒のコントラストが絶妙で」

「日焼けなら水泳部だろ」

「友則は?」

「俺は柔道部にやられたよ」

「で、その心は?」

「ガチムチの体系が心を溶かすぜ」

「克己は?」


 てっきり新体操部か卓球部と言うと思っていたが。


「ソフトボール部」

「ソ、ソフトぉ~」

「鍛え抜かれた太ももとふくらはぎが……」


 理由を聞いても意味不明だった。

 人それぞれ趣味があるから文句は言わんが、マニアック過ぎてついて行けんぞ。


 互いの成績を発表しながら昼食を食べ終えた後、俺は友則にある質問をした。


「ところでさ、友則」

「ん? なんだ?」

「お前さ、クラス対抗リレーに出てみないか?」

「リレー? イヤだよ。めんどくせー」

「お前ってバカみたいに足が速いだろ」

「バカってなんだよ」

「もしかしたら圧倒的にぶっちぎるんじゃねぇか?」

「無理だよ。4組のアンカーは陸上部だぞ。勝てる訳ねぇよ」

「小島かぁ~。あいつ中体連3位だったんだろ?」

「今や我が校のエースだぞ。恥かくのは俺だろうがっ!」


 確かに陸上部のエースと比べられるのは不本意であろう。しかしこいつは、俺が知ってる中でも最速だと思う。

 盆踊り大会の時もそうだったが、ダッシュが尋常じゃない。スパーンと飛び出したかと思うと、その勢いのまま加速し、俺の元に辿り着いた頃にはトップスピードになっている。

 小学校からロクでもない事をやらかし、そのたびに逃げまくる俺ら3人。もう何度となくその走りを見てきた。小島が我が校のエースだとしても友則の爆速には敵わない気がする。


「いいからやってみろよ」

「イヤだよ!」

「そうか。せっかくプレゼント用意したのに……」

「プレゼント?」


 怪訝な表情を浮かべる友則にある物を見せた。


「これ、なんだか分かるか?」

「は、花柄っ!」

「欲しいか?」

「どうしたんだよ、それ。ってか誰のやつだよ!」

「巨牛」

「マ、マジか!」

「もしぶっちぎったら、これをプレゼントするぞ」

「と、とりあえず匂いだけでも……」

「ダメだね。リレーに出て勝つことが条件だ」

「勝てる訳ねぇだ……」

「生パンだぞぉ~。ホヤホヤだぞぉ~。どうするおぉぉ~」


 すると克己が「俺がやる!」と出しゃばってきた。

 さすがパンツマニアである。


「お前じゃ、ぶっち抜かれるだろ」

「やってみなきゃ分かんないだろうが」

「やる前から勝負アリ!だろうが。小島に勝てんのか?」

「……」


 喉から手が出るほど欲しい代物だが、相手が相手だけに諦めたらしい。


「滅多に手に入らないレア物だ。しかも相手は巨牛だぞ?」

「がっ……ググッ」

「ライフワークの幅が広がるぞぉぉ~~」

「ク、クソォォォ。やってやんよ!」

「よし。決定な!」


 友則を言いくるめた俺は、その足でクラス委員の元へ行った。




 奴がリレーに出場する旨を伝えると、クラス委員の小池と体育委員の井上が喚起の声を上げた。


「ホントに参加してくれるの?」

「ああ、間違いない」

「それってウソじゃないよね」

「男に二言はない」

「やったぁー。これでうちのクラスが優勝できるかも!」


 二人共に本気で喜んだ。


 実は……。


 チージョ星に飛ぶ前の日。小池と井上が俺の家に来た。内容は「友則を説得して欲しい」だった。

 普段だったらこういう類のお願いをする訳がない。ただでさえクラスのお荷物で女子全員からフルパワーで嫌われている3人組である。

 しかし今回は事情があった。

 本来、陸上部は100メートルやリレーなど走る競技に参加してはいけない決まりだった。当たり前だが、奴らが出てしまうと圧勝され他の生徒が勝てないからだ。みんな楽しく参加するがモットーの体育祭で不平不満が生まれるのは良くないと配慮されたルールであった。

 だが、4組の体育委員がゴリ押しし、ルールを変えてしまったらしい。

 陸上部所属のクラスはもちろん大賛成で多数決で決まったんだとか。これでは陸上部のいないクラスは圧倒的に不利である。

 それに怒った井上が小池に相談。そしてうちのクラスには狂った爆速野郎がいる事に目を付けて俺に頼んできた。


「ねぇ三次。お願い! 3組の名誉がかかってるの」


 井上が必死になって頭を下げていた。


「けどなぁ~。あいつ面倒くさがりだからなぁ~」

「そこを何とか頼めない? 親友でしょ」

「うーん。説得は厳しいな」

「お願い。三次しか頼る人がいないのよ。頼むから、ね!」

「でもなぁ~」

「頼む!」


 俺も大概面倒くさがりだが、友則の面倒くさがりは匠を極めている。自分の好きなこと以外は一切やらないという迷惑千万なポリシーまで掲げている。

 クラス中が奴の性格を知っているはずだが、必死で俺を説得する井上。


「こんなに頭下げてるんだから、気持ちに答えなさいよ」


 それに対して小池は、淡々とした口調でサポートしていた。


 俺にとって体育祭は興味もへったくれもないイベントである。それは友則克己の人類最低コンビも同様である。誰が勝とうが負けようがどうでもいい。授業がないだけマシ。としか思っていない。


「ほぼ100%の確立で無理だな」

「そこを何とか!」

「……うーん」

「普段はバカだけど、ここで男を見せたらモテるわよ」

「……」


 モテるという単語で心を揺さぶろうと罠を仕掛ける井上。


「あんた。いい加減にしなさいよ」

「何がだよ」

「井上がこんなに頭下げてるのに平気なの?」

「……」

「女の子に土下座させるなんて、人として最低ね」

「じゃかましいわ!」


 俺の「頼まれればイヤと言えない」性格を逆手に取る小池。


 両者の気持ちは分からなくもない。大っ嫌いな俺の所へ来て頭を下げてまでクラスのために尽くしている。意気込みは相当なものだろう。しかも濡れた目でこっちを見ている。

 女子に懇願されるのは男としてゾクゾクする。


「まあ、どうなるか分かんないけど、やるだけはやってみるよ」

「ホント? 本当にホント?」

「ただし、失敗しても文句は言うなよ」

「成功したらスカートめくり1回サービスするわよ」

「マジで?」

「本当はカッコよくて頼りになる男だって宣伝してあげる」

「いや、まあ」

「体育祭が終わったらモテモテよ。告白の嵐じゃない?」

「う、うるせーよ」

「三次にだったら何をされてもいいわ。ってなるかもよ」

「……」


 なあ井上。完全にバカにしてるだろう。

 俺は以前の俺とは違うのだ。宇宙を駆け巡る三次様なのだ。そんな子供だましの手に乗るか!


 頼まれればイヤとは言えない。褒められれば調子に乗る。

 宮本家に代々伝わる始末の悪い血が燃え滾った。


 ……という訳だった。




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