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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
愉快な仲間に囲まれて
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イソクサムーン海洋生物研究所

 プーーッ。ブビビィ!


 オナラみたいな到着音がした。

 思わずラムの顔を二度見した。


 チージョ星には珍しい自動ドアがあり、開かれた先は明るく賑やかだった。美術館を思わせるようなオシャレで開放的な空間には沢山の人がいて、受付には超俺好みのナイスバディーお姉さんがニコニコしながら「ようこそ」と元気いっぱいの挨拶をしくれた。


「ここがイソクサムーンよ」

「真っ暗闇の地下組織かと思ったけど、すごく明るいね」

「そりゃそうよ。暗かったら何も見えないでしょ」

「ところで一体何の施設なの?」

「研究所」

「け、研究所? そんな所に入っていいの?」


 ここの正式名称は「イソクサムーン海洋生物研究所」。

 チージョ星の海に生息している生物を研究するための施設で惑星が運営管理している。地球で言う所の公共施設である。

 本来は海洋生物の研究所として一般人立ち入り禁止の施設らしい。年に何回か特別解放され、その日は一般人も海の生態を見る事が出来るんだとか。


「あのさ、この上って原っぱだよね?」

「ここは島なの」

「島?」

「海に浮かぶ島」

「という事は、俺は海の底にいるって事?」

「そうよ。ここは海底よ」

「……マジっすか」


 俺が見た大草原は海に浮かぶ島だった。

 何だか知らんがちょっと怖い。海の底って聞くと、光も届かない暗黒の闇で奇妙な形の深海魚がヌルヌル怪しげな動きで回遊している。一歩間違えば水圧で押しつぶされる。そんなイメージだ。


「早速入りましょ」

「この間、ココパパからお金を貰ったから奢ってやるよ」

「ありがとう」

「これで足りる?」

「こんなに沢山持ってきたの?」

「金銭感覚が分からないから適当にひっつかんできた」

「ふーん。三次って意外とお金持ちなのね」

「……」


 以前、パパやミルクさん、ココパパからお礼としてお金を貰った。

 チージョ星のマネー相場を知らないため、自分の持っている金額が分からない。My倉庫の丸型フィッツケースには、使い道のないチージョマネーが無造作に放り込まれている。興味がないので数えた事もないが、彼女の驚きようを見ると、俺ってお金持ちなの?


 ラムは差し出した中から2枚引き抜いてチケットを購入した。

 受付を通って少し歩いた所に扉付きの小部屋があり、ガチャガチャのカプセルみたいな丸型の乗り物が置かれていた。


「これに乗って」

「歩くんじゃないの?」

「ここは星の研究所だから、あちこちウロウロ出来ないの」

「ああそういう事か。極秘プロジェクトって事ね」

「それに、バリアが張ってあるの」

「バ、バリアぁ!?」

「だから同化も瞬間移動も使えないのよ」

「だ、大丈夫なの?」


 バリアが張ってある研究所って確実にヤバイと思う。知られたくない秘密や情報を外敵から守るシステム、それがバリアである。

 施設内には惑星の様々な機密情報が蓄積されているという事で、先ほど建物が見えなかったのはバリアで隠されていたから。

 そんな所へ一般人が出入りして大丈夫なのだろうか。もし悪ふざけなどしようものなら、チージョ防衛軍が駆けつけてビームライフルで撃ち抜かれそうである。

 受付のお姉さんに「89、60、87ですか?」と聞きたいのをグッと堪え、大人しく横並びのシートに並んで座った。


「では、海中遊泳をお楽しみ下さい」


 カプセルに取り付けられたスピーカーからアナウンスが流れ、目の前にある扉が音もなく開いた。

 そこは海の中だった。

 想像していた暗黒の世界ではなく、上から太陽が差し込んで海がキラキラ輝いていた。


「うわぁー。キレイだな」

「でしょ!」

「海の中をじっくり見るのって初めてだな」

「上から光が差し込んで別世界みたいでしょ」

「ホントだ」


 異世界で見る、さらに異世界の世界。想像以上の美しさに見とれていると、カプセルがプカプカ浮きながら前進した。


「これってどういう仕組み?」

「これはね……」


 海洋生物研究のために作られた特殊カプセルで、水深5万メートルまで耐えられる優れモノだそうだ。

 研究者たちはこれを操縦して海中を縦横無尽に泳ぎ回り、新種の発見や生態について調べているのだという。

 しかし一般人が好き勝手に駆け巡るのは危険である。海の中では何が起こるか分からない。巨大な魚がぶつかってカプセルが破壊されるかも知れない。機材の不具合で戻れない場合もある。最悪、海に投げ出されてしまったら魚たちのエサになる。

 何があっても対応できるよう自動運転で管理されていて、安全面を最大限に考慮した作りになっていた。俺らは座っているだけでいいので楽ちんである。


「これって意外と楽しいね」

「年に数回しか入れないからみんな楽しみにしてるの」

「カプセルで水中を散歩するって凄いな」

「地球にもあるの?」

「こんな優れた物はないけど、海の生物を見れるスポットはあるよ」

「そこは何ていう場所なの?」

「水族館」


 そう。ここは海洋生物のリアルな生態が観察できる天然の水族館だった。

 今まさに目の前を黄色と緑の模様が入った熱帯魚みたいな奴や、金魚をちょっとでかくしたような奴らがチョロチョロ可愛く泳いでいた。


「魚って地球もチージョ星も姿は変わらないんだな」

「へー。地球でもこんな感じなんだ」

「色や大きさの違いくらいで、泳ぎ方はほぼ一緒だよ」

「今度、水族館ってのに行ってみたいな」

「これに比べたらつまんないよ。でも見たいなら案内するぜ」


 水族館は海中に似せた狭い空間をグルグル回遊しているだけだが、ここは本物の海で魚にとっては日常の姿である。水族館のチマチマした泳ぎ方と違って、「ここは俺んちで縄張りだぜ!」的な大胆な泳法だった。

 スピード重視でぶっ飛ばす奴もいれば、プカッと浮かんでいる奴もいる。大群で自由自在に遊泳している奴もいる。見ているだけで気持ちの良いアッパレな泳ぎっぷりだ。


「魚ってすげぇーな」

「ここはね。遠くへ行けば行くほど大きい魚が見れるのよ」

「そうみたいだな」


 入口付近は近海の小さな魚たち。南国のチージョ星ならではの色鮮やかな熱帯魚がチョロチョロしていた。少し先に進むと今度は割と大きめの奴ら。タイやヒラメやアジみたいなのが頭上をクルクル回っていた。

 それら魚たちの種類や生態についてアナウンスを聞きながら進む手筈である。


「ポーポチンはカリカリ科でママンを好みます」

「モーホホは主にアーナリーシで周回します」


 わ、分らん。


 隣でラムは「へぇ~」といって写真を撮ったりメモを取ったりしていた。名詞も動詞もチージョ語すら知らない俺には何やらサッパリである。

 魚の勉強をする前にチージョ語の勉強が先だろう。というか、勉強する前の勉強が要必須な気がする。頭を使うと眠くなる所から改善が必要なので時間が掛かりそうではあるが。


 しばらく進んで行くと辺りが少し暗くなった。ここは海の中でも中間くらいの深さにあたる場所だった。大きな魚が超スピードでビュンビュン回遊していた。

 見た目的にはマグロとかブリとか美味しそうな奴らである。


「美味そうな魚が泳いでるな」

「美味そう?」

「俺、マグロの刺身が好物だから」

「魚を食べるの?」

「うん。地球人には普通の事だよ。食卓にも並ぶし」

「……なんか、野蛮」


 チージョ星では生き物を食べる習性がない。野菜オンリーの生活である。生き物を食べると聞くと何となく気持ちが悪いのだと思う。

 目の前で泳いでいる魚を食べるのだから確かに野蛮に映るだろう。そう言われてもマグロの刺身は日本人のソウルフードで、これは地球の文化なのだから仕方がない。

 さっきから蔑んだ目で見ているが、俺とお前は異文化交流をしているのだ。その辺は認めて欲しいものである。


 さらに進むと、より深い緑色になった。頭上からの光は遠くに見え、闇の中へ入って来た感じだった。

 今までのチョロチョロした泳ぎと違い、巨大な奴らがのそ~っと泳いでいた。大きさは先ほどの3倍くらいになり、見た事もない生物ばかりになった。


「私、この辺が好きなの」

「大物系?」

「うん。ゆっくりのんびりしている感じが好き」


 ラムがそう言って左右をキョロキョロしていると、急に目の前が暗くなった。


「な、なんだ!」

「わっ、ジジモレクージ。すごーい!」

「ジジイのお漏らし?」


 真上をジジイのお漏らしが通った。その姿と大きさから、地球でいうところのクジラ系だと思われる。軽く5~60メートルはありそうなでかい体を揺らし、ゆっくりではあるが大物感漂う動きで泳いでいた。

 こんな間近にクジラ的なモノを見たのは初めてだった。


「ちょっと怖いな」

「えぇぇー。可愛いわよ」

「でも迫力が違うな」

「チージョ星にこんな大きな生物がいるなんてワクワクする」

「何を食べたらこんなに大きくなるのかな?」

「海の水を沢山吸い込むってアナウンスしてたから、砂糖じゃない?」

「……そりゃ、太るだろうな」


 さらに奥へ進んだ。もはや光は届かず、暗黒の世界であった。ここは深海エリアらしい。


「私、この辺は苦手かな」

「なんで?」

「不思議な生物がいっぱい居るから」


 ラムの言う通り見た事もない怪魚がウロウロしていた。顔がナマズで体がエイヒレみたいな奴とか、ハリネズミとヘビを足したニョロニョロした奴らとか。見ているだけで鳥肌ものである。


「うむ。確かに怖いな」

「でしょ」


 その時、真横を大きめの何かが通った。振り向くと、顔がネコで体がムカデみたいな奴がいた。


「ニヤァァァーーー。ね、ねこバス!?」


 アニメにそっくりな生物が目からビームを発しながら回遊していた。口から牙が生えていて口角が上がっているため、ニヤッと笑っている感じに見える。

 さらにヤツは俺の周りをクルクルした。


「こ、これは……」

「三次、ブヒブヒモサブーに好かれてるじゃない?」

「なんだ、その連発屁みたいな名前は!」


 アナウンスでは「ブヒブヒモサブーが目から光を放つのは愛情の印」との事。


「ほら。好かれてるのよ。きっと」

「……」


 人間にだって滅多に好かれないのに、海洋生物の中でもマニアックな奴に好かれるとは。俺が深海で暮らしたらモテモテなのか?


 それからしばらく進むと、ピーッブリッ!という音が鳴った。

 ラムの顔を二度見した。


「これで終わりよ。さあ、戻りましょ」


 カプセルはクルっと反転し、今来た道を戻り始めた。帰りも色んな魚を見れるので得した気分である。ラムはキャッキャ言いながら海中を見回していたが、俺は気が気じゃなかった。

 なにせ、ねこバスが真横を笑いながらついてくるんだもの。


 お前は深海生物じゃないのかよ。

 もう入口付近なんだぞ。熱帯魚がウロウロしてるんだぞ。

 早く帰れ、自分の巣に。 


 何だか知らんが、なつくな!




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