素敵なメッセージ
ココを舎弟のように引き連れて満へ向かった。
店に辿り着くと、開け放たれた店内から香ばしい匂いが漂っていた。
(第一部 異文化交流開始です 参照)
「こんにちは」
「あら、三次。いらっしゃい」
「おばさん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに? 改まって」
「実は……」
この子が自販機を研究していて内部構造を知りたい。だが、他に頼める人がいなくて困っていた。その時、おばさんの顔が浮かんだ。
おばさんだったら優しくて頼りになるし度胸もある。キップのいい姉御肌でみんなに慕われている。頭の回転も早く、客あしらいも上手い。おばさんの笑顔を見たいがために通う常連もいる。この店の看板娘だ。しかも社長夫人とくれば、誰もが憧れる町の誉れ。よっ、社長夫人!
的な事を言った。
「いやぁ~ん。三次ったら相変わらず口が上手いわね」
「俺は本心しか言わないから」
「こんなおばさんをからかって……」
「からかってないよ。本当の事だもの」
「んもう、本当にしょうのない子ねぇ~」
「ダメですか?」
「うふっ。ちょっとだけよ」
「……よ、よろしく」
頬を赤らめるな!と言いたいが、頼み事をしている以上、文句は言えない。
少女の照れ笑いで中身を見せてくれた。
「ココ。しっかり録画しろよ」
「わかりましたぁ」
メガネ型双眼鏡&録画機能付きで動画を撮り、メモを片手におばさんの説明を真剣に聞いていた。
ようやく目途が立ちそうである。色んなアクシデントがあったが、チージョ星に新たな名物が出来るかもしれない。後はココとパパに任せる事にしよう。
一通り説明が終わった後、
「三次。食べていく?」
「もちろん。ただ、この子は肉抜きでお願い」
「三次も? うふ~ん」
うふ~ん、じゃねぇよ。
毎度毎度、それを持ちネタにするな!
褒められてウキウキなのか、景気よく大盛りにしてくれた。俺は皿をココの前へ差し出した。
「食べてみ」
「何という摩訶不思議」
「初めての地球メシはどうだ」
「び、美味ですねぇ~」
「だろ?」
「これはクセになる味覚ですねぇ~」
「店は汚いけど絶品だろ?」
「汚いは余計だよ!」
おばさんが口を挟んできた。
「三次、この子はなに? あんたの彼女?」
「いや違うよ。友達だよ」
「へぇ~。可愛い友達ね」
可愛いと言われ照れ笑いするココ。
「私はココって言いますです。三次さんのお友達ですぅ」
「そうなの。ほんと可愛いわね」
「ありがとうございますです」
「ココさん。気を付けてね。三次はスケベだから」
ラムの時も同じシチュエーションだったが、これはデジャブ?
それとも、おばさんの鉄板ネタなのか?
……俺の手抜きか。
自販機を見て、初めての地球メシも食い、超ご満悦のココ。
「楽しかったですぅ。美味しかったですぅ」
「そうか。良かったな」
「はい。クセになりそうな舌先ですね」
「ハハハ。気に入ったみたいだな」
「どうやって製作するのでしょうか?」
「……」
なんか俺、危険なスイッチを押したような……。
商店街から河原までの途中、ココの質問攻めに辟易したが今回は良しとしよう。
一時は「もうダメだな」と諦めモードだった。チージョ星に自販機を持ち込む事は出来ず、仕組みを知らない俺もどう説明していいか分からなかった。
花火やストーブのように見比べながらの制作は簡単だろう。しかし、何も見ず、何も知らない状態では、それこそ手も足も出ないと思う。
ゼロからスタートするのは想像を絶する大変さだ。何もない所から作り上げる苦労は並大抵のことではない。
けれど、アイデアを形にし、それが完成した時の喜びは格別だ。自信と満足感がみなぎってまさに至福の瞬間だと思う。その楽しさがあるからこそ再び難問にチャレンジするのだろう。
ココの表情がやる気満々だったので、そういう事なのだと思う。
「本当にありがとうございましたぁ」
「良かったな。俺も一時は諦めかけたけど」
「無理難題かと思ってましたが」
「中身も見れたし、おもちゃだけど仕組みも解明できるし。これで何とかなりそうだな」
「さすが我が心の師」
「まあ、俺にかかりゃ楽勝だぜ」
「何と高貴な!」
「とにかく頑張れよ」
「はい。不惜身命ですぅ」
「出来上がりを楽しみにしてるよ」
「完成したらお知らせに来ますです」
「期待してるぞ!」
満面の笑みで宇宙船に乗り込むココ。
「そういえば……」
「ん? なに?」
「ミルクから伝言があるのですがぁ」
「ミルクさん!?」
この所ミルクさんのもぎゅーを味わっていないので、ミルクという単語だけで体が欲してくる。牛乳を飲もうとしてパッケージの「ミルク」に反応してしまう俺。
もはや中毒である。
「で、そのメッセージとは?」
「もうすぐ温泉が完成するみたいですぅ」
「そこまで進んでいるのか」
「完成したら迎えに行くと言ってましたぁ」
「ほ、ほんとに!?」
「一緒に入ろうって言ってましたぁ」
「え? マ、マジでぇ~」
「はいぃぃ」
「行く! 絶対に逝く!」
とびっきりステキなメッセージを残し、ココはチージョ星へ帰って行った。
おいミルク。もしかして俺に惚れたな。俺も忙しい身分だけど、お前のために何とか都合をつけてやんよ。楽しみに待っとけ。
って、ぐわぁぁ! 想像するだけで全身の血液が特定の場所に集中するぅぅ。
三次、逝きま~~す!




