連絡取れましたぁ
それから1週間。
学校へ行けば「ゴム泥」扱いで、女子全員からシカトされた。
いまさら無視されても俺の評価は底辺を這いつくばっているので痛くも痒くもない。逆に好きな事を思いっきり出来てラッキーである。
家へ帰れば、対象年齢3歳~5歳用のおもちゃをいじくって遊んでいる俺を「配線のゆるい哀れな子」として家族が今後の身の振り方を話し合っていた。
そんなくだらない事はどうでもいい。
メッセージを送ってから1週間経つがラムからの連絡がない。地球からチージョ星まで届く時間が約2日。相手が送って2日。合計4日でやり取り可能である。
だが、今のところ何の音さたもなかった。
「また入院か?」
二度あることは三度ある。特にあいつはどんくさいから、再び失敗して瀕死の重傷かもしれない。今度はたぶん全治6日くらいだろう。
まあ、心配しても始まらない。考え事をすると眠くなる機能を備えている俺は、何かしらを握りしめフィニッシュ寸前で寝落ちした。
しばらくして。
真っ暗な部屋に明かりが灯った。ホタルみたいに点いたり消えたりしている。部屋中が歩行者信号のようにチカチカと点滅していて鬱陶しい。
その明かりは机の引き出しからであった。一番手前の大きな引き出しにはアイノデリモンクーが入っている。「もしや」と思い、慌てて引き出しを開けた。
ビガァーっと緑の光線が飛び出してきた。
「ウギャッ。め、目がぁぁぁーー」
いきなり飛び出した光線はユラユラと天井へ向かって動き始めた。
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謎のメッセージは数秒間浮かび上がり、静かに消えていった。
たぶんラムからのメッセージだと思われる。しかし書かれた文字はチージョ語なのでさっぱり意味不明だった。
だが、俺は時空を操る男。行動力と妄想力だけは人一倍ある。たった2つしかない能力のうち妄想力をフル回転させて文字を判別した。
三次へ
忙しいので行けません
たぶん、こんな感じだろう。
真面目で何事も全力なラム。見た目はポニーテールが爽やかな美少女だが、意外と負けず嫌いで根性がある。
勉強は理解出来るまで復習するし、分からない事があれば自分が納得いくまで徹底的に調べ上げる。頼まれ事は全身全霊で取り組み、責任のある仕事を任せると無我夢中になる。
ミルクさんの手伝いをしている最中にケガを多発させ、自分の役割を果たせていない。このままでは迷惑をかけてしまう。復活したら今よりもっと頑張ろう。
そんな正義感で今頃は必死で温泉施設の完成に情熱を燃やしている。俺みたいなエロチンピラにかまっているヒマはない。
これが正解だと思う。
今回はラムというよりココに用事がる。忙しいさ中、伝書バトみたいな事をさせられても困るだろう。もし俺だったら「ふざけんじゃねぇ!」と叫び、レゴの上で本気ジャンプの刑を執行する。
妄想が当たっているかどうか分からないが、あまり迷惑をかけても申し訳ない。
「うーん。ココに直接コンタクトしてみるか」
アイノデリモンクーはラム家を中心にインプットされている。果たしてココの家へ届くのだろうか。間違って他人の所へ行ったら、それこそ迷惑千万である。
地球人にとってチージョ星とコンタクト出来るアイテムはアイノデリモンクーだけだ。それ以外に手立てはない。上手くいくかどうかは時の運である。
「まあ、考えてもしょうがない。やってみるか!」
時計を見たら丑三つ時。メッセージには最適な時間である。
俺は意を決して空へ振った。
ココへ
連絡されたし
そして途中で寝落ちした続きを再開し、さっぱり気分で眠った。
それからさらに1週間後。
「お呼びでしょうかぁ~」
「ひょえぇぇ--」
ココがベッドの真上でニコニコ笑っていた。
空中に浮かんだまま起こすな。一瞬、幽体離脱したかと思ったぞ。
「おはようございますですぅ」
「お、おう。おはよう」
「何の用の所存で?」
「メッセージ届いたの?」
「急にメッセージが現れて驚愕しましたです」
「ああ、ごめん。ごめん」
どうやら無事届いたらしい。
初めはラムに送ったのだが、返事がないので試しにココへ送ってみた。今回はココに用事があるので来てくれて助かった。
という旨を伝えた。
「ラムちゃんは現在、温泉作りで手一杯でして」
「やっぱりな」
「ケガして遅れた分を取り戻そうと躍起になってますです」
「やっぱりな」
「責任感が強靭ですから」
「やっぱりな」
予測通りの展開だった。
ほら、俺って宇宙を駆け巡る英雄だから。予測は英雄に必須だから。
直接コンタクトを取れたのは幸いである。ラムを通して伝えるのは大変だし、わざわざチージョ星まで出向くのは面倒くさい。地球に来てもらい、本人に説明しながら手渡した方が楽である。
「実はこれなんだけど」
俺は机にあるおもちゃの自販機を指さした。
「これは何事でしょうか?」
「子供が遊ぶ自販機のおもちゃ」
「こ、これが自販機とは意外性」
「そのお金、入れてみろよ」
おもちゃのコインを投入した。
ボタンを押すと、プラスチックの小さな缶がコロンと転がり出てきた。
「おおっ!」
「本物ではないけど、仕組みを理解するのは丁度いいだろ」
「なるほどですね」
「ココが作ったのと似てるだろ」
「いい線いってますね、吾輩作は」
「だな」
コインを入れ、ボタンを押し、転がり出て、再び入れる。まるで子供のように純粋な顔で何度も繰り返していた。
「気に入った?」
「はい。とってもですぅ~」
「そうか。じゃ、パパに渡してくれ」
「ありがとうございますです」
嬉しそうに感謝するココ。その顔を見ると「ゴム泥棒」の汚名を着せられても良しとする。
「ところで、進み具合はどうなんだ?」
「まだ悩みの途中でして」
「どの辺が苦戦しているんだ?」
「うーん……全部ですかねぇ」
「そうか」
一から作るって本当に大変な事だと思う。単なる子供向けのおもちゃだって、制作までにどれだけの手間とお金とアイデアが詰まっているか。本物となるとさらに時間とお金が必要だろう。モノを粗末にするとバチが当たるってこの事である。
「三次さん。お願いがあるのですがぁ」
「なんだ。遠慮なく言ってみ」
「やっぱり本物を閲覧したいですぅ」
「……ま、そうだろうな」
所詮おもちゃはおもちゃ。玩具で仕組みを理解しても本物を見なければ話にはならないだろう。ココの望みを叶えてやりたい所だが頼る人がいなかった。
現時点で関取にお願いするのは危険極まりない。この間、自転車のカゴにハチの巣を放り込んだばっかりだ。犯人がバレたら色んな意味でハチの巣である。
叔父さんちに自販機はあるが温泉までは遠い。近所に自販機を扱っている友人はいない。商店街で知り合いは……。
ん? 焼きそば屋!?
満の店外に自販機がある。おばさんに頼めば見せてくれるかもしれん。
「おいココ。見せてもらえるかもしれんぞ」
「まことしやかかっ!」
「行ってみなきゃわかんないけど」
「大丈夫でしょうか?」
「とにかく、今から行こう」
「はいな」
ココを引き連れ、焼きそば専門店「満」へ向かった。




