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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
難問続出のお願い事
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アイノデリモンクーの使い道

 千葉のお父さんから図面と写真と説明書を貰った。これをラムパパに持って行けば箱は作れる。箱さえ作れば、後はチージョ星人が何とかしてくれるだろう。

 とりあえず準備は整った。一刻も早く知らせてあげたいと思ったが、よく考えれば俺から連絡する手段はなかった。宇宙船は返してしまった。迎えの約束もしていない。10万光年先の遥か彼方へ連絡を取る方法は皆無である。

 いくら知恵を絞ってもどうする事も出来ないのが現状だった。

 どうにもならない事に頭を使っても無意味である。無駄に悩んでも問題が解決する訳ではない。


「ま、そのうち来るっしょ」


 連絡を待つ愛人の気分で日々の学園生活を過ごした。



 関取が着席する瞬間に消しゴムを置いて「にゃぁぁー」と言わせたり。イラストを描いている途中で克己の肘を押し「き、貴様ぁぁ」と激高させたり。安らかに寝ている友則の首筋にゴムパッチンをして「うぐぐっ」と唸らせたり……。

 大切な仲間たちと愛情のスキンシップをしていたある日。

 理科の時間に「光の見え方と屈折」的な授業を行っていた。真剣に授業を聞いても内容が1マイクロも頭に入って来ない。

 友則は相変わらず爆睡で、克己はノートに美少女キャラを描いていた。俺は無我の境地で黒板をボーっと眺めていた。

 何やら小難しい授業が続き、そろそろ頭の回路が千切れそうになった時、先生がポケットからレーザーポインターを取り出した。これを水槽に照射させて入射角や屈折角、届く範囲など光について説明していた。

 黙って聞いていたが、この授業はチャンチャラ可笑しかった。

 レーザーポインターなどたかだか数十メートルから数百メートルくらいの範囲しか届かないであろう。しかも水と空気の関係で光の見え方が変わるなど、原始時代の話かよ!と思ってしまう。

 俺はもっと凄い物を見ているし、知っている。水も空気も時空も越えて10万光年先まで真っ直ぐに届く光がある。


 その名はアイノデリモンクー。


 以前、みんなで温泉へ行った際、森の片隅に置いて照射した。その光は大気圏を越え、無重力空間を切り裂き、10万光年離れたチージョ星まで届いた。緯度と経度をインプットすればナビの役割も果たす。ツムーリゲバロンやクルマイスで何度もお世話になった。

 地球では考えられない代物を目の当たりにした後で、いま先生が説明している内容は赤子の手をひねるくらい楽勝だ。退屈過ぎてあくびが出る。

 それに、アイノデリモンクーは空中に字も書け……。


 ん? 字が書ける!?


 首筋の後ろ辺りがジンジンしてきた。

 ついでに左脳が完全にストップし、右脳から電波が発信された。


「メッセージ送れないかな。これを使ってコンタクト出来る、かな?」


 使い方は聞いているが実際に試した事はない。地球の空に文字を書いて、それがどうやって10万光年先まで送られるのだろう。光が特殊構造になっているのか。もしくは何らかの作用が働いているのか。地球如きの、さらに小さな世界の、さらに極小の空っぽ脳では理解不能だ。

 相手は技術の匠、チージョ星である。地球的な考は役に立たないと思われる。


「あの星は不思議な事だらけだからな。やるだけやってみるか!」


 右脳を全開に思案していると。


「おい三次。さっきから何ブツブツ言ってるんだ」

「え?」

「お前、いまの説明聞いてたのか」

「あっ、はい?」


 左脳がストップしているので先生の言葉が理解出来なかった。


「俺の言った内容、もう一回説明してみろ」

「どれ……ですか?」

「光の屈折だ」

「ええっと、光を集中増幅させ、その熱で空中にある水分を瞬間的に……」

「何を言ってるんだ?」

「ア、アイノデリモンクーですが」

「愛の文句?」

「あっ、いえ」

「お前、柄にもなく愛の詩を書いてるのか」


 その言葉にクラス全員が爆笑した。


 し、失礼な。俺だって愛の詩くらい書けるわ。

 ただ今は頭がカオスなので笑われている状況すら理解出来ないけどな。


 全員から笑われ、先生から失笑された。関取にDNA鑑定を勧めたら張り手を食らわされた。克己から美少女の裸婦画が届いたので胸と尻を大きめに描き直したら半狂乱になった。寝ている友則の瞼へ強烈ゴムパッチンをして「ほら、帰るぞ!」と言って帰宅した。

 家へ帰った俺は、メシ、風呂をサッサと済ませてベッドに潜り込んで爆睡した。


 夜中の3時に目覚ましが鳴った。


「さて、やってみるか」


 俺はアイノデリモンクーを手にした。

 明るいうちは光が光を吸収するため見えづらい。それに人が歩いているので少しでも光線ビームが見えたら大変である。

 夜は夜でネット検索に情熱を燃やしている奴らもいる。アイノデリモンクー独特の緑色の光は暗い夜空には目立ちすぎる。

 仮に、みんなが起きている適当な時間に放射したとしたら……。


「宮本さん家から変な光線が出てる」

「あそこの息子は少しアレだから」

「ちょっと文句言って来ようか」

「止めた方がいいよ。明日から塀におしっこ引っかけられるから」


 近隣住民が騒めく事請け合いである。

 そこで、みんなが寝静まった真夜中に実行してみようと思った。俺が生まれた時間、草木も眠る丑三つ時が最適である。

 アイノデリモンクーを空中で振って光を出した。そして長く伸びたレーザービームを使ってメッセージを書いた。


 ラムへ 連絡を待つ


 文字は夜空に花火のように鮮やかに描かれ、数秒後に消えてなくなった。

 果たしてこれで通じるのだろうか。相手は10万光年先である。地球の夜空に書いただけのメッセージが宇宙空間を越えて届くのだろうか。



 愛は突然やってくる

 届かぬ星に君を想い 張り裂けそうな胸の内

 時空を超えた輝きは 色褪せることのないダイヤモンド

 2つの運命が交わえば 交響曲が流れ出す

 目に焼き付けた笑顔と 胸に刻んだ幸せ

 届け 君の所まで


 by 宮本三次




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