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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
難問続出のお願い事
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面倒くさい女の登場

 頼まれたらイヤとは言えない。責任感は案外強い方である。


 地球へ帰った俺は、約束通り自販機について調べてみた。

 工場や入れ物などが揃ってしまえばそう難しい事ではない。地球より進歩した惑星なら余裕だろう。問題は、勝手が違う星で部材調達がキーワードである。

 その辺をどうするのかはチージョ星人の仕事。ド素人の俺が口を挟む余地はない。諸々は彼ら任せるとして、俺は俺で仕組みを知っておこうと思った。


「確か千葉奈美んちの親父が飲料メーカーに勤めてるって言ってたな」


 俺のクラスに千葉奈美という女がいる。おしゃべりで口うるさく、何かにつけて苦言を呈してくる厄介なヤツだった。

 俺らがバカな事をするたび担任にチクリを入れ、そのお陰で何度となく苦汁をなめてきた。

 胸はまあまあイケてるのだが、性格が男勝りである。

 友則が彼女のスカートをめくった際「何するのよ!」と叫び、振り向き様に金蹴りを食らわした。それを見た克己が反撃の狼煙を上げて後ろから抱きついたが、みぞおちに肘打ちを喰らい、ベルトを掴まれて上手投げで転がされた。

 安定した下半身と、ふくよかなガタイから繰り出される攻撃は横綱級で、クラスの男子から「関取」と呼ばれている。

 本人はそのアダ名が気に入らないらしく、目の前で言おうものなら、がっぷり四つからの外掛けで転がされる。からかった友人が合掌捻りで潰された時には恐れをなした。

 ちなみに、俺はジェントルマンなのでそういう下品な行為はした事がない。



 昼休み。


 彼女と対峙するのは気が重い。少しでも油断すると難癖を付けて絡んでくる。ここは気合を入れ直して向き合わねばならぬ。

 手についた塩を舐め、まわしをバンバン叩いて話しかけた。


「おい、ちばなみ。お前に聞きたい事があるんだけど」

「ちょっと近づかないでよ。バカ菌が飛び散るでしょ!」

「……」


 のっけから面倒くさい。ただでさえ校内のケダモノとして君臨している俺ら3人である。近づくと「バカがうつって成績が下がる」と信じられていて、触られたらその箇所が壊死すると言われている。悪質なウィルス状態だった。


「お前んちの親父って飲料メーカーに勤めてなかったっけ?」

「……だから?」

「部署ってどこなの?」

「そんな事を聞いてどうするのよ」

「いや、ちょっと訳アリでな」

「……」


 完全に疑いの眼差しになっていたが、ココの為に我慢である。


「聞きたい事があるんだが、今度の日曜に会わせてもらえるか」

「何企んでるの?」

「何も企んじゃいないよ」

「お父さんと会うフリして私の部屋に入ろうって魂胆じゃないよね?」

「だ、誰がお前の部屋に入るかよ!」

「下着とか漁るつもり?」

「がふぅ……」


 普段の行いが最悪なだけに信用しろというのが無理な話である。「タンスを隈なく漁る」という高等テクニックを駆使して今まで色んなモノを漁って来た。最近はタンスを見ただけでどこに何が配置されているのか分かるようになった。人生で一切役に立たない特殊能力である。

 それに加えてロッカー進入、部室荒らし、体育時間の教室物色など犯罪を挙げたらキリがない。

 俺が彼女の立場だったとしても信用はしない。というか、部屋には一歩たりとも入れない。


「本気で親父さんに用があるんだ」

「あんたの何を信用しろと?」

「頼む!」

「……」


 これ以上話をしてもMAXにこじれるだけである。奥歯が砕け散るくらい噛みしめながら丁寧な姿勢で会う約束を取り付けた。



 日曜日。


「こんにちは」

「あら、いらっしゃい」


 細面でスタイルの良い母親がニコニコしながら出迎えてくれた。

 友則には絶対に教えてはならない逸材である。


「初めまして」

「主人に用があるんですって?」

「そうなんです。是非お父さんに聞きたい事がありまして」

「何でも答えてやる!って張り切ってるわよ」

「ハハハ。お邪魔します」


 玄関を上がって居間へ通された時、二階から四股を踏みながら降りて来た。


「ちょっと、部屋には入って来ないでよ!」

「そんな事はしませんよ。安心して下さい」

「そうやって油断させる手口ね」

「考えすぎですよ。奈美さん」

「……」


 階段にはトラのロープが張り巡らされ、立ち入り禁止の紙がぶら下がっていた。両親が近くにいる以上、いつもの調子はまずい。それもこれもココの為。そう言い聞かせ、下唇を噛みしめて部屋へ入った。

 リビングへ通されると、ソファーに座った父親が満面の笑みで迎えてくれた。

 これまた細身のいい男だった……。


「初めまして。宮本三次と申します」

「君が三次君? 娘から噂は聞いてるよ」

「はぁ」


 この調子だと悪口が関の山であろう。それ以外で俺を表現する方法はない。あるなら俺が知りたいくらいだ。


「私に聞きたい事があるんだって?」

「はい。実は……」


 とある人物が自販機に興味を持った。教えてあげたいが何の知識もない俺にはどうする事も出来なかった。そこで思い出したのが奈美さんのお父様だった。

 お父様は会社でも地位の高い立派な方だと聞いている。その方から内部構造と製造過程を学び、自ら勉強する事で相手にも分かりやすく伝えてあげたい。お父様のような専門家から話を聞くのが一番勉強になる。右も左も分からない若輩者ですが、自販機の内部構造と飲料水の製造過程をご教授下さい。

 チージョ星という部分を極力省いて丁寧にお願いした。

 父親は自分の仕事に興味を持ってくれた事が嬉しかったのだろう。事前に用意していた書類やら写真を広げ、事細かに説明してくれた。


「一番の重要なポイントはだな」


 自慢&嬉しさ&熱意を爆発させ、約2時間にも渡って教えてくれた。



「……という訳だ。これが俺の仕事だ」

「ありがとうございます。勉強になりました!」


 その後、俺が持ってきた手土産と、母親の入れてくれた紅茶を飲みながらしばし団欒した。


「人の為にこんな事が出来るなんて三次君は偉いね」

「いえいえ。普通の事です」

「その謙虚さもいいね」

「情けは人の為ならず。ですから」

「おおっ。自然にその言葉が出るとは。素晴らしい!」

「お父さんこそ博識で驚きました」

「色んな事に興味を持って勉強するは君自身の力になるよ」

「はい。これからも頑張りたいと思います」

「奈美に三次君の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」

「そんなぁ~」

「ハハハ」


 父親の言葉を聞いてムッとする関取。楽しく会話している俺を見てしびれを切らせたのだろう。いつもの様に小バカにした調子が始まった。


「そろそろメッキが剥がれる頃ね」

「君は何を言ってるんだい?」

「ふん。学校じゃロクな事しないクセに」

「困った人だなぁ~。ハハハ」

「その笑い方、すっごいムカつくんですけど!」

「眉間にシワを寄せると可愛い顔が台無しだぞ?」

「う、うるさいわよ!」


 昔の俺だと思うなよ。今の俺は宇宙を駆け巡り、時空を超え、異星人と異文化交流をする三次様だ。君たちのように近所でチマチマ遊んでいる奴らとは経験値が違うのだ。宇宙規模で活躍するスーパーマンなのだよ。


 素敵な両親と色々な話をし、宴もたけなわで千葉家を後にした。

 帰り際に階段を全力ガードしていたが、そんなのは無駄なあがきである。ここは地球で角がある。2階へよじ登るなど造作もない事。何度も言うが経験値が違うのだよ。


「じゃあな」


 そう言って手を振ると、玄関先に塩を撒いていた。


 ……君って意外に苦労してるんだね。

 そんな君に宇宙を司る俺からアドバイスを送るよ。


 DNA鑑定をしろ! 話はそれからじゃぁぁぁ。





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