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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
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宇宙人の底知れぬ能力

 その日、俺らは河原に架かる橋の下で拾ったエロ本を回し読みしていた。友則と克巳は、頬を引っ付けて参考書に目を通していた。


「克己、これを見ろよ。こんな事もしてんぞ」

「もうあれだな、人類の枠を超えてるな」

「全身フル活用じゃねぇかよ」

「アクロバティックの極みだぜ」

「ケツって痛くねぇのかな」

「パンダの精子を取る時、ケツに電流を流すとか言ってたな」

「で、電流!? 大丈夫かよ、パンダ野郎は」

「気持ちいいらしいぞ」

「マジか!」

「お前、やってみるか?」

「と、とりあえず三次で試そう」


 ギャハハハ!


 2人はマタタビを貰った猫のように酔いしれていた。

 俺はラムの事を考えていた。


 実は明後日からの3日間、この町最大級の夏祭りがある。

 1日目は盆踊り大会。近くの運動公園で開催されるイベントでメインは盆踊りだ。もちろん屋台も所狭しと並び、ワクワクが止まらないスペシャルデーである。

 2日目は奉納祭。藁で作った巨大な龍が町中を練り歩き、神社に祀って五穀豊穣を願う由緒正しき祭りだ。龍に繋がれた手綱を引くと、お手伝いとしてお菓子が貰える特典付き。小学生の時は、これが一番嬉しかった。

 そして3日目は花火大会。いつもは静かな河原がこの日は人で溢れかえる夏祭り最高のクライマックスだ。町中の人が楽しみにしているイベントで、御多分に漏れず俺らも命を懸けている。

 そこへラムを連れて行きたいのだが問題が……。

 いま隣で、互いに組み合って体位の勉強をしているこいつらだ。この2大バカ巨頭をどう処理するが重要ポイントである。


 例えば、


「俺、今回はいかない」

「もしかして女か!」

「1人で女体を楽しもうって魂胆だな」


 こんな感じで問い詰められるだろう。

 確かに女なので反論する余地はない。ただ、説明がすこぶる難しい。詳しく説明しても信じてはもらえないと思う。逆に理解されても、それはそれで困る。

 ラムをこいつらの毒牙にかけるのは断固として拒否する。

 奴らに宇宙人という単語を出しただけで、


「よし。これから異文化交流会を行う」

「君は火星人ですか? 僕は仮性人です」

「まずは俺の未確認飛行物体を見てもらおうか」

「ブラックホールの吸引力を味わってみたいと思います」


 などと狂気の発言をし、友則は全裸になって仁王立ちするだろう。克己に至ってはロリーの本領を遺憾なく発揮する。

「用事があるから」と断る事も可能だが、現場で会ったら最後。その日の夜に俺の部屋めがけてロケット花火が撃ち込まれる。数十発単位で。さらにベランダに爆竹を投下され、お祭り騒ぎになるのは間違いない。

 どうすればこの2人から逃げ出し、ラムを祭りに連れて行けるか。

 彼女の故郷に夏祭りがあるのか知らないが、夏はやっぱり祭りである。せっかく地球に、しかも日本に来たのだから伝統の祭りを見ないと研究にならないと思う。だって異文化交流なんだから。


「おい三次、どうしたんだ? ボーっとして」

「あっ、いや。何でもない」


 ……なあ、さっきから上になったり下になったり、気持ち悪いからもう止めろ。

 橋を渡る人々がBL中学生だと思って引き気味に見てるから。



 家へ帰った俺は、湯船に浸かりながら対策を考えた。

 バックレる方法はいくらでもある。最も簡単なのは、待ち合わせ場所に行かなければいいだけの話だ。後ほど辻褄の合う言い訳をすれば解決である。

 もちろん狂った刑に処されるが、適当に付き合ってやれば脳みそスカスカの奴らはご満悦だろう。

 一番ヤバイのは現地でバッタリである。この言い訳をどうするか。

 毎年行われる盆踊り大会は、みんなが楽しみにしている一大イベントである。町中の老若男女が来るといっても過言ではない。俺のクラスの連中も確実に訪れる。他の奴らに見つかっても簡単にかわせるが、あの2人だけは死に物狂いで俺を追い詰めるだろう。そして頭がぶっ壊れた刑を淡々と実行に移すのは明白である。

 ラムに祭りの事を話した訳ではない。連れて行く約束もしていない。このまま何事もなかったかのように振舞えば終いだ。

 ただ何て言うのだろう。このチャンスを逃したら、女の子と祭りデートなど俺の人生に無い気がする。しかもラムのようなとびっきりの美少女となると確立はさらに減る。


『女の子と手を繋いで屋台巡り』


 この不純異性交遊まがいのシチュエーションを諦めるには勿体なさ過ぎる。

 さてさて、どうしたものか。


 色んな考えを巡らし、体と心に溜まった垢やカスを洗い流して純粋な気持ちで風呂から上がった。

 冷蔵庫から麦茶を取り出してリビングを横切ると、ソファーで寛いでいた妹に「私の部屋に入ったでしょ!」と身に覚えのない疑いをかけられた。しつこく攻寄ってくるので「入ってねぇよ」と蹴りを入れ、麦茶を持って二階へ上がった。

 部屋の電気をパチッと点けて……。


「こんばんは」

「うぎゃぁぁぁーーー」


 ラムが勉強机のイスに座っていた。


「な、何事ぞ!」

「ごめん。驚かせちゃった?」

「なぜここに居る!」

「分からない事があったら尋ねて来いって言ったでしょ」

「確かに言ったが……」

「聞きたい事があるんだけど」

「ち、ちょっと待て。落ち着け!」

「落ち着くのは三次の方でしょ」

「……俺か?」


 いきなり目の前に現れて落ち着けという方が無理である。

 彼女の特殊能力は理解した。同化という宇宙の摩訶不思議も体験した。瞬間移動を見せつけられ、脳の一部を破損した。全てを理解したつもりだが、どの角度から見ても地球人としか思えないラムの容姿が脳波を混乱させる。

 住所は教えていないはずなのにどうやって探し出したのだろう。何かしら宇宙人特有の裏技が存在するのだろうか。


「と、とにかく説明しろ!」

「何を?」

「住所は教えてなかったと思うが」

「うん。聞いてないよ」

「なのに、どうして家が分かったんだ」

「意識の周波よ」

「息をスーハー? 新しいラマーズ法?」

「周波!」


 これまたチージョ星人特有の同化が絡んで来るらしい。

 人間の意識からは常に周波という電波系が出ているんだとか。相手の意識に集中すると、そこから発する周波を捉える事が出来る。捉えた意識周波を辿ると居場所を確認する事が出来る。特定したら同化によって瞬時に相手の元へ辿り着ける。

 一度会った相手なら、その人が発する意識周波を探し出す事が可能。

 という裏技らしい。


「どう、理解した?」

「すげぇな。チージョ星人って」

「普通でしょ?」

「……普通なの?」


 ラムと話をするたびに前頭葉が破壊されていく……。


「ところで聞きたい事って?」

「お祭りって何?」

「どうやって知ったの」

「この間の商店街に写真がいっぱい貼ってあったから」

「ああ、ポスターか」

「見てたら面白そうだなって思って」


 瞬間的に「バレた」と思った。町を挙げてのイベントたけに、駅前から商店街に至るまであちこちにポスターが貼られていた。年に一度の夏祭りである。町としても気合十分だろう。ラムじゃなくても気付いて当然である。


「い、行ってみるか?」

「うん。行きたい!」

「……分かった」

「で、お祭りって何?」


 いきなり「お祭りって何」と聞かれても説明が難しい。見た事も聞いた事もない者に盆踊と言っても不明だろうし、屋台と言っても通じないと思う。まして相手が宇宙人なら尚更である。

 俺は来日したばかりの外国人でも分かるレベルで説明した。


「へえ~。みんなで踊るの?」

「そう。輪になって太鼓を囲んで踊るんだよ」

「なんかすごく楽しそう」

「屋台も出るしワクワクするよ」

「私、今からワクワクしてきた!」

「じゃ、ちょっと踊り教えてやるよ」


 そう言って立ち上がり、目の前で踊ってみせた。俺の姿を見て不思議そうな顔をするラム。日本独特の調子っぱずれのリズムに奇妙な振り付け。初めての人が見たらポカンとするだろう。


「ほら、一緒にやってみようぜ!」


 手を差し伸べると、俺の真似をしながら踊った。


「面白い動きね」

「独特だからな、盆踊りって」

「太鼓っていうやつのリズムに合わせるんでしょ?」

「心配すんな。間違っても大丈夫だよ。要は楽しくやればいいんだから」


 手取り足取り腕を取り。祭りの音頭を口ずさみながら2人で部屋をグルグル回って練習した。


「どうだ。簡単だろ」

「まだまだだけど、本番まで練習しておくね」

「頑張れよ」

「じゃ、そろそろ帰るね」


 瞬間移動で消えるのか?と思っていると、突然ギューッと抱きつかれた。胸も頬も全部ピッタリくっつけて。


「なっ……」


 生まれて初めて女の子に抱きつかれた俺は、心の奥の深い部分が強烈な化学反応を起こした。同時に体中の血が一極集中した。


「や、やめろ。そういうの!」

「なんで? これは私の所じゃ常識よ」

「常識?」

「感謝の気持ちや楽しかった時、お礼の印としてこうするの」

「マジで」

「こっちは違うの?」

「こっちは本当に好きな人にしか使わない技だけど」

「そ、それじゃ。また」


 それを聞いたラムはポッと赤くなり、瞬間でいなくなった。


 チージョ星って思った以上に素敵な星かもしれん。

 それより、この熱く火照った体の鼓動をどうしてくれるんだっ!




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