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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
難問続出のお願い事
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ココのお願い聞いて欲しいですぅ

「ラムちゃん、元気で安堵ですねぇ」

「まあな」

「連続入院で下降線の心模様かと思ってました」

「……」

「三次さんの賜物かもしれませんねぇ~」

「チージョ医療のお陰じゃない?」

「プラスαが効果的かと」

「そんな事はないだろう」

「三次さんはラムちゃんの光合成ですから」

「……そう……だね」


 相変わらず会話が成立しない不思議ちゃんだが、何だかんだで面倒見がいい。

 ラムがケガをした時、真っ先に駆けつけたのはココだった。入院中で動けないラムのために学校との間を取り持ち、俺に連絡するため10万光年を愚痴一つこぼさず超えて来た。チージョ星人からしたら気の遠くなるような2時間弱である。しかも自分の為ではなく他者の為。そんな事をしても疲れるだけで何のメリットもない。平然とやってのける彼女の凄さにちょっと感動する。

 もし俺だったら、ケガで動けない彼女の隣に添い寝してあげるだろう。イヤらしい意味じゃなくて!



 ミーーン、 ミーーン。

 セミの鳴き声がした。


「わざわざ送ってくれてありがとな」

「なんのなんの。これくらいは昼飯の中間地点で」

「気を付けて帰れよ」

「……あのう」

「なに?」

「そうのう……ですね」


 ラム家に到着したココは、Tシャツの裾をビヨ~ンと引っ張りながら歯切れの悪い調子で聞いてきた。


「ちょっとお頼み申したいのですがぁ」

「何だよ。ハッキリ言いな」

「ええっとですね。そのう、自販機がぁ」

「自販機がどうしたの?」

「自販機を作ろうと思ったのですがぁ」

「ですがぁ?」

「難儀でして……」


 地球の自販機を見て以来、虜になったココは自分なりに研究を重ねて試作品を制作してみた。けれども内部構造の仕組みが分からないため、何度やっても上手く作動しなかったらしい。

 そりゃそうである。外見は単なる四角い箱だが、中身は機械仕掛けで複数の部品が絶妙のバランスで絡み合っている。素人がおいそれと作れる代物ではない。まして自販機処女であれば尚更である。

 チージョ星にないモノを制作しているのだから仕組みが分からなくて当然。上手く作動しないのは必然であろう。

 試行錯誤の末、自分一人ではお手上げだと分かったら「地球人に聞いてみよう」と考えるのは頷ける。


「俺も詳しくは知らないんだよね」

「そうですかぁ」

「何となく見た事あるけど、細部までは分からないな」

「ですかぁ~」

「結構複雑だった気がする」

「複雑怪奇ですかぁ~」

「ごめんね」

「いえいえ。こちらこそ失礼千万」

「……」


 なんかこのパターン、すこぶるイヤな予感がする。今までと何ら変わりない定番のワンパターンというヤツである。

 俺は今までラム、パパ、ミルクさんの為に10万光年を日帰りしてきた。彼女たちの悲しむ顔を見ていられない。そんな意識だった。

 3人の為には往復出来てもココには出来ない。それはあまりにも鬼畜の所業である。

 まったく見ず知らずの赤の他人なら「おととい来やがれ!」でシカトだが、温泉旅行に行って一緒に風呂へ入った間柄だ。しかも家族風呂。もはや恋人同然と言っても過言ではない。

 わざわざ自分を頼ってくれるのだから、何かしてあげたいと思うのは人として当然の思考回路である。


「分かった。何とか考えてみるよ」

「ホ、ホントに真でしょうか?」

「男に二言はない」

「ニゴンって何でしょうか?」

「え? 二言っていうのは……」


 この辺は変わらず面倒くさい。


 俺は帰る前に自販機について説明した。

 外箱を作るのも内側の機械類を作るのも問題ないと思う。写真なり図面なりをラムパパに差し出せば、いとも簡単に制作してくれるだろう。地球より優れた技術を持つチージョ星に不可能はないと思われる。

 問題は中身の飲み物類である。


 自販機から飲み物が出てくるという事は、それ自体を作らなければならない。販売する以上、1種類だけという訳にはいくまい。最低でも数種類の飲み物を用意する必要がある。

 それは誰が作るのか?


 種類、飲料制作の問題はクリア出来たとして、それら1つ1つを手作りする訳ないはいかない。不特定多数をターゲットにするとなると大量の商品が必要になる。その場合、工場生産が要必須であろう。

 作ってくれる工場はあるのか?


 仮に作ってくれる所が見つかったとしよう。その際、自販機から飲み物が直接流れてくるのでは話にならない。缶やペットボトルなどの入れ物が必要になる。

 それはどうするんだ?


 これらの問題がクリア出来ないと自販機は作れない。そしてそれには沢山の人の協力が不可欠だ。

 という旨を伝えた。


 黙って説明を聞いていたココは「分かりましたぁ」と頷いた。

 今の軽い言い方からすると大変さを理解していない気がするが、本当に大丈夫なのだろうか。


「仕組みと構造は地球に帰ったら調べといてやるよ」

「ありがとうございますですぅ」

「どこまで出来るかは分かんないけど」

「ち、力強いお言葉ですなぁ~」

「失敗しても文句は言うなよ」

「こ、心得ております」


 ココは一礼すると飛んで行った。


 うーん。チージョ星人と付き合うって大変だな。今後の付き合い方を見直さねばいかんな。




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