表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
難問続出のお願い事
58/99

ラムが大変なんです パート2

「さ、三次さん。大変ですぅ」

「いやぁ〜ん」


 パジャマから着替えようとパンツも同時に脱いだ時、突然ココが姿を現した。


「な、何?」

「ラ、ラムちゃんが……」

「またぁ~?」

「今度は未曽有の重症なんですぅ」

「どうしたの?」

「大やけどです」

「や、火傷!?」

「はい。全治5日ですぅ」

「……」


 何だろう。この妙に納得いかない違和感は。

 前回、ラムが大怪我をして慌てて飛んで行った。超複雑骨折でさえ1週間程度で完治すると聞き、チージョ星の医療技術の高さに驚いたばかりである。

 頭では分かっている。分かっているのと理解するのとは別だ。

 全治5日と聞くと軽めのケガだと思ってしまう。転んで擦り傷を作ったとか、カッターで指を切ったとか。


「具合はどうなの?」

「痛みが激しく、精神が摩耗している模様」

「でも5日だろ」

「気の遠くなる日数でございますね」

「……まあ、とりあえず行ってみるか」


 フィーーン、フィーーン。

 警報らしき音が鳴り響いた。

 シュパッ!と再びラムの病院へ飛び立つ音が聞こえた。




 2時間後。


 ミーーン、 ミーーン。

 セミの鳴き声がした。


 ココは素早く降りて受付へ事情を説明しに行った。その間、俺は病院の裏へ回って廊下の窓の前で待っていた。

 前回は女子トイレから侵入するという画期的な方法でチージョ星初の変態覗き魔として大騒ぎになった。幸いにも無事難を逃れて助かったが、捕まったら即死刑判決を下される所である。己の悪運の強さを改めて実感したのを覚えている。

 ただ、俺は同じ轍は踏まない。常に学び、知識を蓄えている。学習とは学び習う事である。

 今回は落ち度のないよう正式な手順を踏んだお陰で無事に院内へ入る事が出来た。

 復習は大切なんだな。と改めて実感した。


 身も心も安らかにラムの病室に向かっている途中、院内のあちこちに危険な張り紙を見つけた。受付から廊下に至るまで、誰もが目に付く位置にデカデカと。

 当然、文字は読めない。悪運と直感力だけは人一倍発達している俺。張り紙を見た瞬間に玉の裏がむず痒くなった。


「なあココ。何て書いてあるんだ?」

「これはですねぇ~」


 先月の覗き魔は未だ逃走中です。

 目下、全力で捜査にあたっております。

 まだ院内に潜んでいる可能性があります。

 くれぐれもお気をつけください。


 犯人の特徴

 年齢14~20歳くらい 髪はショートで中肉中背 イヤらしい目つき

 見つけ次第、こちらまでご連絡ください


 XXX-XXX まで


 ツッコミどころが満載すぎて絶対に捕まらないと思う。

 まず、年齢のふり幅が大きすぎる。14歳から20歳って、ほぼ年頃の男性全員が容疑者という事になる。チージョ星に何万人の若者がいるのか知らないが、1人1人を調査してたら100年はかかると思う。

 次に、外見的特徴が大雑把すぎる。男性のほとんどはショートで中肉中背だろう。たまに坊主やロングの男性もいる。その人たちを振り分けたとしても、探し出すのは困難を極める。

 あと、イヤらしい目つきはどうやって見分けるのか。

 例えば、目の前で女性が転んだとしよう。たまたま通りかかった男性がカッコいい男なら「お嬢さん。大丈夫ですか?」で、恋が芽生える。

 顔のバランスがメチャクチャなブ男に「大丈夫ですか?」と手を差し伸べられたら「イヤァ~。触らないで!」と叫び、「イヤらしい目つきの男性に暴行されそうになった」という報告を受けるだろう。要は相手の胸先三寸で、意識高い系だとOUTな気がする。

 そして最大のツッコミ所。

 犯行から1か月経った今でも院内に潜んでいると本気で思っているのか。もしそんな奴がいたとしたらパーフェクトな変態である。

 犯罪のないチージョ星で初の怪事件に戸惑っているのは分かる。犯人検挙に焦る気持ちも理解出来る。だが、もう少し状況を把握した方がいい。

 首謀者の俺が言うのも変な話だが……。


 チージョ星の天然ボケに呆れながら病室へ入った。

 包帯でグルグル巻きにされたラムは、俺の姿を見つけた途端に大きな目をさらに大きく見開いた。


「何やってるんですか。ラムちゃん」

「さ、三次!」

「また入院ですかぁ~」

「ち、違うわよ。ちょっとしくじっただけよ」

「帰る前に言ったよね? 君はどんくさいから気を付けろ、と」

「う、うるさい!」

「また逃げ遅れるって、バカなの?」

「もうイヤ!」


 恥ずかしそうに慌てふためき、布団に潜ってしまった。


 実は……。


 前回、俺が持ち込んだストーブは小型だったため、ラムパパに大型ストーブの制作依頼が舞い込んだ。新しいモノを開発するのが大好きなパパである。二つ返事で引き受けた。

 室内を冷暖する装置がないチージョ星である。仕組みに手間取ったものの、悪戦苦闘の末にサウナ専用ヒーターを完成させた。

 新製品というのは使い始めは不具合が生じる事が多い。何十回ものテスト繰り返してからでなければ正式採用は難しい。パパも御多分に漏れず、何度も現地へ足を運んでは微調整を繰り返していたという。


 そんなある日の事。

 多忙なパパの代役として元気になったラムが現地で奮闘していた。パパから細かな調整や確認方法を聞き、マニュアルを読みながら1つ1つ丁寧にこなしていた。

 慎重に作業を進めていた時だった。

 ヒーターが突如唸りを上げ、異常なくらい高温になった。何が起こったのか理解出来ないままオロオロしていると、次の瞬間、パーンと弾ける音と共にヒーターが爆発して燃え上がった。サウナ室が炎に包まれたという。

 幸い施設に燃え移る事なく無事消化は出来たが、一瞬の出来事に焦ったラムは逃げ遅れて大やけどを負った。

 すぐさま病院へ緊急搬送され、最新治療を施されて無事生還した。

 ザックリこんな状況だったらしい。


 チージョ星で軽い火傷は1日あれば完治する。ラムの場合は相当重症だったらしく、治療に3日かかったという。残りの2日は火傷跡の除去や後遺症などを考慮しての対応だった。

 改めてこの星の医療技術には感服する。重度の火傷だと皮膚はただれて見るも無残だろう。体にも心にもキズが残り、後遺症も尋常じゃないと思う。それが5日で完治するのだから言葉も出ないくらいアッパレだ。

 チージョ星人の体は植物みたいなもので自然治癒力がハンパじゃない。それに最新の医療技術がプラスされ、誰もが元気に復活する。

 地球人の俺からしたら羨ましい限りである。


「まあ、ゆっくり養生しろよ」

「……」

「じゃあな」

「……」


 布団に潜ったまま出て来なかった。

 一度のみならず二度も失敗して逃げ遅れたら誰だって気落ちするだろう。瞬間移動が使えるのに逃げ遅れるどんくさい女。病人にそんな事を言ってはいけない。

 あまりイジメでも可哀想なのでソッとして病室を出た。


「なあココ。申し訳ないけど、ラムの家まで送ってくれるか?」

「はい。了解であります」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ