こぼれ話 ココとの約束
ラムの退院祝い後、地球へ帰るために宇宙船に乗り込むと、ココがモジモジしながら話しかけてきた。
「少々お尋ね申する事がありまして」
「なに?」
「地球に行った際の、あの四角い物体ですがぁ~」
「四角い物体?」
「中から奇妙な液体が出土するヤツです」
「ああ、自販機か。それがどうしたの?」
「その者のスペックをお聞かせ願えればと想像してまして」
地球温泉の視察に行った際、自販機を目にしたココは、その摩訶不思議な魅力に憑りつかれた。
(第二部 名残惜しいが 参照)
丸型形状しか見た事のないチージョ星人が生まれて初めて見た真四角の箱。それだけでも驚きなのに、その箱から飲み物が出てきた。ペットボトルという未知なる入れ物で、しかもボタン1つで自分の好きな味を選択出来る。彼女にとっては前代未聞の空前絶後の斬新奇抜に映ったのだろう。
怒涛の質問攻めに合ったのを思い出す。
お金を入れてやると、体中を小刻みに痙攣させ、転がり出た途端に「イィィ!」と唸って恍惚の表情を浮かべた。
「オシッコ漏らした訳じゃないよね?」
「こ、これはエロスの領域!」
「……」
「さ、三次殿。吾輩を揺さぶるコヤツは何者ぞ?」
「これは自販機と言うんだよ」
「何故にゆえ、中から転がり出るので?」
「ジュースを冷やしてるんだよ」
「ほうほう。飲み物を冷やすので?」
「その方が冷たくてウマいだろ」
「なるほどの道理」
「……」
チージョ星に自販機は存在せず、キンキン冷えた飲み物を気軽に入手出来ない状態らしい。冷えたジュースを飲みたい場合、自宅の冷蔵庫で冷やすか、スーパーなどで購入するか。もしくは喫茶店へ入って注文するのが普通である。
日本のように「喉が渇いた。おっ、自販機がある」と、手軽に喉を潤す手法がないため、その性能の高さに度肝を抜かれていた。その後、自販機を見つける度にボタンを押していたのを記憶している。
「あのような便利グッズがあれば快楽かと」
「ま、まあ」
「砂漠の喉を満たす最高の手法」
「言われりゃ、そうだな」
「しかもチンコカチコンだぞえ?」
「……確かに冷えててウマいわな」
「内部構造が気になり、眠れぬ夜でして」
「なるほど」
「三次殿は何かご存じかな?」
「見た事はあるけど、俺も詳しい事は分かんないな」
「さようの所業で……」
教えてあげたいのは山々だが、俺自身も内部構造を知らない。複雑な仕組みが絶妙に絡み合っている。お金を入れてボタンを押したらジュースが出てくる。この程度の知識力しかない。
しかしココは、真っ直ぐな目で俺を捉えている。
「……地球に帰ったら調べといてやるよ」
「まことしやかか!」
「どこまで理解出来るか分かんないけど」
「三次殿。お頼み申すです」
「分かった」
頼まれたらイヤとは言えない。固い約束をして地球へ戻った。
その後、近所の犬に吠えられて頭に来たので、奴の縄張りにションベンを引っかけたり。
克己がR18指定のゲームを持って来て「クリック100回だぁー」とのたまい、朝まで練習させられたり。
友則がお尻プリプリの熟女を見てベルトに手をかけたため、危険をいち早く察知してドロップキックで気絶させたり。
そんな忙しい日々を送っているうち、約束などすっかり忘れてしまっていた。
ココ殿。申し訳ござらん。




