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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第三部 やっぱり地球は面白い
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ミルクさんの悩ましい相談

「三次君。ちょっといいかな?」

「何ですか?」

「これなんだけど」


 パパが持ってきたのは不思議な形をした乗り物だった。

 ラムが大怪我をして不自由な生活を余儀なくされた。超複雑骨折中に瞬間移動を行うと体に負担がかかるとかで、それらの行為を医者から止められていた。

 みなまで言う必要はないが、同化や瞬間移動を使えないチージョ星人は生きる屍と化す。

 例えるなら、頭のいい俺。大人の女性に恋する克己。全裸にならない友則。これらと同義語である。

 退院後も少しの間リハビリが必要との事で、その際、外出に不自由しないためツムーリゲバロンを改造して車イスの制作に取り組んでいたらしい。


「これ試作なんだけど試してみてくれないか?」


 背骨がミシミシと音を立てて軋んだ。本来ならキッパリ断りたい所だ。これまで何度も痛い目に合っている。死神と酒を酌み交わした事もある。ここに来るたびに世話になっている以上、俺に拒否権はない。


「わ、分かりました」


 渋々実験台になった。


 肝心の乗り物は……。

 球体の真ん中部分がくぼんでいて、そこへ座れるようになっていた。分かりやすく説明すると、バランスボールの中央をくり抜いた感じである。

 タイヤやその他の飾り物はなく、ツルッとした真っ白ボディー。ステップ台が取り付けられていて、足を乗せるとジャストフィットで体が包み込まれた。シートもフカフカしていて座り心地は満点である。

 どの角度から見ても丸イスなのだが、球体の中にスッポリ収まる事で、偉大な女性の母なる宇宙空間へ吸い込まれて行くような安心感があった。

 問題は操作方法とスピード……である。


「このひじ掛けの右部分を2回叩くと発進する」

「ここですか?」

「そう。止める時は左を1回ね」

「分かりました」


 頭痛と吐き気がするいくらい緊張した。ツムーリゲバロンの惨劇は心と体に叩き込まれている。(第二部 ツムーリゲバロンの練習 参照)

 子犬のように怯えながら意を決してチャレンジした。

 右を1回叩くとイスがフッと空中に浮き上がった。2回叩くと静かにゆっくり前へ進んだ。

 俺の予想としては、乗ったと同時に超絶スピードが出て、操作不能になって木に激突。そんなイメージだった。


「スピードを上げる場合は3回以上叩いてね」

「3回ですね」

「叩けば叩くほどUPするから」


 3回叩くと心地いいくらいのスピードで進んだ。

 これは快適である。イスに腰かけている状態なので転ぶ危険もなく安定感も抜群である。ツムーリゲバロンよりも数百倍イケてる代物だった。


「パパさん。これは凄い発明ですね」

「でしょ? ケガ人には最適だと思うよ」

「さすが天才!」

「そ、そうか? 天才の三次君に褒められたら嬉しいな」

「ところで名前は何ですか?」

「ツムーリゲバロンをベースにしたから、ツムーリゲバロン改でいいんじゃない?」


 なんだ、その適当なネーミングは。もしかして面倒くさいのか?

 それじゃ俺が命名してやる。

「ローリングサンダースペシャルチェア」でどうだ。略してロリスぺ!

 ……クルマイスでいいかな。




 庭先でのんびりクルマイスを練習していると、空中からミルクさんがやって来た。


「宮本君。お久しぶり」

「お久しぶりです」


 相変わらずいい女である。ウェーブのかかったセミロングに知的センス溢れるメガネ。パンツ姿で胸とお尻が強調され、良質なスタイルをさらに際立たせている。美人で知的で優しい笑顔。嫁さん候補ナンバーワンだ。しかも苗字呼び。頭が爆発しそうである。


「ココから聞いたけど、忙しいのに手伝ってもらえるの?」

「もちろんです。言い出しっぺは俺ですから」

「学校は大丈夫なの?」

「大丈夫です。行っても行かなくても成績は変わりませんから」

「へーっ。宮本君って勉強しなくても成績優秀なの。頭がいいのね」

「いやぁ~」


 褒められすぎて本心が言えなかった。下から数えた方が早いとは。


「ところでミルクさん。聞きたい事ってなんですか?」

「実はね……」


 ミルクさんの話では、工事は着々と進んでおり、大まかなデザインや設備などは出来上がっているという。温泉はパイプラインを引いて源泉を各所に送ればいいだけなので構造は簡単である。

 その辺りに関しては何の問題もない。悩みはサウナであった。


 地球で温泉研究をしていた時、ミルクさんはサウナの凄さと意外性に驚き、施設の中で一番のお気に入りになった。大量の汗をかいた後、熱された体を水風呂で冷やす。これがサッパリして心地よかったらしい。

 この星に風呂はあるがサウナはない。目新しさも相まってか、サウナと水風呂を何度も繰り返していたという。ココの証言では「我が星にもサウナを!」と張り切っていたらしい。

 だが、いざ制作に取り組んでいた所、問題が発生した。

 サウナは基本的にサウナストーブで室内を温めるのだが……常夏の星にストーブという物は存在しなかった。


 チージョ星に冬はない。寒いからといって室内を温めるとか、コタツに入るとか、猫が丸くなるとか。それはこの星の人にとって意味不明の行為である。

 また、普段からカラッとした気候で、窓を開ければ爽やかな風が室内を吹き抜ける。不快指数0%の惑星にはエアコンや扇風機もない。

 要は、室内を温めたり冷やしたりする装置が存在しないのである。

 サウナについて懸命に説明をしても、ストーブという根本的かつ基本的な知識が欠落しているため暗礁に乗り上げていた。

 ストーブとはなんぞや?と聞かれても「室内を温める道具」としか答えようがない。隣でニコニコしているパパに制作を依頼しても「なにそれ?」であろう。


「サウナはストーブで室内を温める仕組みなので、知らないと作るのは難しいかもしれませんね」

「そうなの。どう説明していいのか……」

「うーん」


 毎度の事ながらチージョ星に地球を持ち込むと問題が発生する。姿形は似ててもまったく違う文化なのだから仕方がない。


「サウナは是非作りたいのよね」

「ミルクさん気に入ってましたものね」

「いい方法ないかしら」

「……」


 美人の困っている顔というのは何度見ても心がヌチャヌチャする。

 何の取柄もない。胴長短足で男前でもない。頭の中はエロだらけ。バカの見本を地で行っている輩である。そんな俺が誰かの為に役立つ事があるのなら、この身を捧げても悪くはない。

 ミルクさんの悲しげな表情を見て、もう一人の俺が「ヤッホー」と顔を出した。

 こいつは数人いる俺の中でもかなりタチが悪く、無鉄砲と無教養を全面に押し出したとびっきりの奴である。こいつが顔を出すたびに寒気と腹痛を起こしてしまう。


「も、持ってきましょうか?」

「え?」

「ち、地球からストーブを……」

「宮本君!」


 申し訳なさそうな顔をした後、ミルクさんは俺をギューっとした。


 あはぁ~~ん。ダメ。

 血が一か所に集中してそこだけサウナ状態になっちゃうからぁぁ!




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