表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第三部 やっぱり地球は面白い
49/96

ラムが大変なんです

 夏休みが終わって平穏無事な暮らしが戻った。何もない、変哲もない元通りの生活だ。

 友則と克己の3人で町へ繰り出し、可愛い子を見つけてはスリーサイズを言い当てたり。クラスメイトのデートを遠くから見守ったり邪魔したり。アダルト映画館の看板の前で「どんな内容か」を妄想して激しいバトルを繰り広げたり。

 相も変わらずバカ満載で日々を過ごしていた。



 そんなある日の事。


 河原で毎回定例のエロ本交換会を実施していた。


「克己ぃ~。お前はいつも美少女系だな」

「何言ってんだ友則。お前はBBA専門だろ」

「目が腐ってるのか? いい女が勢ぞろいじゃねぇかよ」

「笑わせるぜ。年増女のどこがいいんだよ」

「ロリよりマシだよ」

「ふざけんな。美少女こそが最高だろうがっ!」

「気持ち悪いんだよ」

「何がだよ!」


 友則は年上の女性に心惹かれ、克己はロリーに首ったけ。2人共に自分の性癖を最高だと言い張り一触即発の状態になっていた。

 人生で最もくだらない情報を聞かされ辟易する俺。もしダメ人間ワールドカップがあったら優勝決定戦でPKにもつれ込むだろう。

 ダメ界の二大スーパースターの直接対決は見応えがあるに違いない。


 底辺の争いをBGM代わりにボーっと遠くを眺めていた。

 夏休みは終わったが季節はまだまだ夏といった感じである。日差しが「今年最後の仕事」とばかりに張り切っている。太陽が輝いているのに湿度は異様に高い。アフリカ辺りの高温多湿より多湿である。

 モワ~っと立ち込める淀んだ空気と、室外機から吐き出される排気が町中を支配する。車が引っ切りなしに行き交い、排ガスをまき散らしながら走って行く。息を吸うたびに鼻毛が1ミリ伸びそうだ。

 ついこの間まで大自然に囲まれた心休まる風景と、清々しいほど澄んだ空気を体いっぱい吸い込んでいた。一呼吸するたびに心が洗われ長生きしそうだった。公害のないチージョ星は人類の楽園である。


「ラムどうしてるかな?」


 濁った青空を眺め、懐かしくも切ない夏を思い出している時だった。

 河原の上流付近の空が一瞬光った。


「ん?」


 天気は良好で雷ではない。本当に一瞬ピカッと光っただけなので誰も気づかないであろう。ただ、俺は宇宙を駆け巡る英雄。天下無敵の三次である。間違いなく何かが見えた。

 留まる事を知らない最下層バトルを繰り広げている2人をよそに妙な胸騒ぎを覚えた。


「悪い。そろそろ帰るわ」

「何だよ。まだお前の好み聞いてねぇぞ」

「俺はお前らと違って色々忙しいんだよ」

「どうせあれだろ? ポニテで細身のぺちゃ女だろ?」


 友則がコーナーから直接ゴールを狙ってきた。

 実際に会った訳でもなく、間近に見た訳でもない。100メートル以上離れた距離からチラッと見ただけなのに姿形がなぜ分かる。

 こいつの目は一体どうなっているのか。サバンナ辺りでウロつくライオンとかキリンとかも見えそうな気がする。

 もう日本は諦めてアフリカ方面へ行け。きっとモテモテだぞ。


「じゃ、またな」


 そう言って河原を後にした。

 何事もなかったかのような顔をして一旦帰るように見せかけ、遠回りして光の場所へ向かった。

 あの光は宇宙船が降り立った時に放つ閃光だ。という事は、再びラムが舞い降りたに違いない。他者には見えない特殊な光だが、俺は三次元を超える男である。

 再び会えるドキドキ感が体中を駆け巡り、貪欲汁を放出させながら向かった。


 現地に到着すると案の定、卵型宇宙船が停泊していた。船内を確認したいが同化を使えない。俺は入口付近をノックした。


 コンコン。


「おいラム。いるのか?」


 返事は無かった。もう一回ノックして声をかけたが何も起こらなかった。

 俺は船体に耳をベッタリ付けて中の様子に聞き耳を立てた。

 静まり返っていて人の動く気配は感じられなかった。ただ何となくサーっと微かな音がする。

 綺麗好きの彼女の事だ。もしかしたらシャワーを浴びているのかもしれない。俺に会う前に「綺麗にしなくっちゃ」とか言って全身を隈なくゴシゴシしている。もしくは「今日は特別な日」と決心し、下着を新調している場合も考え得る。

 命令せずとも伸びる如意棒を押さえてもう一度ノックした。


 コンコン。


 やはり返事は無かった。


「もしかしたら、家へ来てるかもしれないな」


 急いで帰ろうと思ったが、宇宙船が出しっぱなしなのが気になった。

 普段のラムであれば見つからないよう船体も同化するはず。こんなあからさまに見つかるようなヘマはしない。もし見つかったら大惨事になることを口を酸っぱくして教え込んだ。本人も真面目で几帳面だから「地球に来た際は必ず隠す」を徹底していた。

 何かがおかしい。腐った第六感がピロピロ鳴り響いていた。

 現時点で自宅へ戻るのは危険過ぎる。すぐ近くにはバカ2人がまだいると思われ、奴らに見つかったら即終了である。


「何だよこれ、宇宙船か?」

「よし友則。これに乗って他の星へ行くか!」


 たぶんそうなって、着いたら着いたで、


「いい女だなぁ~。俺のマグナムが暴発するぜ」

「今日の下着はTバックですか。僕はふんどしを愛用してます」

「俺のアダ名は早撃ちガンマン」

「ふんどしの弱点は、はみ出してしまう事です」


 などと言ってケツや胸を触って町を徘徊し、無視されると、


「地球人の本来の姿を見せてやる!」

「僕の性感帯を当ててみて下さい」

「さあ、目を逸らさずに凝視しろ!」

「リンパマッサージはお好きですか?」


 2人揃って全裸になり、チージョ星を悪夢と混乱に陥れるだろう。

 仲間の俺が言うんだから間違いない。それだけは絶対に阻止しなければならない。

 もし奴らが襲ってきたら延髄蹴りで気絶させ、衣類をすべて川に流してやる。克己は簡単に倒せるが友則は一筋縄じゃいかない。

 あいつの場合は……。


「宇宙には裸に剣を持つ女戦士がいるんだが、会いたいか?」

「ぜひ会わせてくれ。大親友の三次君!」


 油断した隙に船内へ押し込んで宇宙の果てへ飛ばしてやる。ゴミが1つ減ったとなれば地球も軽くなって大喜びだろう。

 宇宙船の前に座り込み戦いのシチュエーションを考えていると。


「三次さぁぁ~ん」


 目の前にココが現れた。


「あれ、ココ。どうしたの?」

「三次さんを捜索していたのですぅ」

「は?」

「お家に行ってもなしのつぶてで、あちこち検索してましたです」

「なにゆえ?」

「ラ、ラムちゃんが……」

「えっ? ラムがどうしたんだ?」

「ケガしたんです。前代未聞の大怪我ですぅぅ」

「な、なんだとぉ!?」

「とにかく早急に我が故郷へ!」


 状況がまったく理解出来なかった。ココの慌てぶりから察するに相当重症だと思われる。もしかすると生死に関わるという事もありえる。


「よし。今から行くぞ」

「はいな!」


 ココの手を引き宇宙船へ飛び乗った。


 フィーーン、フィーーン。

 警報らしき音が鳴り響いた。

 シュパッ!とラムの元へ飛び立つ音が聞こえた。




 容態が気になる所だが、ここで慌ててはいけない。今までの俺だったら到着を焦るばかりに「おせーんだよ。このクソ宇宙船がっ!」と苛立ち、入口付近を蹴破って「し、しまったぁ~」と叫びながら宇宙の藻屑になるだろう。

 何度も宇宙船に乗り、何往復もの経験を積み重ねて大人になった俺は、もうそんなバカな事はしない。何時でも冷静さを保つ事が解決のキーワードである。


「なあココ。質問していい?」

「はい。何でありましょうか」

「この宇宙船を病院に横付け出来るか?」

「はい。可能であります」

「そうか。それは良かった」

「どうしてでしょうか?」


 ラム家に着陸するのはいいが、俺は病院までの道順を知らない。入院している先がどこにあるのかも分からない。さらに、そこに行くためには何かしらの交通手段が必要になる。普通に考えればツムーリゲバロンを使う事になるだろう。しかし止め方が曖昧なため、下手をすれば俺が病院送りになる可能性が高い。ならば直接横付けした方が手間が省けて楽ちんである。


「直行した方が楽だろ」

「おっしゃる通りでございます」

「ラムにも早く会えるしな」

「まさに正論でございます」

「面倒かけるけどよろしくな」

「了解であります!」


 これで身の安全は保障された。後はラムの容態だけである。


「ところでココ」

「何でありましょうか」

「どうやって俺の家が分かったんだ?」

「タメ息のスーハーです」

「意識の周波か……」

「ラマーズ法ではありませぬ」

「……」


 それにしても、先ほどから背筋をピンと伸ばして敬礼したり、ですます調のハッキリした口調で返事をしたり。宇宙を探索する隊長と部下という設定なのか?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ