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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
最後の夏は温泉で
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最後の夏性戦

 今日は8月31日。夏休みの最後である。

 怠け者は額に汗して友人宅を駆け回り、ノートを丸写しする地獄の作業が待っている。

 俺ら3人は最後の夏を満喫するためプールへ来ていた。


「おい三次、お前宿題やったか?」

「宿題? 初めて聞く言葉だな」


 俺も友則も未だかつて宿題などやった記憶がない。


「克己。お前は?」

「俺はお前らと違って真面目だから、ちゃんとやったさ」

「ホントかよ」

「ま、2行だけだけどな」

「ガハハハ! に、2行? やらねぇ方がマシだぞ」


 努力は認めるが、2行は笑う。

 宿題をやろうにも答えが分からないから意味無いんだよね。ノートを借りて写しても何書いてあるか理解不能だし。


「友則。お前、宿題内容が女体だったら満点じゃねぇか?」

「当たり前だ。満点どころか博士になれるわ!」

「エロ博士か。お前の将来決まったな」

「おう任しとけ。新たな技を編み出してやんよ」

「わ、技ってなんだよ!」

「ガハハハ!」


 ま、バカなんてこんなものだ。


 いつもの場所に、いつものように陣取って下品な話で盛り上がった。

 夏も終わりでプールに人気は少なかった。大学生などは俺らより少しだけ休みが長いのため、女子大生がチラホラ来てきた。


「おい三次、波のプール行こうぜ」

「さっき行ったろ?」

「あれ見てみろって!」


 友則が指さした先には女子大生軍団がプリプリしていた。


「おし、行くか!」


 俺らは興奮状態で波のプールへ向かった。

 寄せては返す波。それに身を任せながらユラユラ揺れていた。ピーっと笛のような音がすると、ビッグウェーブが来る合図である。


「よし来た!」

「逝くか?」

「克己、よろしくな」

「OK」


 克己は俺の体を持ち上げ、大波に向けて放り投げた。空中を舞って波を超え、そのままドシャーンと派手な水しぶきをあげて落下した。

 最高に気持ちいい。今年最後のお戯れである。


「おい克己、今度は俺を頼む!」

「OK」


 波が来るタイミングを見計らって投げようとした克己だったが、床で足を滑らせ、その勢いで友則をバックドロップした。そこへ波に流された女子大生が「キャー」と叫びながら向かってきた。

 ナイスタイミングというか姿勢というか。半バックドロップ状態になった友則の顔に女子大生の胸が直撃した。

 そして顔面に胸を押し付けられたままプールサイドまで流され、あろうことか縁石にガツッと鈍い音を立ててぶつかった。


「グハッ!」


 胸と縁石に挟まった友則は気を失った。

 女子大生は慌てて友則の体を揺さぶった。それを見ていた監視のお兄さんが真っ青な顔で飛んできた。

 女子大生にしてみたら不可抗力ではあるが、自分がケガをさせてしまった。監視員のお兄さんはプールでの事故は管理者の責任問題になる。2人は友則の体をゆすりながらオロオロ慌てていた。

 慌てふためく2人をよそに俺らはニヤニヤ笑っていた。


「大丈夫です。気にしないでください」

「そうです。こいつはガンダムですから」

「こんなので死ぬようなヤツじゃありませんよ」

「そうです。マクロス並みの高性能ですから」


 なあ克己。そのアニメで例えるのは止めろ。意味わかんなさ過ぎて気持ち悪いわ!


 女子大生と監視のお兄さんに「大丈夫」という旨をつげ、友則を抱えて陣地へ戻った。


「克己、コイツの顔見てみろよ」

「ホントだ。笑ってるぜ」

「幸せそうな顔してるじゃねぇか」

「だって女子大生の胸だもん。そりゃ笑顔になるだろう」

「このまま死んでも本望じゃね?」

「いい夢見てんだろうなぁ~」

「おい克己。こいつの下半身……」

「ゲッ、スカイツリー?」

「気絶してこれかよ」

「どこまでエロなんだこいつ」

「頭は死亡で、下半身は元気いっぱいって……」

「完全にぶっ壊れてんな」

「アハハハハハ!」

「ギャハハハ。もうダメだ。腹イテェー!」


 満足げな顔でノビている友則をしばらく眺めていた。


 太陽も傾きはじめ、風が少しづつ冷たく感じられるようになった。場内アナウンスから帰宅を促す音楽が流れ始めた。


「さて、そろそろ帰るか」

「じゃ、こいつを起こそうぜ!」


 俺らはペットボトルの水を友則の顔めがけてジャバジャバかけた。


「グハッ、ゲッホッ! な、なにすんだ!」

「目が覚めたかい。友ちゃん?」

「な、なんだ……あ、頭イテェーぞ」

「覚えてないのか?」

「何をだよ」


 先ほどの出来事を報告すると急激に思い出したらしく、顔がニンマリ崩れ落ちた。


「いいなお前、女子大生の胸だぞ?」

「い、いや、それほどでもねぇーよ」

「どうだった?」

「ボヨ~ンって感じで弾力性が……」

「匂いは?」

「バ、バカ野郎。思い出させるな。歩けなくなるだろうが!」

「もうすでに歩けないなだろ?」

「うっせー」


 恥ずかしそうに股間を押さえていた。


「もう帰れってよ。そろそろ行こうぜ!」


 克己の号令で俺らは荷物をまとめて帰宅の途についた。



「あーあ。明日から学校かよ。めんどくせーな」

「ホント。毎日夏休みならいいのにな」


 友則と克己の会話を聞いていて思い出す事がある。

 毎日が夏の惑星の事を……。


「じゃ、明日学校でな!」

「おう、じゃあな!」

「お元気でぇ~」


 こうして俺の不思議な夏休みは終わった。


 【第二部 完】







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