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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
最後の夏は温泉で
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まったり楽しい時間

 ここの泉質は濁り湯で乳白色である。切り傷や火傷、内臓疾患や皮膚炎にも効果的と言われている。

 俺の場合、切り傷専門なので他の効能は知らないが、バカ2人と遊んで傷だらけになった後は、ここへ来て温泉治療を施している。

 作ったばかりの目新しい傷で入ると全身が震えるくらい痺れるが。


「ういぃぃっ。最高だな!」


 最近は地球とチージョ星を往復したり、例の2人に捕まって意味不明の刑に処されたり、落ち着く暇などなかった。

 夏休みもそろそろ終わりだ。新学期になったらまた忙しく走り回らなければいけない。これが最後の休暇である。

 これから秋に向けて紅葉シーズンが到来する。ホテル業界も繁忙期を向かえる。その前の一休みにはちょうどいい時期だ。人気もまばらで男湯にはじーさんが2人いるだけだった。

 全身を大きく伸ばし、秋色になりつつある山々を眺めながらのんびり浸かった。


 全ての疲れを取り除いて部屋へ戻り、先ほど買ったキンキンに冷えたお茶を飲んでボーっとしていた。


「あーいいお湯だった」


 ホカホカの火照った顔をタオルで拭きながらラムたちが帰って来た。ココも満足げな顔で「温泉とは極楽浄土なんですねぇ~」と、頭から湯気を出してハシャいでいた。

 浴衣を来ている女性は何とも言えず興奮する。濡れた頭にタオルを巻き、髪の毛をUPにした時のうなじは、俺の中のマニアが覚醒する。

 外の景色を見てキャッキャ騒いでいる2人を眺めていると、少し遅れてミルクさんが帰って来た。

 俺の熱い魂の、さらに深い部分が強烈に反応した。

 湯上りの少し赤らんだ顔。汗ばんだ首筋。細いウエストに巻かれた帯が胸とお尻をさらに強調し、微妙にはだけた浴衣の前身ごろから白く透き通った肌がチラッと見え隠れする。


 艶やか? しなやか? 

 俺流に言うと、ボーン、キュ、ドーン。もうダメ! である。


「ミルクさん、浴衣似合いますね」

「ありがとう」

「色っぽいというか、魅力的と申しますか…」

「そう? ちょっと恥ずかしいな。魅力的なんて言われた事ないから」

「何をおっしゃいますか。ミルクさんはステキですよ!」

「宮本君って口が上手いのね」


 少し照れた笑いをし、汗ばんだ胸元を軽く拭いた。


 ティ、ティッシューーー!


 その後、ミルクさんの浴衣姿を何度もチラ見しつつ、夕飯まで温泉について勉強会をした。




 夕方6時頃から夕飯の開始である。


「ねぇ三次。夕食ってどんなの?」


 ラムが不安そうに聞いてきた。確かに不安になる気持ちは分かる。

 チージョ星の主食は野菜中心である。肉、魚介類の動物系はご法度。究極のベジタリアンだと思えば間違いない。

 食べられる物があればいいが、食べられない物ばかり並んでいた場合、空腹のまま一夜を過ごさなければいけない。せっかく楽しい温泉に来て食事もとらず腹を空かせた子猫ちゃんでは可愛そう過ぎる。

 ただそこは、いい女の前では出来る男の三次様である。


「夕飯はバイキングだから大丈夫だよ」

「バイキング?」

「そう。自分で好きなモノを取って食べる形式かな」

「好きなモノを食べられるの?」

「色んな料理が出て、その中から好きなモノをチョイスするんだ」

「へっー、楽しそうね」


 話を聞いていたココが舌なめずりをした。


「私、ババノトレックが食べたいですぅ」

「バカ殿……?」

「用意はございますかぁ?」


 ねぇよ。そんな食べ物は。ってか、ババノトレックって何だよ!


「バカ殿はないけど、野菜やフルーツならあるよ」

「ほう。それは興味深々な提案」

「食べられそうなモノを取ればいいから」

「ホントですかぁ~」

「夕食会場に行ってみれば分かるさ」

「じゃ、ムチモンベロはありますでしょうか?」


 それもねぇよ! チージョ語で言うな。日本語で言え、日本語で!


 オタク娘の訳の分からない食べ物は置いといて、俺らは腹ペコで夕飯会場へ行った。

 大広間には世界各国の料理が所せましと並んでいた。寿司、天ぷらの日本料理。中華系、洋食、デザート、ドリンクなどなど。何を食べるか考えているだけでワクワクしてくる。


「凄いわね。色んな食材があるのね」

「これがバイキングの売りです」

「好みは千差万別だから、それぞれに合った物を提供できるわね」


 艶やかな浴衣姿でも仕事を忘れないミルク姉さん。

 仕事の出来る女性はステキです!


 チージョ星人一行は野菜以外は無理である。俺は料理を一つ一つ確認し、「これは大丈夫」「これはダメ」「これはエビを避ければOK」などと指示しながら回った。

 ラムとココは育ち盛りとあってか、大皿にそれぞれ好きなモノをてんこ盛りにしていた。

 各種料理を説明していて気付いたのだが、洋食は肉、魚介がメインである事が多い。菜食主義だとサラダとパスタ、ポテトフライなどが主流になる。中華も料理によるが、エビチリや酢豚、鶏肉などが使われている。野菜炒めにも豚が入っていた。

 ところが、日本料理は意外と野菜系が中心だという事を知った。

 天ぷらはエビ、イカ以外は野菜だし、総菜は山の幸満載である。ご飯、味噌汁、ワカメ、海苔、納豆など菜食主義には食べる物が豊富だった。

 改めて日本料理ってスゲェーな。と思った。

 日本料理のお陰でバリエーションが増え、3人とも大満足してくれたらしい。

 特にココはテーブルとバイキングを5~6回くらい行ったり来たりし、そのたびに「ウンチェ、ウンチェ」と唸っていた。たぶん美味しいという意味なのだろう。終いには「インモーレーン!」と両手を高々と上げた。全メニュー制覇したのだと思う。

 言葉は分からずとも、楽しんでくれたのは理解出来た。


 食事を終えてソフトクリームで雑談している時、俺のイタズラ心が湧き上がった。


「ラム。ちょっとこれ食べてみ」

「なにこれ?」

「いいから一口かじってみ!」


 ラムは恐る恐る一口かじった。


「ニィィィ、すっぱ!」

「な、何よこれ!」

「梅干し」

「すっごい不味い!」

「そうか? すっぱくて美味いけど」


 可愛い顔をしわくちゃに歪めた。

 隣で興味津々で眺めていたココにも食べさせた。


「グギギギィ。酸っぱすぎて顎が崩壊しますですぅー」

「ハハハ!」


 さらに興味深い目で見ているミルクさんにも食べさせた。


「ウィィッ、酸っぱい。でも濃い味がするわ」

「さすがですね」

「漬けてあるの?」

「梅を塩漬けしてあるんです。だから健康にいいんです」

「なるほど。長期保存ってことね」


 さすがミルクさん。ここでも冷静に分析していた。


 日本文化を知らない外国人を連れて歩いているみたいで面白かった。

 部屋への帰り際も「あの大きなテーブルは何人用だ?」と聞かれ「あれは卓球台」と答え、「変な物がチカチカ光っているが、あれは宇宙船の類か?」との見解に「ゲームセンター」と回答した。

 ラムがエレベーターの前ですり抜けをしようとしたので、「落ちるぞ!」と言って肩を掴み、「こういう場合はボタンを押すんだ」と言い聞かせた。


 数限りない質問を浴びせられながら部屋へ戻ると、布団が4組敷いてあった。


「えっ? 三次も一緒に寝るの?」

「あ、当たり前だ。じゃなかったらどこに寝るんだよ!」

「なんかイヤだなぁ~」

「何がだよ」

「変な事しそうで怖い」

「みんながいる前でそんな事するか!」


 ラムはすこぶる感じの悪い顔をして布団を引きずると、


「三次はこっちね」


 部屋と窓の間の広縁に移動させた。それを見て笑うココとミルクさん。


 誰のお陰で温泉に来れたと思ってるんだ。そう来るならこっちも本気を出す!

 浴衣で寝ていると、朝起きたら裸に帯一本という状態になる事がある。それは俺にとって激熱リーチで最高のスナップショットなんだぞ。




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