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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
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異文化交流開始です

 目が覚めた途端、心がエイトビートを奏でていた。遥か彼方からやって来た宇宙人は、俺の固定概念を木っ端みじんにした。


 ラムの見た目は、ハッキリ言ってどこから見ても地球人そのものだった。

 大きな目と通った鼻筋。細面の端正な顔立ちで、いわゆる美人系である。照れ笑いしながら人差し指で頬を搔く仕草が何とも可愛らしい。少し外国人っぽい雰囲気もあり、全体的には日本人が色濃く出たハーフで通用すると思う。

 黒髪ロングのポニーテール。瞳の色も黒。身長も体重も骨格も中学女子の平均くらい。胸は……まあ……な感じ。

 出会ったばかりで性格は分からないが、話し方からして人懐っこい印象を受ける。たぶん人見知りしないタイプだろう。俺も初対面でも全然平気なので波長は合っている気がする。

 すべてを冷静に客観的に見たとしても、クラスにいる真面目で頭の良い女子にしか見えない。そんな可愛い子と時空を越えての出会いは、俺のフロンティアスピリッツを呼び覚ます。

 止まらない鼓動を押さえつつ、スキップしながら土手へ向かった。

 河原を見渡すと昨日と同じ場所にラムが寝転んでいた。


「オス!」

「あっ、おはよう」

「日向ぼっこ?」

「うん。太陽って気持ちいいよね」


 空を見上げると眩しいくらいの快晴だった。遠くで入道雲が綿あめのようにモクモクしていて、山がハッキリとその存在感を示していた。空はどこまでも青く澄み渡り、これぞ「ザ・夏!」といった風景だった。


「ねえラム、1つ聞いていい?」

「どーぞ」

「地球に来てからどこかを観察したの?」

「うん。あちこち飛んでみたけど、よく分からないモノばっかり」

「そうかぁ~」

「私の星と勝手が違うから混乱してるかな」

「他の星から来たらそうなるかぁ~」


 ここに来るまでの間、地球に関する情報を色々集めて回ったらしい。しかし10万光年も離れている惑星の情報となると、詳しい内容はほぼ皆無だった。

 人間という生物が存在している事。空気があり水があり、チージョ星と環境が似ている事。それくらいが関の山で、その他の細かい情報は入手困難だったという。

 俺が海外へ行っても同じ心境になると思う。生まれて初めての場所で右も左も分からなければ、何をどうしていいのか混乱する。知り合いも皆無となれば途方に暮れるのは当然と言えるだろう。

 異世界からわざわざ地球を選んで訪れた異星人。こういう場合、地球人として異文化交流を進めていかねばなるまい。


「良かったら案内しようか」

「えっ、ホント!?」

「あまり遠くは行けないけど、俺の町だったら案内するよ」

「ありがとう」

「どこ行こうか」

「どこでもいいよ。お任せで」

「そうだなぁ~」

「初めての地球をいっぱい見たい!」


 大きく澄んだ目がキラキラ輝き、満点の笑顔になった。

 知り合いもいない。土地勘もない。見知らぬ異世界で空をただただ眺める毎日。そんな時、俺と知り合った。夏休みの自由研究で地球人に案内して貰ったとなれば、自慢にもなるし思い出にもなる。それより何より、異国の地で新たな友達が出来た嬉しさは何ものにも代えられないだろう。


「とりあえず商店街へ行ってみるか」

「商店街って何?」

「食べ物屋とか雑貨屋とか、色んな店が建ち並んでいる所だよ」

「ふ~ん。マスカキーレみたいな所かな?」

「マスカキ?」

「色んなお店が並んでる場所」


 言葉の意味は通じないが、その言い回しからチージョ商店街の事だと思う。


「チージョ星にも似た場所があるのかぁ~」

「私の星と一緒かな?」

「まあ、行ってみれば分かるさ」

「ドキドキしてきた!」


 そう言って立ち上がり、商店街へ向けて歩き出した時だった。

 後ろにいたラムの気配が消えた。「ん?」と思い振り返ると、彼女の姿はどこにも無かった。


「なっ……へっ!?」


 茫然自失でその場に立ち尽くしていると、再び姿を現した。

 ギラギラ照り付ける強い日差しに視力が低下したのだろうか。彼女が目の前から消えたような錯覚を起こしたのだが。


「どうしたの。早く行こ!」

「いや、早くって……今のは何?」

「今のって?」

「目の前から消えたよね」

「そうよ」

「そうよって……」

「移動する時は当たり前でしょ?」

「当たり前……なの?」

「うん」


 移動する時に「消えるのが当たり前」とはこれ如何に。

 彼女の星ではこの能力を同化と呼ぶらしい。三次元の物体と同化する事によって自身が四次元になり空間を無効化してしまう技らしい。地球的に言うと瞬間移動なのだろうか。

 彼女らにとって、これは特殊能力ではなく日常の行動なのだとか。

 さらに驚いたのは、チージョ星にはドアを開閉するという概念がない。そもそもドアという物自体が存在しない。建物内に入る場合、壁と同化してすり抜けを行わなければならない……らしい。


「同化が出来なければどうなるの?」

「お家にすら入れないわ」

「……マジで」


 この能力がないと惑星内での生活は成り立たないのだという。

 壁をすり抜けるとか、まるでゲームのバグみたいである。


 総合的にまとめると、全ての三次元物質を越えて四次元の世界で移動する。これが惑星の常識らしい。

 言っている意味がこれっぽっちも理解出来ないが、要は四次元ポケットの原理?

 ……たぶん違うな。


「地球ではどうするの?」

「地球人は徒歩だな」

「歩いて行くって事?」

「それ以外に移動する手段はないな」

「それじゃ時間が掛かってしょうがないんじゃない?」

「でもそれが普通だからなぁ~」


 うーむ。俺は宇宙人をナメてたかもしれん。




 ラムの特殊能力を見せつけられ、地球人とは如何に無能であるかを痛感した。

 瞬間移動が可能なチージョ星人を目の当たりにしたら、移動手段が二足歩行のみというのはかなり原始的な感じがする。


「歩きだけどいい?」

「うん。大丈夫」


 ラムの動向を気にしつつ並んで商店街へ向かった。


 ちなみに、俺の家は都会風の田舎町にある。窓を開けると山が見えたり田んぼが見えたりと自然に囲まれている。都会風なので徒歩で10分も歩けばショッピングモールがあって娯楽施設も充実していた。近年よく見かける大型スーパー付郊外型居住区と言えば分かりやすい。

 それ以前はこじんまりした田舎の町並だったが、大手企業の参入で開発に拍車がかかり、マンションや大型店が次々に建設されている。

 町が変貌を遂げる一方で、昔ながらの商店街もある。大通りからちょっとわき道に入った場所が昭和レトロなアーケード通りだ。

 俺は大型店舗より商店街の方が好きだった。ほぼ毎日のように学校帰りにこの辺りをフラフラしている。お陰で知り合いも馴染みの店も多い。


「本当に色んなお店があるのね」

「星と一緒?」

「所々は違うけど雰囲気は同じかな」

「ラムの星ってどんな町なの?」

「全体的には地球とそんなに変わりないかなぁ~」

「ビルも建ってるの?」

「あるよ。でも形は全然違うけどね」

「どんな形なの?」

「球体ね」

「球体?」

「地球はどこも四角でしょ。チージョ星は角がなくて丸いの」

「丸ぅ?」


 チージョ星は角がなくて丸い。そう言われても、どんな町並みなのか想像すら付かなかった。全てが球体で作られた町……頭の中にはスーパーマリオの背景が横スクロールしていた。


 彼女の歩調に合わせてのんびり町案内をし、互いの住む町を自慢&紹介しながら歩いていると、とあるお店から腹が鳴るような香ばしい匂いが漂ってきた。

 ラムは不思議そうに鼻をクンカクンカさせた。


「ねぇ。この匂いって何?」

「これは焼きそばだな」

「やきばそ?」

「地球の食べ物。俺の大好物だよ」

「美味しそうな匂いね」

「食べてみるか?」

「う~ん。どうしようかなぁ~」

「お金なら大丈夫だよ。俺が奢ってやるよ」

「それって生き物系って入ってる?」

「生き物系?」


 ラムの星では、主食は野菜的なモノが主軸らしい。動物系たんぱく質を摂取すると彼女らの能力がダメになるんだとか。

 同化とは、周囲にある様々な物質と一体化する事である。木や草花など自然にあるモノを取り込むことで体が周りの風景に溶け込む。そうすると、物質が意味を持たなくなり空間が生まれる。その空間を出入りするのが同化の本質で、瞬間移動も原理は一緒だという。

 生き物系はそれらを阻害して動物的な本能を呼び覚ます。理性を無効化して殺戮と破壊を楽しむようになるんだとか。

 話を聞けば聞くほど宇宙と地球の落差に困惑する。会話が進むにつれ、脳の大切な部分にダメージを喰らっている気がする。


「でも焼きそばだったら大丈夫だと思うよ」

「ホント?」

「豚抜きにすればいいよ」

「……」


 不安な表情を浮かべるラムに焼きそばのあれこれを説明した。

 焼きそばは小麦、キャベツ、人参など、使われている材料はほぼ野菜である。もちろん豚肉は入っているが豚さえ除けばベジタリアンでもイケる食べ物である。


「……ホントに大丈夫?」

「俺に任せておけよ」


 自慢げに胸を叩き、匂いの元である焼きそば専門店「みちる」へ行った。


 ここは、例のバカ2人としょっちゅうたむろしている馴染みの店で、老夫婦2人で営んでいる。小さい店だが味は格別。具材は麺とキャベツのみ、という超ドシンプルなため値段も安い。中学生のお小遣いでも余裕で食べられるのが魅力である。

 ただし、店は古くて薄汚いが……。

 店へ到着すると、開け放たれた入口からソースの焦げた匂いが充満していた。


「おばさん。こんにちは」

「あれ。他の2人はどうしたの?」

「いつもあいつらとツルんでたら疲れちゃうから」

「ふ~ん。で、後ろの子は?」

「いや、まあ……」

「三次も隅に置けないわね」

「おばさん。この子、肉系が苦手だから豚は無しにして」

「分かった。三次も? ウフッ」

「……」


 俺が肉系大好き人間なのは知っているはず。でもあえてイジワルな事を言ってからかうおばさん。そんな厄介ババアを無視して、昭和全開のテーブルと傾いたレトロな丸イスに座って完成を待った。

 店先でおじさんが鉄板に油を注ぎ、手際よく麺と野菜を炒める。頃合いよく混ざったらソースをぶっかける。ジュージューと音を立てて焼ける麺に焦げたソースの匂いが店中に広がる。育ち盛りの俺は、この匂いを嗅いだだけで腹が悲鳴を上げる。

 涎を垂らしながらお預けされた犬のように待っていると、おばさんが景気よく皿をテーブルの上に置いた。気分はワン!である。

 俺は出来上がった皿をラムの前に差し出した。


「とりあえず食べてみて」


 初めて食べる地球メシ。反応が気になるところだ。人それぞれ好みはあるが焼きそばを不味いという人は聞いた事がない。

 ラムは少し戸惑いながら恐る恐る口へ運んだ。


「お、美味しい」

「だろ?」

「こんなおいしいの初めて」

「だろ? 店は薄汚いけど味は絶品だぜ」


「薄汚いは余計だよ!」


 おばさんが口を挟んできた。


「三次、この子はなに。あんたの彼女?」

「いや違うよ。友達だよ」

「へぇ~。可愛い友達ね」


 可愛いと言われて頬をカリカリするラム。


「私はラムって言います。三次さんのお友達です」

「そうなの。本当に可愛いわね」

「ありがとうございます」

「三次には勿体ないわね」

「ハハハ」

「ラムさん、気を付けてね。三次はスケベだから」


 余計な事を言うなクソババァと思ったが、怒らせると焼きそばが食えなくなるので黙っていた。

 ラムは満面の笑みで美味しそうに食べていた。その顔を見て、連れてきて良かったなと思った。その俺を見て、おばさんが怪しい笑顔になっていた……。


「ごちそうさま」

「毎度あり。また来てね。可愛い彼女さんを連れて。ウフッ」


 帰り際、俺に向かってウィンクをした。

 年甲斐もないウィンクは許すとして、あいつらには絶対に言うなよ。もしチクったら満の看板の横にマジックで「子」の字を書き足すからな!



「どうだった?」

「すごく美味しかった」

「肉系が入ってなければ星でも食べられると思う」

「そうね。帰ったら作ってみるね」


 大きな目を細めてニコッと笑うラム。可愛さに全ての細胞が溶けだしそうだった。


 その後、食後の散歩がてら異文化交流を進めた。見る物聞く物すべてが初めてのラムは、子供の様にはしゃいで俺を質問攻めにした。


「三色がグルグル回っているのは何?」

「あれは床屋。髪を切る店」


「透明のケースに入っているピンクの物体は?」

「あれは肉屋。鳥、牛、豚の肉の塊」


「このヘンテコなモニュメントは?」

「税金の無駄使い」


 ひとしきり説明しながら歩いた。

 商店街を抜けると再び河原へたどり着く。川のせせらぎが涼しさを演出し、優しく流れる風が肌をかすめて心地いい。

 遠くの空でカラスが鳴き、太陽が傾き始め夕焼けが広がっていた。

 河原から町と夕焼けを眺めつつ一息つくラム。普段歩くという行為をしない彼女にとってはかなりの運動量だったと思う。


「ふーっ、結構歩いたね」

「疲れた? ごめんな、ちょっと夢中になっちゃって」

「ううん大丈夫。知らない町を歩くのって楽しいね」

「そうか。それなら良かった」

「地球って面白いね」

「そう? 俺は毎日見てるから何も感じないけど」


 いつのも風景でいつもの夕焼けだが、今日は何だか違って見えた。


「夕焼けって綺麗ね」

「ラムの星にもあるの?」

「もっと真っ赤で濃い色だけど雰囲気は同じ。一日お疲れ様って感じで」

「お疲れ様か……うまい事言うね」


 川の流れる音を聞きながらしばらく2人で夕焼けを眺めていた。

 青から赤へ。赤から黒へ少しずつ変化していく。お疲れ様って表現が相応しい。


「今日は案内してくれてありがとう。すごく楽しかった」

「いえいえ。どういたしまして」

「町案内、お疲れ様」

「ラムこそお疲れ様」

「そろそろ帰るね」

「聞きたい事があったら俺んちへ来いよ。ここから近いから」

「うん。大丈夫」

「遠慮するなって」


 そう言って地図を書こうとした。ラムは「いいよ。いいよ」と手を左右に振った。


「本当に大丈夫よ」

「そうか」

「うん。お家の場所は大体分かるし」

「えっ?」

「それじゃ待たね!」


 バイバイと手を振って目の前から消えた。


「……」


 今、家の場所が分かるって言ったような気がするが。

 たぶんそれは夏の暑さのせいだろう。そして心の奥底に芽生えた恋という名の魔法だろう。




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