こぼれ話 モジャチンカ山
パパの手伝いでモジャチンカ山へ行った際、洞窟内から硫黄の匂いが漂ってきた。一攫千金を夢見てドリルで削っていると硬質な岩盤にヒビを入れたらしく、そこからお湯が染み出て来た。
という話をしたと思う。その辺りを少しだけ語ろう。
俺が見つけたのは、たぶん温泉源である。
確証はないが、硫黄の匂いと染み出したお湯を見れば、日本人なら真っ先に温泉を思い浮かべるだろう。
だが、この星は違った。
パパやラムに聞いた所、鼻水を垂らしたアホの子になっていた。惑星に温泉施設はないと思われる。それはそれで問題ない。「所変われば品変わる」ではないが、星それぞれに特徴があり、それが個性になっている。地球には地球の、チージョ星にはチージョ星の良い所がある。
厄介なのは、温泉についてである。
2人の回答を元に考えると、この星に温泉は無い。存在しない施設をどうやって理解させるか。
「なあラム。誰か詳しい人っていない?」
「う~ん。難しいわね」
「興味のある人だったら誰でもいいんだけど」
「そもそも温泉が分からないからねぇ~」
「……だよなぁ~」
元ネタを知らなければ興味すら湧かないであろう。
「まあ仕方がないか」
「う~ん……」
「とりあえず頭の片隅にでも置いてくれよ」
「先生にも相談してみるね」
「よろしく頼む」
次の日。
ラムの担任が鼻息荒くやって来た。俺の顔を見るなり興奮状態で問いかけた。
「君か。奇妙な音波を発する動物というのは!」
「は?」
「ちょっと鳴いてみてくれないか」
「……何がですか?」
俺の熱意に根負けしたラムは、しぶしぶながら担任に相談したらしい。ところが、状況を把握していない彼女は、何をどう説明していいのか分からなかった。
元々、責任感の強い子である。俺の言葉を思い出しながら一生懸命に伝えたのだが上手く伝わらなかった。
最終的に硫黄が異様になり、温泉が音声になり、洞窟が動物になった……。
その後も材料調達で何度かモジャチンカ山を訪れたが、日増しに硫黄の匂いが強くなっている気がする。
「パパさん。地質学の専門家っていますか?」
「沢山いるよ」
「誰か紹介して貰えませんか」
「なぜ?」
「洞窟の奥を調べたいんです」
「ああ、この間言ってた「オン宣言」の事ね」
「ま、まあ」
「三次君も経験しただろ。この星の大雨を」
「はい」
「それらが地下に溜まっているだけだよ。地面から水が出るのは、この星では普通だからね」
パパの言い分は、1か月に一度だけ起こるチージョ星特有の大雨。惑星の浄化や水分補給に役立つ恵みの雨で、地面に吸収され星全体の地下を流れている。
そしてチージョ星は常夏の国。強い日差しを浴びて地下水が温かくなっている。
との見解を示していた。
俺は学者ではないので、科学博士がそう言えば従うしかない。バカが天才に反論するのは、お釈迦様に「お前は真理が分かっていない」とケチを付けるのと同じ事である。
だが、今回だけは違うと思う。確かに大雨が地下に溜まって熱された説は否定出来ないが、硫黄の匂いはどう説明するのか。地面全体がホットカーペットのように温かいのは何故か。酢が立った茶碗蒸しのような頭脳を持つ俺に説明は無理である。
これ以上しつこく質問するのは迷惑なので、言われた通り黙って材料探しに勤しむ日々を過ごして帰って来た……。
もし、お釈迦様と激論を交わし、意見を否定されたら確実にションベン引っかけるだろう。
なにせ俺は、奇妙な音波を発する動物だから。
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