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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第二部 夏休み終了のお知らせ
34/95

遂に完成です

 目が覚めたら快晴だった。

 昨日の狂った雨はどこへやら。青空が惑星いっぱいに広がり、3つの太陽がサンサンと輝いていた。

 ウォシュレットパンツを洗って干した後、庭先に出て体を思いっきり伸ばした。


「やっぱり太陽はいいな!」


 ラムの言う通り、町は透き通るくらい綺麗になっていた。昨日の雨で星全体が洗われピカピカになっている。木々も建物も空気も清々しいほど浄化されていた。

 自然というのは上手く出来ている。無駄な事などなにもない。一部の隙も無いほど完璧だからスゲェな。と思ってしまう。


 庭先で大きく息を吸い込み、窮屈だった心と体を開放していると、


「三次君。ちょっと来て」


 パパに呼ばれた。


「完成したよ」

「打ち上げですか?」

「そう。これを見て」


 パパが指した先には、直径約40センチ、高さ約60センチの大型の丸筒があった。

 俺の中のもう一人の俺が恐怖に打ち震えた。

 何度も言うが一番最初に作る大きさじゃないと思う。普通は小さいモノからテストして、成功したら徐々に大きくしていくのが常識だろう。この大きさで失敗したら研究室どころか屋敷ごと吹っ飛ぶかも知れない。俺もパパも仲良く手を繋いで天国まで飛ばされる事間違いなしである。

 そしてさらに不安要素がパパの行動である。

 イヤな予感が頭を過った直後。案の定、何の迷いもなく火をつけようとした。


「ち、ちょっと待ってください!」

「どうしたの?」

「室内でこの大きさは危険ですよ」

「そう?」

「早く結果が知りたいのは分かりますが、火薬は危険な代物です。パパさんの腕は信用してます。けど万が一ということもありますから」

「うーん。そうね」

「安全第一です。暗くなったら庭でやりましょう」

「三次君がそこまで言うのならそうするか」


 間一髪で実験を制止し、ホッと胸を撫でおろした。

 火薬の怖ろしさを知らないチージョ星人に危険を理解させるのは難しい。地球人なら誰でも知っている当たり前の事も場所が違えば役に立たなくなる。

 口で言っても分からないなら実際にやってみろ!と言いたいところだが、大事故が起こってからでは遅すぎる。

 この世で一番恐ろしいのは無知なのだ。


 誰かこの研究オタクの暴走を止めてくれ。特にキッチンの窓から「仲良しね」とニコニコ眺めているお前。バーカパパの嫁であるエイロ・ゴムシテ。お前の事だ!



 その日の夜。


 待ってました!と言わんばかりに準備を始めるパパ。庭の中央に威風堂々と置かれた筒は、おもちゃ花火としては別格に大きい。もし間違って暴発したら大惨事を巻き起こすであろう。

 今更ながらチージョ星に花火を持ち込んだ事を心の底から後悔しているが、ここまで来たら止めようがない。根性を決めてパパの腕を信用するしかない。

 ママとラムも不安そうな顔をして俺の後ろに隠れている。

 2人に両腕をガッチリ押さえられ、身動きの出来ない状態でラム家のシールドと化している俺。仮に暴発したら2人は速攻で逃げ、一歩出遅れた俺は「あれぇ~」と叫びながら宇宙へ飛ばされるだろう。

 そしてラムとママを守った英雄として、ラム家の庭に銅像が建立される。


『英雄 三次 ありがとう』


 そんな言葉が刻まれる……シャレになってねぇよ。


 パパは屈託ない笑顔で導火線に火をつけた。

 ハッキリ言う。死ぬほど怖い。噴出ならまだしも、打ち上げは爆発力が凄まじいので失敗は即死に繋がる。

 導火線がジリジリ短くなっていくのと比例するように心臓がバクバク脈打つ。

 ラムとママは腕をさらにギュッとし、パパは笑顔で筒を見ている。俺は死んだじーちゃんに「これからそっちへ行くのでよろしく」と挨拶した。


 そして……。


 パーンン!と軽快な音を立てて花火が打ち上った。


「うわーキレイ」

「すごーい!」

「おおっ、ついにやったぞ!」


 ラム家の3人は、夜空に咲いた一瞬の花に声を上げて喜んだ。


 大輪ではない。形も不揃いで崩れている。お世辞にも綺麗とは言えない。

 けれど、チージョ星の夜空に初めて打ち上ったチージョオリジナルの花火。たった1発だけだったが本当に幻想的だった。

 幻想的というよりは感無量と言った方が的確かもしれない。

 10万光年を日帰りした。材料を掘り出して筋肉痛になった。調べた資料を悪戦苦闘しながら伝えた。それがようやく形になった瞬間だった。

 研究室から何度も悲鳴が聞こえ、その度にドキドキしながら行く末を見守っていた。失敗した場合、ラム家は砕け散る。俺が花火を紹介したばっかりに、チージョ星人を宇宙の藻屑にしてしまっては申し訳が立たない。

 そんな事を思い返すと、苦労した甲斐があるってものだ。


「三次君ありがとう。君のお陰でこの星にも新しい名物が出来そうだ」

「僕は何もしてませんよ。パパの努力じゃないですか?」

「そういう謙虚な姿勢も君の素晴らしい所だよ」


 パパに続いてラムにもお礼を言われた。


「パパのためにここまでしてくれてありがとう」

「い、いや、そんな事はないよ」

「わざわざ地球まで何往復もしてくれて、ホント凄いよ三次は!」

「ま、まあ、これくらいどうってことはない」


 褒められた事のない俺は、どういう顔をしていいのか分からなかった。

 確認はしてないが、たぶん、眉間にシワを寄せながら口を半開きにしてニタニタしていたと思う。


「さて、これをさらに改良して綺麗な花火を作ろう!」


 そう言うと、パパは研究室に戻り、ママは家の中へ入って行った。


「あんなに喜ぶパパって久しぶり」

「目標ができたからな。そりゃやる気も起こるさ」

「三次のお陰ね」

「おう。何かあったらこの俺に任しとけ!」

「期待してるわよ!」


 背中をパーンと叩かれた。


 ま、色々あったが、とにかく完成してよかった。

 これで俺の役目は終了だ。


「さて、そろそろ家へ帰るかな」

「明日帰る?」

「うん。ここに来て既に1週間も経ったからな」

「元気でね!」

「おう、俺はいつでも元気だよ」

「相変わらず、ね!」

「相変わらず、な!」


 2人で笑った。


 初めの頃は凄く寂しかった。別れが辛くて泣くのを我慢した。もう二度と会えないかと思うと、胸が詰まって言葉が出なかった。

 しかし今は違う。

 もう何回も行き来しているうち、10万光年は容易い距離に思えた。

 俺から会うことは不可能だが、その気になればいつでも会える。電話もなければメールもない。地球とチージョ星を繋ぐ連絡手段はない。

 だが、こうして何回もやってきてラムと楽しく会話している。彼女が言うように、これが運命というヤツなのかもしれない。

 もしラムと俺が運命で繋がっているとしたら必ずまた会える。


 そして……。




 次の日も朝から元気いっぱいの快晴だった。


「三次君、今回は本当にありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

「また何かあったら相談してもらっていいかな?」

「はい。いつでも呼んでください」


 パパの言葉の後、ママが続けた。


「三次君がいると飽きないわね」

「どういうことでしょう?」

「ツムーリゲバロンで庭を駆け巡ったり、パパと楽しく花火で遊んだり」

「まあ、はい」

「見ていて楽しかったわ!」


 やってるこっちは必死なんですが。


「じゃラム。またな」

「うん。またね」

「また遊びに来いよ」

「そうする。逆に迎えに行くかもよ」

「10万光年だぞ?」

「慣れてしまえば近い、近い!」

「じゃ、今度の休みにデートするか?」

「いいね。チチモン・デクレンに連れてってあげる」

「モンデクレ?」

「アナシーリの隣」


 地名を言われても分からないんだよ。どこだよそこ!


 みんなに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。

 そして開閉ボタンを押そうとした時、


「三次君。ちょっと見て!」


 パパが取り出したのはロケット花火だった。

 意気揚々と5本を地面に並べ、一斉に火をつけた。


「……」


 パパ。俺は花火には素人だが、ロケット花火に関してはプロなんだよ。地面に置いて点火するという行為は、危険と隣り合わせという事なんだぞ?

 目標物を決め、筒状のモノに入れて発射しないと、どこへ飛んでいくか……。

 ピューーッ!と軽快な音を立て、ロケット花火は庭先を縦横無人に駆け巡った。

 そしてその1本が俺に向かって飛んできた。


「うわ、こっちへ来る。ちょっと待て!」


 俺は慌てて開閉ボタンを押した。

 宇宙船の扉が閉まりかけたその隙間を狙って、ロケット花火は室内へ入り込んだ。


 フィーーン、フィーーン。

 シュパッ!と地球へ飛び立つ音が聞こえた直後、船内で爆音を響かせてロケット花火が弾けた。


 うぎゃ。み、耳がぁぁぁーーー。


 狭いから反響する。耳がキーンとなって何も聞こえなくなった。しかも船内が火薬臭くてたまらない。換気するにも周りは宇宙空間である。扉を開けた途端に無酸素状態になるだろう。

 その前に外に吸いだされて一巻の終わりだわ!




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