研究者はオタクの要素が強い
研究所の前を通ったら「ポン! カン!」という音がし、「なんだ?」という声が聞こえた。たぶん落下傘だな、と思った。
何度も言うが、室内でやるな!
朝食を食べた後、ラムは学校へ行き、ママはお買い物。俺はヒマなので庭を散歩していた。
3つの太陽が今日も激しく自己主張している。ここで1か月も過ごしたら夏合宿中のテニス部か水泳部の肌色になりそうだ。
そういえば以前、テニス部女子の部室を覗いた時、太ももから下は真っ黒でその上が真っ白という光景を目撃した。焼けて黒光りした肌と色白で透き通った素肌。絶対領域の核なる部分を目の当たりにして以来、俺の中のマニアが覚醒した。
これだけ日差しが強ければ、南国の人たちのような健康的な小麦色でもおかしくない。だが不思議な事に、この星で浅黒い肌の人を見かけた事がなかった。
チージョ星人はみな肌が白く透き通っている。男も女も限りなく透明に近い白である。
初めてラムに会った時は「プルンと透明肌!」CMのキャッチコピーになりそうな透け具合であった。
紫外線とか、そういった自然の何かしらが関係しているのか。それとも同化という能力がそうさせるのか。
もし、ラムが部分日焼けになったら……狂ってると思われるので止めよう。
Tシャツを洗濯して上半身裸で小麦色を目指していると。
「三次君。ちょっと研究室まで来て」
パパに呼ばれた。
「なんですか?」
「ついに試作が完成したよ!」
「ホントですか」
「ほら。これ」
研究室に入ると、室内の中央に無機質な丸型の筒が置かれていた。
「でかっ!」
「渾身の作だよ」
「パパさん。これって打ち上げですか?」
「いや、噴出タイプだよ」
「……」
「仕組みが複雑だから大きくなっちゃったけど」
通常の3倍はある大きさだった。この大きさで噴出って事は相当な高さまでふき出しそうな気がする。最初は小さい物から試した方が無難だと思う。初めての試作でこれは大丈夫なのだろうか。
「じゃ、火をつけるよ」
「えっ? ここで? それは危ないで……」
忠告は間に合わず、パパはいきなり火をつけた。導火線がチリチリと燃えだして次第に短くなっていく。逃げようにも扉の入口はないため脱出方法は窓しかない。
危険を察知した俺は、ダッシュで窓へ走った。だが、間に合わなかった。
シュパジャジャーー!と激しい火花が天井まで飛び上がった。
「うわーっ。熱っ、熱っ!」
「ひえぇー! アチチチッチ!」
花火は数秒間、赤青黄色のキレイな火花を散らしてジュジュっという音と共に消炎した。そして研究室内は火薬の焼けた匂いに包まれた。
「いやぁ~ビックリしたね」
「……」
「でも三色がキレイに飛び散ったね。実験は大成功だよ」
「……」
確かにキレイはキレイだった。地球の花火と遜色ない燃え方だった。いや、それ以上に美しく迫力満点だったと思う。大きさもそうだが空気とか素材とか周りの環境も左右しているのだろう。
ただ、普通に考えて室内でやるかね。外は明るくて色具合が分からないから暗い場所で確かめたいという気持ちは分かる。だったら、この狭い研究室じゃなく俺の寝ている倉庫とか、辺りが暗くなってからやるとか、他にいくらでもあると思う。
パパからは友則臭がプンプンする。あいつは前頭葉が破損したバカ。こっちは天才的な頭脳を持つバカ。どっちも関わってはいけないような……。
モクモクと立ち込める硝煙の匂いに鼻と目がやられそうである。俺は研究室の窓という窓を全開にして空気を入れ替えた。
実験が成功したパパは火薬の匂いもなんのその。上機嫌で「次は打ち上げに挑戦」と言った。
「三次君。打ち上げに必要なモノはなに?」
「……」
これ以上彼に知識を与えるのは、チンパンジーに核爆弾のボタンを掃除させるくらい度胸がいる。下手したら研究室ごと爆破しそうで怖かったが、本人の希望なのでしょうがない。
俺はメモを頼りに作り方を説明した。説明が通じない箇所は図を描いて指示し、パパが納得いくまで付き合った。
花火師でもないのに花火の作り方を説明していいのだろうか?
ま、ここは地球じゃないからOKってことで。
ママの言う通り、パパは夢中になると我を忘れてしまうクセがある。
俺から説明を受けている間も食事をしている間も家族団欒の間も頭の中は花火の事でいっぱだった。会話の9割が「三次君。花火っていうのは…」だったから。
研究者というのは、夢中になるとオタク的要素を発揮するのかもしれない。1つの事に集中してそれを真っ当するのだから、その精神力は凄まじいものがある。
夜中に寝ている所を叩き起こされた事もある。
「この部分はどうなってるの?」
「ふぁぁー。こ、これはですのぉ~」
「なるほど。そうなっている訳か」
「……ふぁい」
「じゃあ、ここは?」
「ええっとぉぉ、ココアですねぇ~」
朝から晩まで質問攻めに遭い、疲労と睡眠不足で頭が回らなかった。花火を持ち込んだのは俺のせいで無視する訳にもいかない。眠い目を擦りながらメモを読み上げていた。
「これはぁぁ、こうだずもねぇ~」
「そうか。こうだね。ありがとう」
「うえいえ、どういたますて」
「ごめんね。無理やり起こしちゃって。もう大丈夫だからゆっくり休んでね」
「ふわぁぁい。おやすみなそい」
パパぁ~。明日は晴れるといいだすねぇ~。




