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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第二部 夏休み終了のお知らせ
31/95

小休止にお花見デート

「おはよー」


 バフっと布団の上へ乗っかってくるラム。

 朝の男の子は、そうじゃなくてもそうなる時があるの。分かる?



「あれ、学校どうしたの?」

「今日はお休み」

「あっ、そ」


 昨日パパにコキ使われ体の芯まで筋肉痛だった。後先考えず調子に乗って削りまくったため、腕と肩と腰と太腿と脹脛と足の裏が痛い。要するに全身痛い。この星に湿布薬ってあるのだろうか。


「今日さ、お花見行かない?」

「お花見?」

「モレマックリ公園で開催されてるの」

「近いの? そこ」

「マッキキパツーンのすぐ近くよ」

「だ・か・ら。どこだよ。そこは!」


 地名を聞いてもサッパリなので適当に付いて行く事にした。

 ツムーリゲバロンに乗り、時速150キロ強で爆走し、俺は恐怖の悲鳴を上げ、ラムは別の意味で悲鳴を上げながらモレマックリ公園に到着した。


「もう。触んないでって言ってるでしょ!」

「飛ばしすぎなんだよ。振り落とされたらあの世行だろうが!」

「行けばいいのに!」

「て、てめぇー」

「そんなに私の胸に触りたいの」

「触れるモノなんてあるのか?」

「サ、サイテー」


 せっかくの花見デートなのに、いきなりケンカになった。

 時速150キロという未知なるスピードで、しかも近道だからといって森の中を駆け抜ける。絶妙のハンドル捌きで障害物を避け、左右に蛇行しながら木々のスレスレを横切るのだ。こんなの命が幾つあっても足りない。振り落とされないようにしがみ付くだけで精一杯である。

 触るとか触んないとか、そういうレベルの話ではないのだが。

 ……スピード狂だな、こいつ。


「そういえば、この間パパからお金を貰ったから今日は奢ってやるよ」

「……」

「ほら、これで足りる?」


 俺からお金をふんだくると、プリプリ怒りながらチケットを2枚購入した。

 胸を触られて恥ずかしい気持ちは分かるが、奢ったんだから「ありがとう」くらい言えや! 


 園内に入ると広大な敷地にこれでもか!と言わんばかりの花が咲き乱れていた。

 その広さは圧巻である。視界に入る全てがお花畑だった。例えて言えば、花の地平線がどこまでも続いている感じ。あまりの広さに方向感覚が麻痺しそうである。

 日本でも花をメインにしたテーマパークがあるがここは規模が違う。まさに花の楽園であった。


「これはスゲェーな」

「……」

「日本にも似たようなのがあるけど、スケールが違うな」

「……」


 シンメトリーに整備された区画に赤、青、黄色、紫など多種多様の花が色分けして並んでいた。

 赤い花絨毯を過ぎると黄色に変わり、しばらく進むと青の景色が視界へ飛び込んでくる。さらに歩くとピンクが出迎える。

 見る物を楽しませる工夫がなされていてエンターテインメント性抜群だった。


「色が変わっていくのが面白いね」

「……」

「映えそうだね」

「……」


 何万種類という花が咲き乱れていたが俺の知っている花はほぼ皆無だった。

 チューリップのようでチューリップじゃない。パンジーに見えるがパンジーではない。紫の絨毯が敷き詰められた一画はラベンダー畑を彷彿させる。よく見ると花びらがハート型をしていてラベンダーではなかった。

 その中で地球と同じなのはバラだった。色、形、茎のトゲトゲまで一緒である。


「これ日本じゃバラっていうんだけど、こっちではなんて言うの?」

「……」

「花言葉とかってあるの?」

「……」


 種類別に区分けされた花壇には看板が設置されており、花の名前と説明が書かれていた。入場券を買った際に手渡された園内マップと見比べながら楽しむ手筈らしい。

 文字が読めない俺は、説明看板を見ても何が書いてあるのか分からず、マップを見ても現在地すら把握出来ない。誰も説明してくれないため、何が何だか分からないまま次へ移動した。

 それにしてもとにかく広い。見渡す限りのお花畑である。

 これだけ広い敷地に水を撒くのは大変である。相当な人数で手分けしても1日じゃ終わらない気がする。「どうやって水を撒くのだろう」そんな単純な事を思っていると、花壇の中央に設置された白い球体がプルプル震えだした。

 そこから空高く水が吹き上がり四方八方へ飛び散った。噴水は花壇の隅々にまで広がり、そこだけ雨が振ったように花びらを濡らした。

 すると、太陽の加減で虹が生まれた。それが花の色と相まって心を揺さぶる綺麗さだった。


「花って何種類くらいあるんだろうな」

「……」

「これってさ、毎年なの? 常時開催なの?」

「……」


 意外と根に持つ方なのね、ラムちゃん。


 本気で広いため迂闊な所へ行くと戻れなくなりそうだ。

 瞬間移動が可能なチージョ星人なら、「もう一度あそこへ行ってみよう」と言い、好きな場所へ飛んで行けるだろう。二足歩行しか出来ない地球人には、永久の迷路に迷い込んでしまった感覚になる。

 仮に親子連れで来たら1日中迷子の放送が流れっぱなしで、パニックになった子供たちが花壇に乱入しそうである。

 大人でもヤバイ気がする。

 ここで見捨てられたら俺も子供同様パニックに陥り、大声で「犬のおまわりさん」を歌いながら花壇の花をむしり取るだろう。


「まだ怒ってんのか?」

「……」

「そんなに怒ってるとシワが増えるぞ」

「うるさい!」

「せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「う、うるさい……」


 とりあえずご機嫌は直ったようだ。

 ラムに置いていかれたら俺は花壇を荒らした罪で犬のおまわりさんに連行され、鉄格子の病院で暮らす羽目になる。

 ……胸にまつわる話は禁句か。


 その後、ご機嫌が直ったラムに説明して貰いつつ園内を順繰り見て回った。

 普段から歩く行為をしないチージョ星人には園内探索は結構な運動量だと思う。ラムを見るとお疲れの様子だった。


「そろそろ戻るか」

「うん。疲れちゃったね」


 なるべく機嫌を損ねないよう丁重な扱いで入口付近へ戻り、園内に隣接されている喫茶店へ入った。

 ここは花をベースにしたお茶屋さんで取れたて新鮮な花を提供するという女の子受けしそうなお店だった。さらに、庭園を見ながらお茶を楽しむオープンカフェなるモノも存在していた。室内に入れない俺にとっては有難い場所である。

 ラムは友達と何度か来ているらしく、手慣れた感じで好みのフラワーティーを注文した。俺は例のごとくメニューを見てもサッパリだった。

 前回は一番上のおススメを頼んでカブトムシジュースが出てきた。今回は用心して一番下の人気のなさそうな品を注文した。


「ここはクラスの女子でも人気のスポットなの」

「へぇ~。そうなんだ」

「お花のお茶が飲めるのはここだけよ」

「ふ~ん。そうなんだ」

「何百種類もある中からオリジナルブレンドを作れるのよ」

「ほぉ~。そうなんだ」


 お店の情報を伝えていたが、俺としてはコーラとかカルピスの方が好きだ。紅茶とかハーブティーといった女子が好む飲み物には興味がない。大人の女性には美味いしく感じられるかもしれない。ついさっきチン毛が生え揃ったばかりの中坊にはハードルが高い一品である。

 しばらく談笑していると、セミロングの好みのお姉さんが運んで来た。

 ラムの前に運ばれたカップには、花びらが折りたたんで置いてあった。ティーポットのお湯を入れるとカップの中で花びらがパァーっと開き、いい香りを奏でる。という、いかにも女子受けを狙った品だった。


「美味しい。花のいい香りがして落ち着く」


 ご満悦の表情で飲んでいたので一口貰った。チン毛ボーボーの味がした。


 そして俺の前に注文の品が運ばれてきた。見た瞬間に息を飲んだ。

 ……ドス黒い醤油色の何かだった。

 ここは庭園に咲き乱れる花々を摘み、独自調合ブレンドで提供するカフェだと聞いている。先ほど回った時にこんな色の花は無かったと思う。何と何をブレンドすれば、こんな気持ちの悪い配色になるのか。もしかして花の根っこなのだろうか。

 見るからに苦そうなブツを口に含んだ。頭蓋骨にヒビが入るくらい甘かった。しかも泥臭い味がする。

 まさか、花壇の土に砂糖を50杯くらい溶かした代物じゃねぇよな。


 血糖値が200を軽く超えそうなモノを飲み干し店を出た。

 帰り際、「ママに買い物を頼まれた」そう言ってスーパーに入って行った。中に入れない俺は、近くの楕円形のベンチに両手両足を広げてバランスを取りながら待っていた。その姿を見た子供が隣のベンチで俺の真似をし、母親に「バカな事は止めなさい!」と叱られていた。スーパーから帰って来たラムに「バカな事は止めなさい!」と忠告を受けた。


 君らチージョ星人に問いたい。

 何もかもが斬新過ぎて地球人には理解不能な事ばかりだ。喫茶店の飲み物は黙認してやる。だが、この丸型ベンチは納得できない。どうやって座るのだ。

 方法があるなら教えてくれ!





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