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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第二部 夏休み終了のお知らせ
30/95

発掘作業中に大発見

 朝起きたらパパに呼ばれた。


「三次君。火薬の色についてなんだけど」


 地球で調べたメモをそのまま渡せば即解決なのだがチージョ星人は日本語が読めない。そして俺はチージョ語を書けない。そのため、分からない事があったら俺を呼び、メモを見ながら説明するという二重で面倒くさい事になっていた。


「調べによると、リチュウムが赤 銅が青 カルシウムがオレンジ らしいですね」

「という事は、それらと同等の素材を見つけねばならないのか」

「地球上の素材をこの星で探すのは大変ですね」

「そうなんだよ。一応この星にも元素記号があるんだけど、それと比べ合わせなければならないから大変だよ」

「気が遠くなる作業ですね」

「うーん」


 パパは唸りを上げていた。


 科学どころか花火にも素人な俺は、手伝いたくても無理がある。せいぜい力仕事が関の山だ。もしくは材料買い出しに地球へ飛ぶか。

 地球に飛ぶのはいいとして、簡単な物なら俺でも入手可能だ。火薬系を買って来いと言われたらお手上げである。売っている店も購入方法も分からない。超絶美人でHカップの子を探す方が楽な気がする。

 任務を遂行するにあたり、さらに問題となるのが宇宙船である。

 船内は無機質で窓も何も付いていない真っ白な空間である。上下左右さえ判別不可能なため油断すると精神を痛める。

 俺には妄想という最大の武器と、頭を使うと眠くなるという最高の防御方法があるので難なくクリアー出来ている。常人が乗ったら惑星に付いた頃には裸で木にしがみつき、己をセミだと思ってミンミン泣くであろう。

 買い出しは勘弁して欲しいと願いつつ、パパの研究に付き合った。



 しばらくして。


「三次君。また例の山へ付き合ってくれないか」

「いいですけど、道順が分かりませんが」

「そうか。君は同化出来ないんだったね」

「はい」

「じゃあ、アイノデリモンクー持ってる?」

「持って来てます」

「ちょっと貸して」


 パパに渡すと行先をインプットしてくれた。

 ツムーリゲバロンの前方部分に指輪を装着する穴があり、そこへはめ込むと緑色のレーザービームが飛び出した。


「これでモジャチンカ山まで目隠ししても到着するよ」


 パパは一足先に消えていなくなった。

 俺はカタツムリにまたがり、昨日教えてもらった操作を実践してみた。


「確か頭を撫でるんだったな」


 試しに1回撫でてみた。音もなくスッと浮き上がるとゆっくり動き出した。ただ速度は2キロくらいしか出ていない。歩いた方がマシである。

 もう1回撫でてみた。さっきよりもスピードが上がった。撫でれば撫でるほどスピードがUPする仕組みらしい。


「なるほど。これは面白い!」


 頃合いの良いスピードまで頭を撫で上げ、チージョ星初の一人旅に出かけた。


 常夏のチージョ星は湿気もなくカラッとしてて過ごしやすい。太陽が3つもあるので地獄の熱さを想像するが、時折吹く風が肌をいい感じで癒してくれる。日本のように不快指数200%のゲンナリ気分にはならない。

 公害のないこの星では、青空は深く濃い色をしている。地球の薄っぺらい青とは大違いだった。空気はキリっと澄んでいて、遠くの山々まで透き通って見える。

 木々の葉は相変わらず四季折々の色合いだが、それも見慣れればさして気にならない。

 心地よい風に吹かれながら鼻歌交じりで快走した。

 山まで一直線の道には人っ子一人いない。車や乗り物も走っていない。瞬間移動が可能なチージョ星人にとって乗り物は必要なく、逆に時間のかかるレトロなアイテムである。

 一度だけ車イス的なモノに乗っている人を見かけた事がある。ラムに「あの人どうしたの?」と聞くと、「ケガをしたんじゃない?」と答えていた。

 この星の人にとって乗り物とは、ケガをしたり何かしらの理由で移動できない人のお助けアイテムというカテゴリーである。そのため、チージョ星には地球のようなアスファルトは何処にもない。車のない世界なので当然である。それ以外の道は平坦な草原道。大草原をひたすら直進するイメージである。

 草花を滑るようにかき分けて進むのは、本当に清々しくて気持ちがいい。


「よし、もう少し飛ばすか!」


 さらに2回撫でると体を後ろにグッと持っていかれた。

 スピードに慣れれば怖さもなくなる。俺はレーザービームに従ってヤンキー乗りで現地へ向かった。


 何事もなく到着すると、パパは既に素材をかき集めていた。


「お待たせしまし……うぎゃぁぁ」


 降りようと両手を放した途端、何の前触れもなく急激にピタッと止まった。結構なスピードからの急停車である。重力で体が前方へ持って行かれ、俺はクルクルと宙を舞った。

 そういえば、運転は教えてもらったが止め方は教わらなかった。

 偶然にも体操選手のような動きで立つ事が出来たが、もしこの岩場で転がったら大惨事である。考えるだけで身震いする。

 空中で2回転半ひねりをして地面に着地すると、それを見たパパが、


「三次君って運動神経がいいんだね」


 と笑っていた。


 笑ってる場合じゃねぇ。こっちは死に物狂いなんだよ。

 このカタツムリにはブレーキは付いていないのか。普通はスピードダウンってものがあって、徐々に速度を落として停止する。スピード全開でビタッと急停車したら体を持っていかれるに決まってるだろう。

 その辺をどう考えてるんだ? ついでにこのレバーも。

 説明してもらおうか、今すぐに!



 ツムーリゲバロンの急停車で危うく大惨事になりかけた。自慢の運動神経で難を逃れたが、下手をすれば死神とフォークダンスを踊るハメになる。三次だけに大惨事。などと言っている場合ではない。


「これで岩を削りだしてくれる?」

「なんですかこれ?」


 渡されたモノはドリルであった。これで岩を削り、その中から花火に使える材料を選別するらしい。

 大きさ的には腕ぐらいのサイズで外側はドリル。内側は空洞になっていて意外にも軽かった。持ち方も使い方も分からないが何とかなるだろう。

 俺は張り切ってドリルを……スイッチがなかった。


「パパさん。これスイッチが無いんですけど」

「スイッチ? そうか。地球人はまずボタンを探す生き物だったね」

「生き物って……」


 パパはドリルを腕にはめた。すると、ドルドルドルッと回り始めた。


「こうやって腕にはめると勝手に回転するから。速度調整は握り加減ね」


 試しに装着してみたら低速で回転し始めた。少し強めに握ると中速になり、力を入れるとギュィーンと音を立てて高速回転した。

 なんとカッコいい武器だろう。もはや気分はゲッターロボの神隼人である。

 面白くなった俺は、あちこちの岩に無差別攻撃を開始した。


「岩だけじゃなく、地面とか他も掘って」

「あっはい。色んな所を削ればいいんですね」

「そう。色の違う場所とか、少し変わった岩とか」


 とにかく色々な素材を集め、その中から必要なモノを見つけ出さねばならない。

 ドリルで砕いた岩をカゴに入れてパパの所へ持っていく。パパはそれを顕微鏡的なモノで見極め必要と不必要を選別していく。この繰り返しだった。

 かなり地味な作業だったが、目新しいおもちゃを手に入れた俺は楽しくてしょうがなかった。

 無駄に体力が余っている俺には最適の仕事である。ラムのように地層がどうとか年代別がどうとか、そんな勤勉な行動など皆無。目についた全てをガンガン削った。

 色んな種類を採掘してくれとの指令を受けているので、辺りを見回しつつ少し洞窟っぽい所へ侵入した。

 中は薄暗くて異様な雰囲気が漂っている。


「ここを掘ったら金銀財宝ザックザクとかないかな?」


 大金持ちを夢見てガリガリ地面を削っていると、途中でガキッ!という硬質な何かを砕いた音がした。

 ドリルを止めて地面を見た。小さくヒビ割れた箇所からジワジワと水が染み出してきた。水は次第に熱を帯び、割れ目から薄っすらと煙が立ち上がった。洞窟内がほんのり温かくなってきた。


「これって硫黄の匂いがするんだけど、もしかして温泉じゃないの?」


 洞窟内で削り取った岩石をカゴに入れてパパの所へ運んだ。

 そして聞いてみた。


「パパさん。あの辺を削ってたら水が染み出てきたんですけど、もしかしてこの辺りに温泉源があるんじゃないですか?」

「おん……宣言?」

「いや、温泉です」

「温泉ってなに?」

「お風呂のことです」

「お風呂は家にあるよ。こんな所でお風呂へ入ってもねぇ」

「いや、そうじゃなくて……」

「そんな事よりも、もう少し掘削してくれるかな」

「そんな事よりって……」


 温泉よりも花火が大切なのだろうか。地球人からしたら花火より温泉である。

 温泉を見つければ大金持ちになれる。町の発展にも繋がり、リラックス効果も生まれるだろう。

 俺は金銀財宝ではなく温泉源を見つけたような気がする。パパの返答具合からしてこの星に温泉はなさそうだ。

 一攫千金という言葉が脳裏をかすめたが、この星で温泉源を見つけた所で俺にはどうする事も出来ない。友人もいなければボーリングするお金もない。吹き出す源泉を眺めながら「いい湯だな」を歌うのが精一杯だろう。勿体ないとは思ったが見て見ぬふりをして採掘に勤しんだ。

 破竹の勢いで無差別攻撃しているうち、気付けばかなりの種類の岩を集めることができた。


「こんなもんかな」

「ハァハァ。だ、だいぶ集まりましたね」

「そうだね。このくらいあれば何とかなりそうだ」

「つ、使えそうなモノってありますか?」

「まだ何とも言えないな。後はこれを持って行って調べよう」


 そう言うとパパは飛んで帰った。

 さすがの体力バカでも半日以上の採掘作業は足腰にくる。パパがいなくなった後、水をグビグビ飲みながらしばし休憩した。

 横目で洞窟を伺っていると、内部から少しづつ煙が外へ流れて来た。同時に硫黄の匂いも強くなっている。温泉源であるのは間違いないなさそうだ。


「勿体ないな。何とかならないものかなぁ~」


 いくら考えてもどうする事も出来ない。一攫千金に後ろ髪を惹かれつつ俺も帰る事にした。ツムーリゲバロンに跨りハンドルを……。

 レーザーナビが反応しなかった。


 もしかして片道の情報しか入ってないんじゃないのか。このナビには!

 道も分からない、こんなへんぴな所へ置いてかれて俺にどうしろと?

 もう日が陰ってきてるじゃねぇか。

 な、泣くぞ。中2にもなって声を出して泣くぞ!




 微かな記憶と双眼鏡メガネと野生の感を頼りに何とか家へたどり着いた。

 辺りはすでに暗かった。


「お帰り。遅かったね」

「まあ、な」


 甘苦い夕食を食べた後、今日の出来事を尋ねてみた。


「おいラム。ちょっと聞きたいんだけど」

「なに?」

「この星に温泉ってあるの?」

「……おん……線?」

「やっぱり無いか」

「どうしたの?」

「いや、実はな……」


 俺は今日見つけた温泉源について話をした。

 日本には温泉というものがあって、家族や友人と遊びに行って楽しむ場所がある。温泉には疲れを癒す、ケガや病気の治療、健康を維持。といった効果がある。

 基本的には旅行がメインで、温泉に浸かって日頃の疲れを癒したり、浴衣で温泉街をプラプラしたり、地元の美味しい料理を堪能したり。地域活性化にも役立ち、人々をリフレッシュさせる娯楽施設が温泉である。

 モジャチンカ山は人里離れた山奥にあり、温泉施設を建設するのは持ってこいの場所だと思う。

 チージョ星人も汗をかいたらシャワーを浴びるし、風呂に入ったらサッパリするだろう。仕事や家庭や人間関係でストレスが溜まる事だってあるかもしれない。

 文化の違いはあれどリラックス出来る場所があるという事は、それだけで楽しいんじゃないかなと思う。惑星の活性化にも繋がり、みんなの役に立つモノを作るのは凄く良い事だ。

 それに、せっかく温泉が出るかもしれないのに勿体ないじゃん!


 温泉だけに熱く語った。


 ラムはチンプンカンプンな顔で欠伸をしていた。

 まあ、見た事も聞いた事もない代物を熱く語られて、理解しろというのが無理である。


「誰かそっち方面に詳しい人いない?」

「うーん」

「皆が喜ぶ娯楽施設を作るんだから、良い事だと思うけど」

「そうーねー」

「急にそんな事を言われても無理か」

「……」


 いくら説明しても伝わらない。興味のないラムの目はトロトロになっていて、いつでも夢の中へ行きそうな状態だった。


「うーん。諦めるか」


 横になったラムに布団をかけてやり、My倉庫へ戻った。


 温泉を知らなければ温泉は作れない。楽しさを知らなければ楽しい物は作れない。チージョ星に来てから毎回この課題にぶつかっている。

 この星に地球を持ち込もうとしている俺が問題なのかも……。




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