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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
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謎の彼女は宇宙人

 目が覚めたら11時を回っていた。

 母親に「夏休みだからっていつまでも寝てるんじゃない」と寝起きの説教をされ、3つ下の妹の双葉に「私の貯金箱からお金盗ったでしょ!」とあらぬ疑いをかけられた。

 そんな戯言を無視して河原へ向かった。


 土手を駆け上がり、一昨日出会った場所をウロウロ探し回った。当たり前だが彼女の姿はなかった。

 隣町との境を流れている川は、川幅はそれほどでもないが全長はかなり長い。山からの雪解け水が海へ流れ込んでいるため、全てを捜索するのは無理である。

 上流から河口まで何百キロもある中、顔も知らない彼女を探すとなると雲を掴むような話である。もっとピンポイントで調べなければいけない。

 俺は普段滅多に使わない左脳をフル回転させ、一昨日の出会いを思い返した。


「もう少し向こうか……」


 彼女が立ち去る際、上流にある森林へ駆けて行った気がする。辺りを見渡しながら流れと逆行して上流へ向かった。

 ギラギラに照り付ける太陽を全身で受け止め、流れ落ちる汗を拭いながら土手沿いを歩いていると、川べりに体育座りをして空を眺めている彼女の背中を見つけた。 

 瞬間ドキッとした。

 その後ろ姿が何となく優雅というか気品溢れるというか。ゆっくり流れる時間の中で遥か遠くに想いを馳せている。そんな雰囲気を醸し出していた。

 見つけた嬉しさにドキドキが止まらなかった。俺は慌てて土手を駆け下りた。

 ……が、慌て過ぎた。

 急坂を全力疾走したため足が付いていかずボールの様に転がった。そして回転数を上げたまま彼女の横を通り過ぎ、バシャーンと軽快な音を立てて川へ落ちた。


「きゃっ。何!?」

「ブハァァ。超痛ぇぇーー! しかも水飲んぶぁぁぁ」


 心の準備もなく川へダイブした俺は、目、鼻、口、耳の全ての穴からマーライオンのように水を吐き出した。

 突然の襲撃に度肝を抜かれた彼女は、目を丸くして俺を凝視した。

 当然と言えば当然である。空を見上げて静かに佇んでいる最中に突如真横を転がり抜け、派手な水しぶきを上げる奇妙な生命体。しかも川から顔をひょっこり出して挨拶されたら男の俺でもビビる。まるで川底の自宅から地上へやって来た河童である。


「え? 何? えっ!?」

「こ、こんにちは」

「……こ、こんにちは」

「いきなり邪魔してごめん」

「……だ、大丈夫ですか?」

「まあ、何とか……」

「もしかして、この間の人?」

「グハッ、ゲホッ。お、覚えていてくれて何より」


 水を吐き出しながらそう言うと、彼女はブッっと吹き出し大声で笑った。


「アハハハッ。地球人って面白いね」

「き、君に声を掛けようと思ったら慌てちゃってさ」

「それで川に落ちたの?」

「まあ、そのう……」

「アハハハハ!」


 本当は「君、こんな所で何をしているんだい?」とクールに登場する予定だった。彼女の後ろ姿が可憐だったのと、あまりのドキドキ加減に焦って無様な醜態を晒してしまった。

 川から這い上がった俺は、全身ビッチャビチャのまま隣へ座った。大きく深呼吸をして高鳴る鼓動を抑え、気を取り直して挨拶をした。


「は、初めまして。俺は宮本三次って言います」

「初めまして。私はラムチンチ・コレロレロと言います」

「チン……レロレロ?」


 姿形はどこから見ても日本人だが名前からして外国人だろうか。

 それにしても奇妙な名前である。メアリーやジェシカなら分かる。ラムレロレロなどという舌が悶絶しそうな発音名は聞いた事がない。英語を知らないと思ってシャレを言ってるのか。それとも精神的に辱められているのか。


「いや、そのう。シャレじゃなくてさ」

「シャレって何?」

「ええっと、英語でジョークかな」

「ああジョークね」

「そう」

「あれ、美味しいよね」

「は?」

「へぇ~。あなた知ってるんだ」

「何となくだけど」

「砂糖をかけると味が濃くなるんだよね」

「……」


 なんか微妙に会話が成立していない気がする。この間もそうだったが根本的に何かが違っている感じがする。まあ、そんな細かい事はどうでもいい。とにかく今は彼女の素性を知るのが先決である。


「どこの国の人なの? 名前からして日本人じゃないよね」

「私は地球人じゃないの」

「……はい?」

「私は、惑星チージョから来たラムチンチ・コレロレロって言うの」

「わ、惑星!?」

「そう。地球的に言うと宇宙人ね」


 昨日、なんか変なモノ食ったっけ?


「う、宇宙人!?」

「そう」

「……それ、マジで言ってんの」

「うん。本当よ」

「夏の紫外線にヤラレたとかじゃなくて?」

「本当にホントよ」

「宇宙人って、どこの星の?」

「私はチージョ星人」

「痴女?」

「チージョ!」

「……」


 いきなり「私は宇宙人です」と告白され、どこの何を信用しろというのだろう。

 SF映画や小説では、宇宙船から現れた得体の知れない生物と出会い、次第に打ち解け、仲良くなってストーリが展開する。そんなパターンだ。しかも友達になるのはET的なヤツかグレーのひょろっこいヤツが相場である。


「宇宙人って、グレーで目が大きくて手足が細くて……そんなイメージだけど」

「それは地球の感覚ね。宇宙って広いから色んな種族がいるわよ」

「君みたいな可愛い子もいるんだね」

「え? いやだ、照れるじゃない!」


 俺の肩をパシッと叩き照れ笑いをした。


 状況がこれっぽっちも飲み込めなかった。

 これ以上質問しても頭の主要部分がピーッと限界音を奏でるだけなので、しばらくの間、黙って彼女の話を聞いてやる事にした。


 それによると……。



 彼女は惑星チージョという星から来た女の子だった。年齢を聞いたら14歳で地球でいうところの中学2年生。俺とタメである。

 地球に来た理由は、夏休みの自由研究として他惑星を観察するためだという。

 彼女の惑星は地球から10万光年くらい離れていて、いわゆる宇宙船に乗ってやって来た。10万光年と言われてもピンと来ないが、気の遠くなる距離であるのは間違いない。「そんな簡単に来れるの」と聞いたら、スペースワープがどうたらで深淵の歪みと時空がこうたらで、それを使えば割と移動は簡単らしい。

 所要時間は2時間弱だとか。東京~大阪間の距離なの? 10万光年って……。

 今回「なぜ地球を選んだのか」との問いに対し、学校の授業で天体観測的なモノをやっていた時に青く輝く星を見つけた。調べると地球という星で生物が生息している事が分かった。興味を惹かれた彼女は「これを自由研究にしよう」と思い、旅行も兼ねて一昨日この町に到着したという。


「そんな気軽に来れるの?」

「最近、クラスで宇宙旅行が流行ってるの」

「……さいですか」


 脳細胞が分裂しようと躍起になっていたが、冷静なフリをして続きを聞いた。


 惑星の生活はというと、地球と何ら変わりないという。太陽が輝いていて青空が広がっている。自然の木々も草花もある。遠くに見える山々まで一緒だと。

 両親がいて兄弟がいて、みんなで一緒に暮らしている。朝になったら学校へ行き、友達と遊び、夜になったら寝るらしい。

 俺の頭の中では、車が空を飛んでいたり人間が空中を散歩していたり。または、氷河に覆われた中で液体窒素を吐き出す生物だったり。そんな世界を想像していたが地球と何も変わらない日常生活だという。

 正直言って宇宙に関してさほど興味はない。小学校の時に習った太陽系とブラックホールくらいの知識力だ。広い宇宙のどこかには宇宙人と呼ばれる者が存在するとは思っていたが、それはグレー目玉のあいつだけ。

 まさかこんな可愛い子がいるとは……。


 一通り話を聞き、彼女が夏休みの自由研究で地球にやって来た。という事はハッキリした。同時に宇宙人は実際にいるという事も理解した。

 これから先の展開は読めないが、異星人と仲良くなったのは色んな意味で面白い。


「ところで名前は……ええっと、チンコレロレロだっけ?」

「違うわよ。ラムチンチ・コレロレロ」

「じゃあラムでいい?」

「うん。それでいいわよ」

「俺は三次って呼ばれてる」

「三次ね。分かったわ」

「ラムってさ、どのくらい地球に居るの?」

「一応、1週間の予定にしてるけど」

「そうかぁ~」


 自由研究でやって来たポニーテールが似合う女の子。何だか知らんが楽しい夏休みが始まりそうな予感がする。


「短い間だけどよろしくな」

「うん。よろしくね!」





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