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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
チージョ星へようこそ
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甘酸っぱい恋の味

 予想外のアクシデントで人生初の宇宙旅行を経験した。すったもんだの挙句、ようやく地球へ帰って来た。

 さすがに60万光年宇宙の旅は、神経を摩耗させ、肉体を蝕む。夢も見ずに爆睡をかましていると、ベランダの窓が乱暴に開けられた。


「き、貴様ぁ~」

「三次。覚悟はいいな!」


 2人の盗賊が乱入してきた。

 1人はロープをバシバシ引っ張りながら薄汚い笑顔をしている。もう1人は狂ったゴリラの表情で寝ている俺の胸ぐらに掴みかかってきた。


「テメェー。また裏切ったな」

「な、なんだ!?」

「男と男の約束はどうした」

「は?」

「サカリのついたイカレポンチ野郎がぁぁ」

「何で怒ってるだよ」

「問答無用だ。克己、縛れ!」

「ち、ちょっと待……」


 寝起きでダヨ~ンとしていた俺は、訳も分からないまま縛られた。克己はロープの端で俺の下腹部をサワサワした。


「今日という今日は許さないぜ」

「だから、一体何なんだよ!」

「トボケるのも大概にしろよ」

「言ってる意味が分かんねぇんだよ!」

「今日はお前にとって最悪の日になるぜ」

「理由を言え。理由を!」

「じゃあ聞くが、なぜ花火大会に来なかった」

「え?」


 完全に頭の中から抜け落ちていた。

 チージョ星へ強制的に飛ばされ、約1週間の滞在だった。1週間前の記憶など過去の産物だ。今更、花火大会と言われても俺の中では既に終わった案件である。


「そんなの大昔の事だろ」

「何言ってんだ。昨日の事だろうがよ!」

「はぁ!?」

「暑さでぶっ壊れたのか?」

「マジ……かよ」


 地球へ帰る前にパパが不思議な事を言っていた気がする。

 時空がどうたらで、空間がどうとか……。

 宇宙空間を旅すると時空に歪みが生じて時間そのものが無効になるとか。絶滅寸前の俺の脳では理解出来なかったが、要はタイムリープ的な事が起こって時間が巻き戻される。俺からすれば1週間が過ぎている。しかし2人からすれば通常の時が流れている。

 そんな小難しい状況らしい。

 あまりにも意外な展開に茫然自失になっている俺。脳みそにウジが湧いた2人には宇宙の悩みなど知る由もない。


「また女か!」

「ち、違うよ。腹が痛くて寝てたんだよ」

「嘘つけ。この所のお前は信用できん!」

「牛乳飲んだら急に腹模様が……」

「ウソだな。顔がニヤけてる」


 縛られて動けないのをいい事に、友則は後ろに回り込んでスリーパーホールドをかましてきた。


「正直に言えば許してやる」

「な、何の事ですかい?」

「まだトボケるのか!」

「牛乳にメロンシロップは止めた方がいいぞ」

「なめんな!」


 両腕にグッと力が入った。さすがは脳筋ゴリラ。意識が遠のく程の苦しさである。でもここで根性負けしたら、こいつらは俺を犬のように扱うだろう。そして気付けばご主人様とペットの関係になってしまう。


「三次。パン買って来い!」

「分かりましたぁ~」


 廊下をダッシュし、少しでも遅いと。


「何やってんだテメェー。遅いんだよ」

「す、すみませんでした」

「バツとして奢りな!」

「は、はい」


 お小遣いの全てをはぎ取られる。そしてクウゥ~ンと鳴く俺を見て、「ほら食え」と床にパンの欠片を与えられる。そうなったら俺の中学人生は闇である。

 暗黒の学校生活になったら精神に支障を来す。イジメられる恐怖で震えが止まらないだろう。報復を恐れて何も言えやしない。苦しさのあまり自ら人生を閉じたくなる時もある。

 だが、そういう時こそ弱音を吐いてはいけない。殴られても負けてもいい。立ち向かう勇気こそが未来を引き寄せるキーワードなのだ。

 朦朧とする意識の中で頑固に無言を貫いていると、克己が俺の体をクンクンし始めた。


「なんか、お前の体から女の匂いがするな」

「何だよ匂いって。お前は特殊訓練を受けた警察犬かっ!」

「甘酸っぱい匂いがする」

「……」


 こいつらの野生の感はマジで侮れん!


「おい克己。そろそろやるか」

「OK。バッチリ用意してきたぜ」


 友則の言葉に相槌を打った克己は、ポケットからタバスコを取り出した。そして下半身を丸出しにされた。


「おい克己。何をするつもりだ」

「約束だろ?」

「約束ってなんだよ」

「とぼけやがって。股間にタバスコの刑だよ」

「バ、バカなのか。お前ら」

「これはDEATHソースだ。強烈だぜぇ~」

「テメェーいい加減にしとけよ」

「じゃあ本当の事を言うか?」

「……」


 タバスコをフリフリさせてニヤつく克己。それでも頑なに拒否権を貫く姿勢に業を煮やした友則は、さらに喉を締め付けてきた。意識が飛んで白目を向きそうだった。

 絶対に負ける訳にはいかない。俺の人生はここから始まるのだ。


「貴様。なかなか根性あるな」

「て、てめぇーの攻撃なんぞ余裕……」

「もう逝くか?」

「ぐぎぃぃ」

「オラ、吐け!」

「わ、分かった言う。言うからやめろ」

「どうして来なかった?」

「う、宇宙旅行に行ってて……」

「ふざけんな!」

「マジ。マジなんだって!」


 タバスコが雨のように降りかかった。


「うぎゃぁぁ、超痛てぇぇーー。しかも酸っぱ辛いぃー」


 こんなゲスな攻撃に負けてたまるか。

 俺は宇宙を駆け巡る漢。宮本三次だぁぁ!



【第一部 完】




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