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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
チージョ星へようこそ
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花火に憑りつかれたパパさん

「三次、パパが呼んでるよ」

「何の用だろう」

「知らない」

「……」


 君はたまに「知らない」と言うが、用件を聞いてから呼びに来た方がスムーズだと思う。その辺はあまり考えていないのかい?


 よく分からないが、呼ばれたので研究室へ行った。


「おはようございます」

「おはよう。昨日は楽しかったね」

「そうですね」

「ところで三次君。君にちょっと聞きたいのだが」

「何ですか?」

「この花火というのは、原材料は何かね?」

「詳しい事は分からないですけど、火薬だと思います」

「かやく? 成分は?」

「……」


 そんなのド素人の俺が分かる訳がない。


「成分まではちょっと」

「そうか。まあ仕方がないかな」


 パパは残念そうな表情でバラバラになった花火を見ていた。

 昨日、チージョ星初の花火大会を行った。この星にはない珍しい物だけに喜ぶのは当然で、その可憐さと意外性に驚いていた。

 特にパパは甚く気に入り、燃えカス花火を分解して仕組みを調べたらしい。

 何かに引火させそれを爆発させる。ここまでは解明したのだが、肝心の使われている材料が見た事のない代物だった。

 そこで得意の科学力を駆使して成分を徹底的に調べ上げた。すると、近くの山で似た成分が産出されている事が分かった。ただ、それが火薬と同じ働きをするのかまでは判別出来ない。元素記号さえ分かれば、そこは科学者である。いかようにも組み合わせが可能だろう。


「火薬の成分さえ分かれば簡単なのになぁ」

「すいません」

「いや。三次君が謝る事ではないよ」

「……」

「それよりもご飯を食べよう」


 パパはそう言うと、俺の肩をポンと叩きキッチンへ消えた。


 少し寂しそうにしているパパを見ると心がネチョネチョする。

 何とか教えてあげたい。出来る事なら協力したいと思う。だが、火薬の成分など大人でも即座に答えられる人はいないであろう。まして頭脳が人並以上に破壊している俺には無理である。

 ただ一つだけ言えるのは、そんなヒマがあるなら早く宇宙船を完成させろ! 



 パンに得体の知れない真っ白なものを塗りつけ「にがっ!」と言い、そばつゆ色の液体を「あまっ!」と言いながら飲んでいると。


「三次君。今日の予定は?」


 唐突に聞かれた。


「予定は一切ありません」

「じゃ、私と一緒に来てくれないか?」

「どこへですか?」

「モジャチンカ山へ」

「モジャチ……ンコ山?」


 それを聞いたラムは、


「あんな瓦礫の山へ何しに行くの?」


 そう言った。


 パパの調べによると、モジャチンカ山には火薬の原材料となる硝酸カリウムだか硫黄だかがあるという。それを持ち帰って研究すれば、花火を完成させられるのではないか。そう考えたらしい。

 モジャチンカ山は、草木はおろか植物さえ生えていない岩場で、ラムが言った通り瓦礫の山だった。そんな場所へ一人で向かい、成分も曖昧な材料を採掘するのは骨の折れる作業である。

 幸い家には、ラムや俺といった体力が有り余っている若者がいる。特にチージョ星に来たはいいが何もやる事がなく、庭先でプラプラしながら風に吹かれている俺には持って来いである。

 パパやラムにも世話になっている事だし、ラムの家以外の場所も見てみたいし。

 暇なので観光がてら行く事にした。


「ここから見えるのがモジャチンカ山だよ」

「結構、遠いですね」

「えぇ、そうかい? 近いよ」


 庭先で遥か遠くに見える山を指さすパパ。

 君たちは瞬間移動を使えるから一瞬かもしれない。二足歩行しかできない俺からしたら果てしなく遠い道のりである。


「チージョ人は簡単ですが、俺の足では1日以上かかりますよ」

「大丈夫だよ。画期的な乗り物があるから」

「乗り物ですか?」

「ラム、三次君をツムーリゲバロンで連れて来てくれるかい?」


 そう指示を出すと、パパはサッと消えていなくなった。

 何度もお目にかかっているが本当に便利な能力だと思う。


「三次、これに乗って」


 ラムが倉庫から持ち出したものは、丸みを帯びたボディーに細長いハンドルが付いていた。地球でいう所のバイク的な乗り物だと思うが、どの角度から見てもカタツムリにしか見えなかった。

 殻の部分が丸みを帯びたシートになっている。殻の下にベロンと広がっている胴体はステップ台であろう。頭の部分がヒョロリと長く伸びていて、そこからツノみたいなハンドルが装着されていた。

 これに乗った自分を想像して客観的に表現すると、巨大カタツムリに跨った奇妙な若人、である。


「これって乗り物?」

「そうよ。パパが発明したの」

「スピード出るの?」

「結構出るわよ」

「時速2キロくらい?」

「バカにしないでよ!」


 見た目がカタツムリなので激遅のイメージしか沸かない。その前に、数ある生物が生息している中で何故こいつをチョイスしたのだろう。チーターとかハヤブサとか、カッコいい動物が沢山いると思うのだが。


「ほら。早く乗って」

「ホントに大丈夫? 歩いた方が早いんじゃない?」

「いいからっ!」


 半信半疑だったが後ろへ乗った。


「しっかりつかまっててよ。振り落とされても知らないからね」


 そう言った途端、音もなく飛び出した。一気に加速したカタツムリは、ものの数秒でトップスピードに達した。


「な、何だこの乗り物わぁぁ」

「手を放しちゃダメよ」

「何キロぐらい出てるのぉ?」

「たぶん80キロくらい」

「メチャ怖いんですけどぉぉ」


 未知なる乗り物でしかも球体。座り心地がツルンツルンで最低なうえ、つかまる場所がどこにもない。ラムの背中が唯一の命綱である。

 生身で乗車しているため、実際は80キロ前後でも体感では100キロ越えているように感じる。もし手を放そうものなら即終了である。


「おいラム。スピード出しすぎだぞ」

「大丈夫。私を信じなさい!」


 俺の恐怖を完全無視し、ラムはさらにスピードを上げた。


 モジャチンカ山への道のりは、のどかな風景が広がっていた。周りに建物は一切なく、大草原の地平線がどこまでも続いていた。頭上には透き通るほど真っ青な空と綿あめみたいに浮かぶ雲。遥か遠くに青黒くそびえる山々。地球では見る事の出来ない草原の大パノラマである。何だか自由を手にした感覚だった。

 俺的には、雄大な景色を眼下にチージョ星特有の爽やかな風を受けてのんびりドライブデートを期待していたのだが……。

 今の俺にそんな余裕はない。振り落とされないようにするのが精一杯である。

 激走するラムに必死でしがみついていると、途中から平坦な道が途切れてゴツゴツとした岩場になってきた。風で折れた枝や倒れた木が所々に転がっていて完全に荒れ果ててきた。


「この先、道ってあるのか?」

「……」


 俺の不安をよそに景色はさらに荒れ果て全体的に薄暗くなってきた。危険なムードが漂う中をしばらく走って行くと、ついに道が途切れた。目の前には道もない荒涼とした森である。しかしラムはスピードを緩めない。


「おい、この先、道ねぇぞ」

「ここを通った方が直線で早いの」

「は、早いって、道じゃなくて森だぞ?」

「大丈夫。任せて!」

「任せてって……森の中に入ってるじゃねぇかぁぁ」


 木々が鬱蒼と生い茂る中を猛スピードでつっ走るカタツムリとラム。木と木の間を絶妙なタイミングですり抜けて突き進んだ。たまに太ももが幹に擦れて尋常じゃないくらい怖い。その間、スピードを緩める事はなく、むしろ加速している。

 恐怖に打ち震える俺は、さらにラムにしがみついた。


「ちょっと三次。もう少し下につかまってよ」

「怖くて手なんて動かせるかよ」

「ち、ちょ、いま触ったでしょ!」

「この状況で、そんな余裕あるかぁぁ!」


 白目を向き、口から泡を吹き始めた頃、ようやく現場に到着した。カタツムリから降りた俺は息も絶え絶えだった。


 なあラム。スピードを出すのは構わない。森を突っ切るのも許容する。

 だが、猛スピードで爆走している最中に俺の手を叩いたりツネったりするな。お前の背中が唯一の命綱なんだよ。振り落とされたらシャレにならないだろうがっ! 

 つかまる胸もないクセに。



 恐怖と不安を乗り越えツムーリゲバロンから下りた俺は、辺りをグルっと見渡した。現場は草木も生えていない岩だらけの場所だった。「瓦礫の山」その言葉が似合うくらい何もなかった。

 どこからともなくツーンと鼻をつく匂いがする。山間の温泉場で嗅ぐ硫黄の匂いと同じだった。地熱のせいだろうか。地面がほんのり暖かく足の裏からジワジワ熱が伝わってくる。洞窟みたいな所から薄っすらと煙も上がっていた。

 何となく近くに温泉が湧いている気がする。花火の材料を探すより温泉源を探し当てた方がいいと思うのは俺だけだろうか。


 既に到着していたパパは、大きなカゴに石を大量に採掘していた。その中から選別したモノを丸い筒状へ砕き入れていた。花火の材料になりえるのか実験したいらしい。


「2人共、色んな種類の鉱石を探してきて」


 パパの指示に従い俺とラムは、色、形など素材の違う岩や石をかき集めた。

 パッと見では単なる岩の塊だが、よくよく調べると地球と同じで岩や土や砂などが何層にも重なっていた。上は若くて下は古い地層。その場所を調べればいつ頃に形成された地形なのか年代を特定する事ができる。

 学校の授業で習った……気がする。


「ふ~ん。こういう所まで地球と変わらないんだな」

「そうなの?」

「同じような地層が地球にも存在するよ」

「へーっ」

「アンモナイトとか埋まってないかな」

「何それ?」

「古代生物」

「ふーん」


 ラムは地質学に興味はないらしい。俺は勉強は嫌いだがロマンある話は大好きである。1億年以上前に生物が存在していたのを想像するとワクワクする。特にトリケラトプスとかティラノサウルスは小学校の時のアイドルだった。


「化石出てこないかな」


 発掘調査隊の気分で闇雲に集めていた。隣でラムが年代順にメモを取りながら集めていた。これが勉強の出来る者とそうでない者の違いである。

 あらかた砕き終わったらそれをパパの元へ運び、パパはそれらを選別して筒の中へ入れる。再び岩を削り出してパパの元へ。地味な作業ではあるが3人で手分けしながら単純作業を繰り返した。


「よし。こんなものか」


 どうやら完成したらしい。

 日本では火薬取り扱いの免許が必要だったと思うが、チージョ星に免許制度はあるのだろうか。いくら科学者とはいえ、花火に関しては素人だろう。一歩間違えば命の危険もある。


「みんな離れて。何かあると危ないから」


 少し離れた場所に筒形花火を設置して導火線に火をつけた。

 心臓がバクバクするくらいイヤな予感がする。


 3・2・1 ドガァーーン!


 腹の底から震える地響きと共に砂煙が真上へ噴き上がった。舞い上がった砂煙で前方が真っ白になり、風で煙が流れると……地面に大きな穴が開いていた。


「あれ? 量を間違えたかな?」


 パパが作ったのって花火じゃなくてダイナマイトだと思うぞ。

 それとラム。爆発した途端に俺の後ろに隠れるのは止めてくれ。俺はラム専用シールドじゃないんでね。


 その後、何回かチャレンジしたが岩を木っ端みじんに打ち砕くだけで火花は一向に噴出しない。瓦礫の山がさらに瓦礫になって終りだった。

 思うような成果が得られず、日も暮れかかってきたので一度持ち帰って続きは研究室で。という事になった。

 研究室が吹っ飛ばなければいいのだが……。





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