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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
チージョ星へようこそ
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チージョ星花火大会

 自宅へ帰ったココが夕飯を食べ終えてやって来た。

 チージョ星人の良い所は速攻で家へ帰れる事。瞬間移動が可能なため、往復は簡単に出来てしまう。悪い所は予期せぬ時に現れる事である。

 ラム家でも夕飯を食べ終え、彼女が来るまで風呂へ入ろうと窓の外で全裸になっていると……。

 突然、目の前にココが現れた。


「ひえぇぇーー。な、何事でしょうかぁぁ!」

「あっ、いや。これは……」

「奇妙な物体に襲撃されますですぅぅ」

「ちょ、ちょっと待って」

「吾輩の貞操観念が危機に直面しておりますです」

「だから、誤解だって!」

「異物に変化の兆しがぁぁぁぁ」


 慌てて洋服で隠したが時すでに遅しである。大人と子供の境目の核なる部分を見られてしまった。

 ココの悲鳴に慌てて出てきたラムが説明をしてくれたため、かろうじて変態露出狂はまぬがれた。下手をすればわいせつ物陳列罪でチージョ警察行である。

 午前中の質問コーナーで特殊能力について触れなかったので、彼女は地球人が同化の能力を持っていない事を知らなかった。


「そうとはつゆ知らず……大声を出して申し訳ござりませぬ」

「両者の最大の違いを言わなかった俺が悪いんだから」

「そうよ。三次が悪いのよ!」

「……」


 なあレロレロ。本来、お前が説明するべき項目じゃないのか?



 出会って間もないオタク娘に肉体美を凝視され、新たな快楽を発見しつつ花火の準備に取り掛かった。

 花火をするにあたり、まずは水を張る入れ物を探した。これは基本中の基本である。終った花火を入れれば火事になる心配もなく後片付けも楽である。他人に迷惑をかけずに楽しむ。これが日本人の常識である。たまに何の準備もせず公園でバカ騒ぎしている害児な連中がいる。そんな奴らは、かりんとうと間違えて犬のウンコを食べるがいい。

 俺は常識人なので真っ先に入れ物を探したのだが、この星にバケツはなかった。仕方がないので倉庫に転がっていた半円形のブツを急遽バケツに見立てた。

 余談だが、この半円形は倉庫内にいくつも転がっており、2つを合体させると球体になる。手を放すと空中にプカプカ浮かぶ。という不思議な物体だった。

 パパに「何ですか、これ?」と聞いた所、「暇な時に制作してみた」と言っていたが用途は不明だそうだ。天才の考える事はよう分からん。

 そしてメインの花火セットと……ライター?

 すっかり油断していた。ライターはその辺に転がっている存在だと思っていた。

 ここは地球ではなくチージョ星である。普段何気なく使っている物も場所が代われば話が違う。無ければ蠟燭でも構わないのだがそれも難しいと思われる。

 火をつける道具が無ければ花火はただの火薬の塊に過ぎない。この星に火をつける道具は存在するのだろうか。

 すかさず研究室へ走った。


「パパさん。この星にライターってありますか?」

「ライターって何?」

「火をつける道具です」

「何のために?」

「花火に火をつけるためです」

「何で火をつけるの?」


 ダメだ。基本がまるでわかっちゃいねぇ。


「火をつける道具がないと花火が出来ないんです」

「ライターって知らないけど、火をつける道具ならあるよ」

「じゃあ、それを貸してください」

「こんなのでいい?」


 何やら得体の知れない卵型の小さなブツを手渡してきた。


「どう使うんですか?」

「真ん中のくぼんでいる部分に触れるの」

「ああ、ここですね」


 言われた通り中央部分のくぼみに指を当てた。青白い炎が5センチ先まで噴出した。完全にガスバーナーだろ、これ!

 下手をしたら花火が一瞬でお釈迦になりそうだが、これ以外に火をつける道具がないため恐る恐る使う事にした。



 あらかた準備が整った頃、興味をそそられてパパとママもやって来た。

 全員揃った所でチージョ星花火大会の開始である。

 チージョ星人は花火を見た事がない。もちろん持ち方や遊び方も知らない。本来は何かしらの説明をした後で始めるのが妥当だと思う。

 ただ、花火自体、手取り足取り教えるほど難しい事ではない。口で説明するほどでもない。実際にやってみるのが一番手っ取り早い。


「ラム、こうやって持ってみろ」

「こう?」

「そう。しっかり握って離すなよ。いくぞ!」


 先端に火をつけた。赤青黄色の火花が四方に飛び散り、チージョ星の夜の庭に明るい花が咲いた。


「うわー-っ、キレイー!」


 全員が声を揃えて叫んだ。


「じゃ、続けてココちゃんも」

「おおっ、体の鼓動がぁぁ」

「しっかり持ってろよ」

「はいぃ」


 バチバチ音と共に青緑赤へ変化しながら綺麗な花を散らした。焼けた火薬の匂いと立ち込めた煙が夜空へ流れて行く。

 続けてパパ、ママにも点火した。庭先が賑やかに明るくなった。


「すごい。本当に綺麗ね」

「ホントだね。これは実に面白い!」


 パパもママも気に入ってくれたらしい。

 そりゃそうであろう。これぞ我が国の自慢、日本の夏である。

 年中常夏のチージョ星とは違い、日本の夏は短い。みんなでスイカ割をして、かき氷を食って、花火をやって、あっという間に過ぎ去る季節を存分に堪能する。

 これが地球の楽しみ方である。


「あっ、もう終わっちゃった」


 ラムの花火が消えた。

 そう。花火は一瞬で咲いて一瞬で消えるから儚く面白いのだ。


「よし。もう一本いくぞ」

「うん」

「今度は持ちながらグルグル回してみろ」

「こう?」


 4人は一斉にクルクル回し、花火の輪ができた。


「楽しー!」

「し、痺れますですねぇ~」


 普段は少量タイプのモノしか買わないが、ラムの手土産にと奮発して少し値の張る品を購入した。色んな種類が入っているので内容物はかなり充実していた。5人で遊ぶには十分な量である。

 ドラゴンに火をつけると色とりどり火花が噴出し、ナイヤガラはまさにナイヤガラだった。

 俺はいつもの癖で噴出花火をヒャッハーと叫びながら飛び越え、ナイヤガラの下を潜り抜けるという荒業を披露した。大道芸人ばりの動きに4人は大笑いした。

 まだまだ続くチージョ星の夏。ねずみ花火がラムの足元でパンと弾けて「キャッ」と驚き、煙幕がココの顔を包んでゴホゴホ咳き込んだ。パパが人魂花火に恐れをなし、ママが線香花火でしっとりした。

 それぞれが色んなタイプの花火を手に取り、見た事もない輝きと儚い美しさにご満悦のようであった。

 そして本日のメインイベント。連発である。若干高かったが、やっぱり60連で決まりである。

 期待に胸を膨らませている4人の視線を一心に浴びながら導火線に火をつけた。乾いた音と共にチージョ星の夜空に花火が打ち上がった。本物の迫力ある大輪は見られないが玩具としては見ごたえはある。


「これが花火かぁ~」


 初めての打ち上げに感動するパパ、ママ、ココ。


「本物はこんなものじゃない。桁違いの迫力よ!」


 本物を見たラムはちょっと気取って自慢げな顔をしていた。


 さすが60連である。何度も何度も夜空に花が咲き、そのたびに見上げて歓喜の声を上げた。明るい庭先に賑やかな笑い声が響き渡る。いつまでも続きそうな平和な時間がチージョ星を駆け抜けた。

 最後の一発が打ち上って連発が終わると、火薬匂いと静けさが残り周囲は再び夜に包まれた。


「これで収束ですかぁ?」

「持ってきた花火、全部使い切っちゃったからね」

「何とも物悲しい結末ですねぇ」

「花火ってそういうもんだ。だから楽しいんだよ」

「ふーん。そういうものなのですかぁ」


 ココを含め全員が物足りなさそうな顔をしていた。

 こうしてチージョ星の簡易夏祭りは終わった。


 チージョ星人に言った所で理解はしてもらえないと思う。

 日本人は、ただ大騒ぎしてワイワイするだけじゃない。終わった後の余韻も楽しむのがツウで、それが粋ってものだ。

 それとココちゃん。後片付けはしっかりする。自分のゴミは自分で始末する。これが地球人だから覚えておいてね。




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